「福岡国際映画祭2015」カテゴリーアーカイブ

狼が羊に恋をするとき(台湾) – 台湾映画祭2015 –

「狼が羊に恋をするとき / Red Amnesia」

★★★★★

邦題 狼が羊に恋をするとき
原題 南方小羊牧場
製作国 台湾
製作年 2012年
監督 ホウ・チーラン
上映時間 85分

<あらすじ>

遊びゴコロ満載の映像が新鮮な、台湾発ロマンティック・コメディ。

永遠の愛を誓ったガールフレンドが突然姿を消して意気消沈したタン(クー・チェンドン)は、彼女の姿を追い求めるうち、なぜか予備校が集中したエリアにある学習塾相手のコピーショップで働くことに。試験用紙を延々と印刷する退屈な日々を過ごすうち、あるテスト用紙に必ず羊のイラストが描かれていることに気づく。イラストレーターを目指す塾のスタッフ、小羊(ジエン・マンシュー)が描いていたのだ。勉強に必死な学生たちは、小羊が描く羊に気づきもしなかった。ある日、タンは、その羊の隣に狼のラストを描き加えてコピーする。すると物事は思いもよらない方向へ進み出し……。

「狼が羊に恋をするとき / 南方小羊牧場」

夢や恋に破れた敗者たちが集まる台北の予備校街(南陽街)を舞台にしたポップでキュートなラブコメディ。
台北の雑多な街並みに合わせて、予備校外に集う人々の生活を追い、主人公ふたりの話をシンクロさせていて、うまい。

オーソドックスな青春映画、というわけではないコミカルさが漫画っぽい感じもある。
最後の最後にちょっとした仕掛人がいるのも(笑)。

主人公タンが家を追い出されるところから、
これはタンの夢なんじゃない?という感じすらある。
シュールな現実からの逃避が現実になる、みたいな、
大好きな絵本作家モーリス・センダックの「かいじゅうたちのいるところ」を思い出した。

主人公ふたりはもちろん、登場人物の誰もかれも個性的だけど、
みんな夢を持ってそれを叶えようとしている人たちばかり。
そんな台北の人たちが巻き起こす最後のシーン。
ほのぼの。

映像に遊び心があって、コマ撮りやアニメーションの使い方も凝っているし、もう可愛らしくてチャーミング。
台湾映画のラブコメって本当に可愛くて嫌味がない。

小さな幸せがいっぱい詰まってて、ホウ・チーラン監督のセンスにすっかり魅了されること間違いなし!
また台湾に行きたくなった~!

赤い季節の忘却(中国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「赤い季節の忘却 / Red Amnesia」

★★★★★

邦題 赤い季節の忘却
英題 Red Amnesia
製作国 中国
製作年 2014年
監督 ワン・シャオシュアイ
上映時間 105分

<あらすじ-公式サイトより->

置き忘れた記憶が見えない恐怖を生む

北京に住むトンは夫を亡くし、一人で暮らしているが、成人した二人の息子と年老いた母親の世話で日々を過ごしている。それも息子たちにとっては傍迷惑な行為だった。しかし彼女の代わり映えのしない日常は、匿名の無言電話がかかってくるようになり狂いはじめるのだった。見え隠れする怪しい影。彼女の周りでは何かが起こり始めていた。忘れ去った文化大革命の亡霊が長い時を経て、トンを精神的に追い詰めていく…。

「赤い季節の忘却 / Red Amnesia」

一人暮らしの老女への悪質な嫌がらせをめぐる心理スリラーから、次第に明らかになる老女の過去、息詰まる展開、そして衝撃のラストへ。
終始、不穏な空気が漂っていて「ざわざわ」と心が落ち着かない。

現代中国が抱える社会問題と政治に翻弄された人生を生きてきた人たち。
文革の歴史がもたらした人生のゆがみ。

夫を亡くし、構いすぎることによって息子の家族や息子にも疎まれる一人の老女を通して、さまざまな現代社会の問題が当たり前のように描かれる。
共感しつつも、主人公が抱える、忘れようと(忘却)してきた過去の罪が明らかになってからは、もう目が離せない。

