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大芝居(韓国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「大芝居 / The Great Actor」

★★★★☆

邦題 大芝居
英題 The Great Actor
製作国 韓国
製作年 2016年
監督 ソク・ミヌ
上映時間 108分

<あらすじ-公式サイトより->

ベテランが役者魂をかけた大喜劇!

しがない舞台俳優のソンピルが突如、話題作の重要な役に抜擢された。しかし所詮は脇役風情、うまく演じ切れるわけがない。さらには予期せぬアクシデントに見舞われ降板の危機に直面する。そこでソンピルは一世一代の大芝居に打って出た!ヒット作では必ず顔を見る名脇役オ・ダルスが主演を務める。

大俳優を夢見る20年目無名俳優チャン・ソンピルの物語

児童劇「フランダースの犬」のパトラッシュ役専門で20年目、大学路(テハンノ)で劇団員として伝統的な演劇を守っているソンピル。
劇団生活を共にしたソル・ガンシクが国民的俳優になるのを見て、いつか自身も大俳優に!と思い続けています。

紆余曲折あり、ジレンマを乗り越えて、大事なもの(こと)が見えたときのソンピルの笑顔は、うまくいかない時期でも「やり続ける」ことが、最終的には実を結ぶってことを教えている気がして、すごく良かったです。

名脇役オ・ダルスって誰よ

韓国では、名脇役=オ・ダルス ってくらいの俳優さん。
国際市場で逢いましょう」にも出演。
鼻の下のほくろが特徴的、一度見ると忘れない、それが オ・ダルス。

この オ・ダルスの初主演作のこの作品。
ストーリーでも主役じゃないところがなんかうまいなって思ったり。

この映画には他にも有名俳優が出てまして、私が大好きな「グエムル」に出てたユン・ジェムンがソル・ガンシク役で出ています。

Q&A聞きました


ソク・ミヌ監督、ユン・ジェホPDが来福。
パク・チャヌク監督の助監督を⻑年勤め、本作で⻑編監督・脚本家としてデビュー。
「オールド・ボーイ」でオ・ダルスのファンになった監督が「いつか自分が映画を撮る時に主演してほしい」との約束を果たしてくれた裏話をしてくれました。

アニメ「フランダースの犬」の「ランランラーン、ランランラーン」の歌を歌うシーンがあるんだけど、ソク・ミヌ監督も子供の頃に「フランダースの犬」を観ていたんだって。
みんなが口ずさむことができるあの歌の世界観を壊さないように、同じ音楽を使ったらしい。私も一緒に口ずさんだし~!

タイトルは原題のまま「大俳優」でも良かったんじゃないかなーって思うけど、どうなのかな~?
笑いあり、涙あり、両足から血だって出しちゃうし、骨折だってしちゃう。
最後は感動、素直にエンターテイメントとして楽しめる、韓国映画はやっぱりこういうの「ウマイ」の一言。

預言者ムハンマド(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「預言者ムハンマド / Muhammad, the Messenger of God」

★★★★☆

邦題 預言者ムハンマド
英題 Muhammad, the Messenger of God
製作国 イラン
製作年 2015年
監督 マジド・マジディ
上映時間 158分

<あらすじ-公式サイトより->

壮大なスケールで描く宗教史劇

これまで本映画祭で、多くの秀作を発表してきたマジド・マジディ監督最新作。預言者ムハンマドを通してイスラム世界を描く一大歴史絵巻。本作の音楽を『スラムドッグ$ミリオネア』などで知られるインドの作曲家・A.R.ラフマーンが担当。ラフマーン氏の福岡アジア文化賞大賞受賞を記念しての特別上映。

預言者ムハンマドって誰?

この映画を観る前に、ムハンマドやイスラム教について少しでも知っていると映画が面白くなる!というわけで、少しだけ書いときます。

ムハンマドは、イスラム教の創始者。
モーセ、イエスその他に続く、最後にして最高の預言者でありかつ使徒と言われていて、ムハンマドが神からの啓示を受けたのが40歳頃(西暦610年頃)。
イスラム教は、ムハンマドを通じて人々に下したとされるコーランの教えを信じ、唯一絶対の神(アッラーフ)を信仰しています。

イスラム教の誕生は紀元7世紀、キリスト教は紀元1世紀、仏教が紀元前6世紀ということなので、歴史的には少し新しめってことになりますね。

預言者ムハンマド、圧巻の160分

ムハンマドの誕生から少年時代を描いた歴史ドラマ。
イスラム世界、イスラムの教えの根本を訴えていて、迫力あるシーンもあり、見応えのある160分。

イスラム教は、唯一絶対の神(アッラーフ)を信仰しているので、主人公ムハンマドの顔(表情)は赤ちゃんの時からずーっと見えないようにしてあるのも興味深くて、映像と音楽、セリフで魅せていて良かったです。
ムハンマドが神からの啓示を受けたのが40歳頃とのことなので、映画の中では「特別な子」としてスポットが当たってはいるんですけども、ムハンマドを巡る周りの大人たちのドラマとも言えそうでした。

音楽も映像も衣装も素晴らしかったです。
音楽は「スラムドッグ$ミリオネア」で数々の賞を受賞しているA.R.ラフマーンが担当。
福岡アジア文化賞受賞2016を受賞したとのことで、ラフマーンさんが来福されていました。

実は3部作らしいよ

調べたら全3部作らしい…
この1作目を7年かけて作ったらしいので、ちょっとこれどうなるんでしょうか。
2部、3部も期待ですねー。

チャールトン・ヘストンの「十戒」「ベンハー」とか好きな方は、観られるとよろしいかと思います。映像的には「ロード・オブ・ザ・リング」や「300-スリーハンドレッド-」とか、そっち系好きな方も。

エチオピアの王のイメージってまさにあんな感じだよなぁ~
「ロード・オブ・ザ・リング」のじゅう遣いのあの目張り入れてゴージャスな感じ。
だからこそ、イスラムの質素な感じが映えるのだけどもー。

私はすごく面白かったです。
160分あっという間!

