沈黙の夜(トルコ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

沈黙の夜(トルコ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、5本目は

「沈黙の夜」

★★★☆☆

基本データ:
監督 / レイス・チェリッキ (Reis Çelik)
キャスト / イルヤス・サルマン、ディラン・アクスット、サブリ・トゥタル、マイシュケル・ユジェル
あらすじ
—————————–
トルコの山村に60歳の男が戻ってくる。彼は、家の名誉を守るために母親と愛人を殺害し、長年の刑務所生活を終え、やっと生まれ故郷に帰ってきたのだ。罪を犯してまで家の名誉を守ったこの男を親戚は歓迎し、妻子のいない彼に縁談を持ち掛け承諾させる。しかし、この縁談は彼のためではない。真の目的は、二つの有力な氏族の血で血を洗う決闘に終止符を打つためだった。
初夜、赤いベールを脱いだ花嫁はなんと14歳。そして沈黙の長い夜が始まる。
(公式パンフレットより)

「沈黙の夜(Night of Silence)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

今までの慣習を打ち破ることが出来るのだろうか。
そして未来へ進むことが出来るのだろうか。
トルコ映画の巨匠レイス・チェリッキ最新作。

刑務所帰りの60歳の男と彼に嫁いだ14歳の少女の初夜。
結婚初夜の翌日に、男性側の母親がシーツについた処女の印をチェックするという慣習(嫁は処女だったと言葉でなく伝える、それが一種の名誉なのだろうか)があり、「つとめ」を果たしたことを知らせる銃弾を2発、空に向けて撃たねばならない。
男のほうは夫婦になった「つとめ」を早く果たしたいのだが、少女は色んな方法ではぐらかそうとして、男は少女に翻弄されていく。

物語は、花婿と花嫁の寝室で「二人だけの会話」で進む。
男は少女の要求にこたえ、おとぎ話をする、あやとりもする。
自分の身の上に起きたことを話す。
少女との会話の中で、男が徐々に変わっていくのが分かる。

最後には、少女が「怖い」と言った髭まで剃ってしまう。
中東男性の男性らしさの象徴といってもよい「髭」を剃ることで、男は、少女のために今までの自分とは変わったのだと知らせているように感じた。

そして、夜明けが近づいたとき、覚悟を決めた二人の対照的な姿が目に映る。
少女の覚悟を決めた表情、男の悟りきった表情。
そして「つとめ」を果たしたことを知らせる銃弾の音は1発だけ。
男は自分を殺して少女を生かしたのだろうか。

「赤」と「白」の色使いが映画の世界を際立ったものにしている。
監督によると、赤はこれまで伝統や宗教、習慣といった男性優位社会の犠牲になってきたもの、白は純潔を表現しているのだそう。

最後の雪景色は、真っ白ではなかった。
男が少女のために変わり、少女を生かすことが出来たとして、果たして社会は変わるのだろうか。
中東の女性が置かれてきた悲惨な状況に焦点を当てているだけでなく、男性側の悲劇(氏族間の抗争、名誉の殺人)にも焦点を当てていて、考えさせられる作品だった。

レイス・チェリッキ監督のインタビューで、
花婿役のイルヤス・サルマンは、もともとはコメディアン仕事が嫌になり酒浸りの生活を送っているところを、今回24年ぶりに監督が口説き落として俳優業に復活してもらったそう。
少女役の女優さんの目が素晴らしくきれいで、トルコの部屋の雰囲気、花嫁衣裳など、ビジュアル的にも面白い映画だった。