文化大革命時代に彼女が犯した罪。
「生きる」とは何か…。

ラスト、忘れようとしてきた過去の罪と向き合い、責任を取ろうと心を決めた老女が坂道を駆けていくシーン。
衝撃の展開。最後まで人生のゆがみに翻弄されてしまう老女。
人生はなんて無慈悲で残酷なんだ…。

歴史は政府だけが作るものでなく、一人一人が作るもの。
人は自分が参加した歴史の責任を取らなければならない。
ワン・シャオシュアイ監督は、そう言ったけれど。
自分の過去と向き合い、認め、責任を取ることは難しい。

独居老人、家族関係、性的マイノリティといった現代社会の問題を当たり前のように描きつつ、急激に発展した中国の歪みに巻き込まれ、望まずして自らも罪を背負ってしまった人の人生を興味深く描いたワン・シャオシュアイ監督。
三線計画で内陸部に築かれた、忘れ去られた工業都市が赤く染まる…。

実際、主人公の老女が過去に住んでいた街の建物が赤っぽくて、風景一つ取っても画力が違うし、主演のリュイ・チョンさんの演技が素晴らしかった。
「赤い季節の忘却」という日本語タイトルも秀逸なのでは。


ワン・シャオシュアイ監督、プロデューサーのリウシュエンさん。
ご夫婦なんだそう、とても素敵な笑顔の落ち着いた印象のお二人!

超人X.(ベトナム) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「超人X. / Super X.」

★★★★★

邦題 超人X
英題 Super X.
製作国 ベトナム
製作年 2015年
監督 グエン・クアン・ズン
上映時間 81分

<あらすじ-公式サイトより->

彼の職業、悪と戦うスーパーヒーロー!?

ごく普通の青年スンは偶然にスーパーパワーを身につけ、正義のヒーロー超人X.として親友のマネジメントのもと働いていた。実のところスンは自分のブティックを開くのが夢で、母親を養うのに十分なだけの金を稼ぎ、好きな男性歌手への思いを育むことができさえすれば、それで良かった。ヒーローは単なる仕事だ。しかし、裕福なわがまま娘キキの出現で、彼の日常生活は混乱をきたすのだった。果たしてスンの未来は…。

「超人X. / Super X.」

ベトナム発のB級(笑)アクション映画。
ゲイでゴキブリ嫌い、欠点もあるニュータイプのスーパーヒーロー!
面白いだろうなぁ~と思ってはいたが、予想以上に面白い出来。

まず、ヒーローがゲイという発想が斬新だし、それがネタで終わらないところ好感度アップ。
「人は誰でも性別や出自に関係なく超人になり社会貢献できる」というメッセージは、
誰でも、いつでも、誰かのために自信を持って行動できると伝えていて、なんだか真面目~。

アメコミへのリスペクト、オマージュを感じる娯楽作品になっていて、アメコミ好きだったら分かるシーン満載だった。
途中の戦闘シーンでは、中華鍋がキャプテンアメリカの盾になったり(笑)。
最後はお約束のやりたい放題、アベンジャーズよろしくだったのも面白かった。

配役が良い作品だったと思うし、エンドロールで流れる制作風景でもすごく楽しそうなのが伝わってきて、それが十分に観客にも伝わる良作。
お母さんは清水ミチコに似ていた…ご本人はベトナムの歌姫なんだそう。

肩の力を抜いて、笑える映画が観られるのも福岡国際映画祭の柔軟なところかな。


笑顔がステキなグエン・クアン・ズン監督。
丁寧にサインを書いてくれた。萌えました。

望郷のうた(トルコ・フランス・ドイツ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「望郷のうた / Song of My Mother」

★★★★★

邦題 望郷のうた
英題 Song of My Mother
製作国 トルコ・フランス・ドイツ
製作年 2014年
監督 エロル・ミンタシュ
上映時間 103分

<あらすじ-公式サイトより->

居場所を探し、往くべき道を求める

教師のアリは小説家志望。母親とイスタンブールの多くのクルド人が住むエリアに住んでいた。旧市街の高級化に伴い、親子は郊外へと引っ越しを余儀なくされた。隣人たちはトルコ東部の彼らの村へ帰ったと思い込む母親は、毎朝荷物をまとめ、村へ戻るために街中をさまよう。アリはそんな母親を優しくなだめるしかなく、母親が聞きたいという歌手のテープを街中で探すのだが、その歌声はなかなか見つからない…。

「望郷のうた / Song of My Mother」

トルコのクルド人※1の物語。
土地を追われ、今まで住んでいた村も再開発で離れざるを得ないクルドの人たち。
アリの母親はその暮らしに馴染めず、毎日村へ帰ろうとする。

若い世代の人たちは、トルコ人に紛れ、イスタンブールの暮らしにも馴染んでいる。
主人公のアリもそんな中の一人だ。

そんな中、お母さんが聞きたがるクルドの古い歌。
国を持たないクルド人は歌で歴史を伝えるそうだ。
カセットテープを探しに出かけるアリだが、なかなか見つからない。

処理しきれない行き場のない気持ちを、心のなかに埋葬しているようなシーンがたくさんで、観ていて辛いし長い。
ただ、最後は、クルド人の尊厳を持ち続け「見えないところに隠していたもの」を取り出すことが出来た主人公に胸が熱くなる。

※1 クルド人はトルコ、イラン、イラク、シリア、アルメニアの隣接する国境の山岳地帯に分布し生活。今回の映画はトルコのクルド人が主人公。


俳優アジズ・チャプクルトさん。彼もクルド人。
最初のシーンで「カラスの寓話」をする教師役で登場。
このシーンがなければ、最後のシーンが活きてこない。

インビジブル(フィリピン・日本) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「インビジブル / Invisible」

★★★★☆

邦題 インビジブル
英題 Invisible
製作国 フィリピン・日本
製作年 2015年
監督 ローレンス・ファハルド
上映時間 135分

<あらすじ-公式サイトより->

見えないよう、見ないように生きること

日本を舞台にフィリピン人出稼ぎ労働者の苦悩と悲哀を描く。日本人男性と結婚したリンダ、不法滞在労働者のベンジー、ホストのマニュエル、建設作業員のロデルという4人を通して、移民労働や国際化が抱える問題をベースに「生き抜く」という人間の基本的な欲求そのものを静かに熱く表現していく。本映画祭でもおなじみのファハルド監督が福岡市、北海道・旭川市で撮影を敢行。福岡フィルムコミッション支援作品。

「インビジブル / Invisible」

守りたいのは家族

福岡国際映画祭ではお馴染みのローレンス・ファハルド監督の作品。
福岡と旭川を舞台に、90年代末頃の不法滞在フィリピン人たちが息をひそめて生きる姿を淡々と描いている。

守りたいのは家族。
小さなコミュニティの中で、家族のために団結もするし、裏切りもする。

「家族のため」に自分を犠牲にして異国で働く人たちの人生。
フィリピンの人たちは海外からの送金を受け取るのは当たり前で、
海外で働き送金する人たちのことを「ヒーロー」と呼び、良い暮らしをしていると思われているのだそう。

映画の中でも「次は○○○を送ってね」と電話でやり取りをするシーンがある。
でも現実は…大変な思いをしながら家族にお金を送金しているのだ。

日本人男性と結婚し日本で生活するリンダ、
不法滞在労働者のベンジー、
ホストのマヌエル、建設作業員のロデル。

4人の主人公を通して「生きる」ことの意味を
とてもフラットな客観的な視点で、静かに映し出している。

その静けさがクライマックスに近づくにつれ
少しずつ破られていくあたり、やはりファハルド監督。
負の連鎖を描かせたらピカイチだわ…。


「福岡に恋した、いつか福岡で映画を撮りたいと思っていて実現できた」と
言っていたローレンス・ファハルド監督。
日本で、そして福岡で映画を作ってくれてありがとう!


また「ロッキンロール!」って書いてる(笑)
来年、再来年も映画祭で待ってます。

蒼ざめた時刻(タイ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「蒼ざめた時刻 / The Blue Hour」

★★★★★

邦題 蒼ざめた時刻
英題 The Blue Hour
製作国 タイ
製作年 2015年
監督 アヌチャー・ブンヤワッタナ
上映時間 96分

<あらすじ-公式サイトより->

現実と幻想のはざまで彷徨う魂の行方

ゲイであるタムは孤独だった。学校ではいつもいじめに遭い、家族からも疎んじられ居場所がない。ある日、インターネットで知り合ったファムという謎の少年と朽ち果てた豪邸で会うことになった。二人の関係が親密になるにつれ、タムの心の中の闇が芽吹いてくる…。シャープな映像美で、あいまいな時のはざまを揺れ動く少年の魂を描くホラータッチの青春映画。短編映画で注目されていた監督の長編劇映画第1作である。

「蒼ざめた時刻 / The Blue Hour」

映像と音にビクつく96分。
アート(映像美に圧倒される)であり、ホラー(アジアの嫌~な感じの不気味感)であり…
観終わったあとの不思議な感覚。

夢か現か幻か…観る人によってさまざまな解釈が出来るこの作品。
タイでは、昼でもない、夜でもない、この束の間の短い時間を「ブルーアワー」と言うのだそう。

その束の間の時間(=思春期)は、それまで経験したことのなかった激しい情緒を経験し、本人もそれをうまく理解できずに振り回されてしまう。
身体的な変化にとまどうとか、依存と自立の間で揺れるとか。
タムとお母さんが対峙する場面のお母さんの無表情がもう怖い。
どこまでも深く、複雑なブルー。

プールのカットもごみ収集所のカットも記憶に残っているけど、主人公タムが澄み切った青空の下、塀の上を歩くシーンがきれいで目を見開いてしまった。

アヌチャー・ブンヤワッタナ監督も色を意識して作ったのだそう。
またこの作品が7日間で制作されたということも驚き。
今年の作品でもう一度観たい、と思った作品!!
(スケジュールの都合上、見られなかったので再上映求む…)

アヌチャー・ブンヤワッタナ監督とプロデューサーのドーンサロン・ゴーウィワニチャさん。
男性なのだけど、身のこなしが優美で魅了されてしまったよ!
タイの映画好きだから、もっと上映して欲しい。

Little Big Master(香港) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「Little Big Master」

★★★★★

原題 Little Big Master
英題 Little Big Master
製作国 香港
製作年 2015年
監督 エイドリアン・クワン
上映時間 112分

<あらすじ-公式サイトより->

健気な子どもたちと情熱園長の物語

都会の有名幼稚園の園長だったロイ・ワイホンは、エリート層の英才教育に疲れ、職を辞すことにした。そうすれば、博物館で働く夫と世界中を旅するという夢をかなえることもできる。ある日、閉鎖されそうな村の幼稚園の園長と保育士を兼ねる求人広告が目についた。そこに通う5人の園児たちと出会い、子どもたちの不安定な将来が心配になった彼女は薄給ながらもそこで働くことを決心する。実在の人物を元に描かれた感動作。

「Little Big Master」

アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015「福岡観客賞」恭喜~!

みんな誰かの大切な人。

閉園寸前まで追い込まれた村の幼稚園で、貧しい家庭の5人の園児たちを助けようとする園長の実話に基づく感動ストーリー。
園長の想いはまず夫へ、そして園児から園児の保護者、村人、最後には香港中へ伝染していく。

貧しくても一生懸命生きる人たちのピュアな気持ち、熱い思い、失わない人間らしさ。
そして夢を見ることの素晴らしさを教えてくれる映画になっている。

肩の力を抜いて素直に観られるし、
これでもかってくらい泣かせられたけど、最後には温かい気持ちになった。
人生のどこかで、自分の生き方を変えられるような出会い、素敵だね。

5人の園児たちの可愛いらしさと言ったら!
それだけでも観る価値アリ(笑)。


エイドリアン・クワン監督、脚本のハンナ・チャンさん。

ちょっとコワモテかと思いきや、自分の映画を観て泣いちゃう、挨拶やQAでも思い出して泣いちゃう、本国では「泣き虫監督」なんて言われているらしいエイドリアン・クワン監督(笑)。

情熱的に「映画を通して世界を変えていきたい、きっと変えることが出来る。夢は必ず叶う。」と力強く語っていたエイドリアン・クワン監督とハンナ・チャンさん。
とても素敵でした。
納得の観客賞受賞作!!

最近の香港映画、とてもいいね!
2013年の観客賞受賞の「狂舞派」も香港映画だったし。
分かりやすいっていうのも良いのかも。

生きる(韓国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「生きる / Alive」

★★★★☆

邦題 生きる
英題 Alive
製作国 韓国
製作年 2014年
監督 パク・ジョンボム
上映時間 175分

<あらすじ-公式サイトより->

それでも、もがきもがいて生きていく

建設現場で働くジョンチョルの人生は何ひとつうまくいかない。賃金を横領し逃げたチーム長の代わりに賃金を催促する同僚たち、両親を亡くしその後遺症で精神を病んだ姉、姉の代わりに世話しなければならない姪。建設現場での職を失った彼は、冬を越すために江原道の味噌工場で働き始めるが…。そこにも厳しい現実が待ち受けていた。生きるためにもがく姿を淡々と、そして力強く描いた作品。監督自身主役を演じる。

「生きる / Alive」

「あるところには”ある”」極限の不幸。
生まれながらに格差があり、資本主義の渦に巻き込まれる。

生きることができない。
死ぬこともできない。

細々と愚直に生きていく人たちに、畳みかけるように降りかかる不幸。
不幸の連鎖が止まらない。
何一つうまくいかない。
それでも生きていかなければいけない辛さ。

ジョンチョルは、これ以上失うものが無いというところまで落ちたときに気付く。
お金を横領して逃げたチーム長の家の玄関ドアを外したが、外すことでは幸せになれないことに。
厄介だと思っていた姉に「出ていけ」と追い出したが、追い出すことで幸せになれないことに。

姉がいつか家に帰れるように、街灯を付ける。
チーム長がいつか家に帰れるように、玄関のドアを付けに行く。
最後に、人間らしく「生きる」姿を見せるジョンチョルに涙。

姉の娘「ハナ」は、ひとつの希望(ハングルでハナはひとつという意味)となる存在であり、ジョンチョルの、そして将来の希望の光なのかもしれない。

脚本・主演ともパク・ジョンボム監督が務めている。
今回は自分が演じることを想定して脚本を書いたそう。

未熟なざくろ(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「未熟なざくろ / Unripe Pomegranates」

★★★★★

邦題 未熟なざくろ
英題 Unripe Pomegranates
製作国 イラン
製作年 2014年
監督 マジドレザ・モスタファウィ
上映時間 80分

<あらすじ-公式サイトより->

小さな幸せに陰を落とす残酷な現実

エンシとザビはテヘラン郊外に住む夫婦で、将来性のない仕事に就ついている。妻のエンシはアルツハイマーに苦しむ老女の世話を、夫のザビは高層ビル建設の溶接工として働いていた。若い夫婦はそんな安定しない暮らしにも関わらず、子どもも生まれてくる予定で幸せな日々を送っていた。しかし現実の運命は残酷で、彼らの思い通りにいかない…。監督デビュー作となる本作はモスクワやサンパウロの映画祭で好評を博した。

「未熟なざくろ / Unripe Pomegranates」

8年連れ添って子供を授からない事に悩みながらも、慎ましやかに、お互いを尊重しあいながら暮らす若い夫婦。
仕事が終わるとバス停で待ち合わせて一緒に帰る。
決して豊かではないけれど、幸せな日々。

そんなある日、工事現場での事故で昏睡状態になってしまう夫。
そして、エンシが世話をしている老女もついに施設に送られることになってしまう。

突然訪れる不幸に絶望するエンシだったが、
現実を受け入れ、かすかな希望を見出し、自立していく。

最後の線路を歩くシーンは、
運命の過酷さに立ち向かい、生きることの尊厳、優しさ、バイタリティーを感じた。

ヒロインのエンシの声がとても素敵だし、映像が素晴らしく、魅了される。
ダウン症の子にもらう白い羽、世話をしている老女からもらう赤ちゃんの靴下など、細かな描写もステキ。
やはり、イラン映画にハズレなし。


主演女優のアンナ・ネーマティさん、マジドレザ・モスタファウィ監督。
アンナさん、すごくすごく美しい!
キャリア20年で、この映画は自分にとってもすごく印象に残る映画になったとのこと。

山嶺の女王クルマンジャン(キルギス) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「山嶺の女王クルマンジャン / Kurmanjan Datka Queen of the Mountains」

★★★★★

邦題 山嶺の女王クルマンジャン
英題 Kurmanjan Datka Queen of the Mountains
製作国 キルギス
製作年 2014年
監督 サディック・シェル・ニヤーズ
上映時間 136分

<あらすじ-公式サイトより->

美しく繰り広げられる一大歴史叙事詩

19世紀、中央アジアにおいてキルギス人の誇りを貫いた高地民族の女王クルマンジャン・ダトカの生涯を壮大なシルクロードの大自然を舞台に描いた歴史ドラマ。19世紀初頭、クルマンジャンは裕福な家族に生まれた。18才になったクルマンジャンは家族の都合で見知らぬ男性と結婚するはめになるが、なんと彼女は初夜に逃げ戻ってくるのだった。やがて、キルギス統一をめざす青年アルムベクに見初められ妻となるが…。

「山嶺の女王クルマンジャン / Kurmanjan Datka Queen of the Mountains」

初めてのキルギス映画!
キルギスの二大英雄の一人、クルマンジャン・ダトカの一生を理解できる史実に基づいた映画。

キルギスにこんな歴史があったのか。
キルギスの部族間の争い、ロシア帝国による併合、クルマンジャンの波乱万丈の人生がキルギスの歴史そのもの。

夫のアルムベクは志なかばで殺されてしまうのだが、公正で威厳あるクルマンジャンは、リーダーシップを見初められ、ダトカの後継者に任命される。
彼女の尽力によりキルギスの40族は団結し、一度は敵を追い払ったものの、大砲まで持っているロシア兵に、このまま闘い続けることは無益であと悟るクルマンジャン。
ロシアの宗主権を認める書類に調印する。

その後、部族民とロシア兵との間で突発的な衝突などはあるものの、ある程度の落ち着きを取り戻した矢先、息子が銃器の密輸で逮捕されたという知らせが。
息子は集まった味方たちとロシア兵に攻撃を仕掛けることを計画していたのだが、そこへクルマンジャンが馬に乗ってやってくる。
静かに首を横に振るクルマンジャン。
ここで反乱してはキルギスの部族が窮地に立たされてしまう、という母の想いを理解した息子は自ら死刑になるのだった。

クルマンジャンは、ロシア帝国併合後も女帝として丁重に扱われ、キルギス独立を見届けることは出来なかったが、96歳まで生きた。
キルギスで見かけるモニュメントは、大体マナス王かクルマンジャン・ダトカのどちらかだそうで、クルマンジャンは紙幣にもなっている。

風景も衣装も美しく、俳優さんすべてが魅力的。
中央アジアのダイナミックで情緒ある景色。
2時間超の大作だけど見飽きない。

クルマンジャンが無私の心で守った小国の尊厳、勇気が、大国に翻弄された他の小国(フィンランド)にも受け継がれたという最後のシーンは秀逸だった。


左からアソシエート・プロデューサー/出演:イディリソワ・チョルポンさん、主演女優のエリナ・アバイ・キズィさん。
お二人とも眩しいくらいキレイ。

クルドサック(インドネシア) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「クルドサック / Kuldesak」

★★★★☆

邦題 クルドサック
英題 Kuldesak
製作国 インドネシア
製作年 1998年
監督 リリ・リザ、ミラ・レスマナ、ナン T.・アハナス、リザル・マントファニ
上映時間 110分

<あらすじ-公式サイトより->

俺たちの明日は?行き止まりの青春群像

今やインドネシア映画界の中心的存在であるプロデューサーのミラ・レスマナ、監督のリリ・リザが若き日に、女性監督ナン・アクナス、リザル・マントファニらとともに製作したインドネシア・ニューシネマの草分となった作品。また彼らの職業映画人としての出発点でもある。都会の片隅で夢を持ち生きる若者たちを、4人がそれぞれに短編映画として撮り、1本の作品に再構成した。各自の個性とみずみずしい感性に溢れた作品。

「クルドサック / Kuldesak」(予告編なし)

4人の主人公をめぐる4つの物語を4人の監督が別々に撮った作品を1本にまとめた映画。
オムニバス映画ではないところがミソ。

映画を撮りたいアクサン、(ミラ・レスマナ監督)
カート・コバーンに心酔するアンドレ、(リリ・リザ監督)
テレビの人気者に恋するディナ、(ナン・T・アナハス監督)
キャリアウーマンのリナ。(リザル・マンファトニ監督)

一見それぞれで話が進んでいるようなのに、
最後には同じところにたどり着くような、なんというかメビウスの輪のような感じ。

4人の監督のスタイルが違うので、
どの監督がどの作品を撮ったのか予想しながら見ると更に面白いし、
どの国でも、どの世代でも、若者が夢中になるものは一緒なんだぁ~と感慨深いものがあった。
パルプフィクション、カート・コバーン、ドアーズ、そしてテレビの人気者に恋したもんだったよね。

スハルト政権下で撮った作品で、スハルトが失脚後公開になった、
インドネシア映画の新しい時代の始まりを告げる伝説的作品だそう。
ダニー・ボイル監督(トレインスポッティング等)や、
ジム・ジャームッシュ監督(ストレンジャー・ザン・パラダイス等)が好きだったら、ぜひ。


左から、梁木ディレクター、リリ・リザ監督、ナン・T・アナハス監督、ミラ・レスマナ監督。
ミラ・レスマナ監督は、現在はプロデューサーとして活躍。
リリ・リザ監督とよくタッグを組んでいる。

黄金杖秘聞(インドネシア) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん) / The Golden Cane Warrior」

★★★★☆

邦題 黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん)
英題 The Golden Cane Warrior
製作国 インドネシア
製作年 2014年
監督 イファ・イスファンシャ
上映時間 110分

<あらすじ-公式サイトより->

野望、陰謀、そして復讐。最強は誰だ!

インドネシア映画界を代表する監督リリ・リザとプロデュサーのミラ・レスマナが製作。
『聖なる踊り子』のイファ・イスファンシャ監督がオールスターキャストで放つアクション大作。
武術者の権威である黄金の杖をめぐって、格闘技アクションが炸裂。
武術の師匠は若い4人の弟子の中から、奥義を伝える後継者に一人の少女を選んだ。
しかし、それを不満とした二人の弟子たちとった行動は…。野望のため陰謀がうずめいていく。

「黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん) / The Golden Cane Warrior」

オープニング上映「黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん)」を観てきた。
リリ・リザ監督、主演のニコラス・サプトラさん、イケメン!

インドネシアの子供たちが熱中したコミックの神話的記憶の再現で、インドネシア映画界空前のスケールのアクション大作!
ワイヤーアクション、棒アクション(?)の連続に目が離せない。

主人公のダラは、秘技を習得し成長していくにつれて
もともと凛々しい顔立ちがどんどん引き締まっていく。
ダラと一緒に闘うことになる若者エランは、さすがの強さ、そしてイケメンである!!!

黄金杖を使った秘技はペアでなければ威力を発揮しない。
この二人が力を合わせて、あしたのジョー的な必殺技クロスカウンターを食らわす、
という王道の勧善懲悪ストーリー。
力を抜いて楽しめる作品になっているし、オープニングにはピッタリの映画。

インドネシア南部なのだろうか、
空の色、乾いた土地、みずみずしい森、すべての自然が美しいし、映像がキレイ。

そして実はマルコメ アンギン君が一番強かったんじゃないかと思っている午前2時。