再会の時~ビューティフル・デイズ2~(インドネシア) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「再会の時~ビューティフル・デイズ2~ / What’s With Love 2」

★★★★☆

邦題 再会の時~ビューティフル・デイズ2~
英題 What’s With Love 2
製作国 インドネシア
製作年 2016年
監督 リリ・リザ
上映時間 125分

<あらすじ-公式サイトより->

大人になったふたりの恋の行方は?

2002年製作の青春ロマンス映画「ビューティフルデイズ」の続編。14年後、当時高校生だった主人公たちもそれぞれ人生を歩んでいた。結婚を控えたチンタは、女友だちたちと古都ジョグジャカルタを旅行する。その時偶然、NYで暮らすかつての恋人ランガが、母親に会うためにジョグジャカルタを訪れていた…。

日本劇場公開2005年「ビューティフル・デイズ」の続編。
オープニング上映での鑑賞。

↓↓↓ネタバレ注意↓↓↓

まずは「ビューティフル・デイズ」を観ないと


女子高生チンタは、仲良しグループのリーダー的存在。
詩を書くのが得意なチンタは仲間から「校内作詩コンクール」の優勝は今年も決まりだと思われていたが、優勝したのはランガだった。
チンタはランガを意識し次第にひかれていくが、ランガと親しくなればなるほど、それまで仲良く付き合っていた親友たちとの関係が、ギクシャク。
インドネシア語で「愛」と言う意味の名前を持つ少女チンタの恋と友情の悩みを描いた作品。
インドネシアで動員250万人というヒット作となった青春映画。

うんうん。
昔の記憶をグィーッと引っ張ってこないともう思い出せないんだけど、高校生の女子ってこんなんよねー。
あるある、って思いながら観ました。

青春映画の王道って感じの映画だったんだけど、
当時のインドネシア中流家庭ってこんな感じだったのか、とか、ランガの境遇なんかはすごく興味深かったです。
高校生たちは日本と全然変わらない。

で、今回上映されるのは、当時高校生だった主人公たちが時を経て、すっかり大人になっている二人のストーリなんですね。

「ビューティフル・デイズ2」なんです

「ビューティフル・デイズ」で最終的に遠距離恋愛で付き合うことになったチンタとランガだったんですが、14年の間にお別れ…。
みんな大人になっていて、それぞれの生活があるけど、高校の頃の女子友達とは今でも仲良しのチンタ。
そんなチンタは新しい恋人にプロポーズされ、結婚することに。
そこでランガの登場です!

ランガはやっぱり昔のまま癖のある男だし
チンタは気が強いところは変わっていない女で

人はそんなに簡単には変われないし
気付いたときにはもう遅いってこともあるぞ、そこに気付けるかどうかチンタ!
ランガは気付いてるんだけど、詩で伝えるって…あーもうじれったいわ!
二人とももちょっと成長してようよーってちょっと思ったんだけど(笑)

二人がジョグジャカルタを街歩きするシーンはすごくイイです。
人々の生活も垣間見えるし、素晴らしい風景と二人がすごく絵になるので素敵。

たぶん。
リリ・リザ監督が、チンタとランガにずっと恋してて、14年の時を経て撮った作品なんじゃないかな、と勝手に思って、勝手にほっこりしています。
王道のラブストーリーを観たい方はぜひ。

「ビューティフル・デイズ」を観てから「2」を観ると
このシーンあったなぁ~、とか思いながら観られるので、どちらも観たほうがイイです。

昨年上映の「黄金杖秘聞」に出演、ランガ役のニコラス・サプトラさん、
チンタ役のディアン・サストロワルドさん、他俳優さんたち、
リリ・リザ監督、ミラ・レスマナプロデューサーも来福されていて、期間中に観る方はQ&Aもご参加あれ。

邦題の「ビューティフル・デイズ」はどーもピンと来ない

インドネシア語で、チンタ=愛 という意味らしいんです。
チンタ=愛 という主人公の名前を出した原題どおりに「チンタ(愛)に何があった?」のほうが良かったと思うのね…

いつか、また(中国)– 福岡アジアフィルムフェスティバル2015 –

「いつか、また / The Continent」

★★★★★

邦題 いつか、また
英題 The Continent
製作国 中国
製作年 2014年
監督 ハン・ハン
上映時間 104分

<あらすじ>

男三人の中国大陸横断の旅を描く青春ロードムービー

中国の東の果てにある島で生活している3人の若者が、広大な中国大陸を横断しようと決意。旅の過程で、幼なじみの女性、文通相手、コールガール、バイカーなどとの出会いと別れを経て、さまざまな経験をした彼らは、ついに大陸を横断することに成功し、あるものを目にする。

「いつか、また / The Continent」

「初日で兄貴達と別れて、3年待ってる」

中国の東の果てのある小さな島で生まれ育った3人組。
そのうち1人が西の果ての小学校に転勤することになり、残りの2人が車で赴任先まで送っていくことに。

この3人のストーリーかと思っていたら、3人のうち1人は早々にまさかの離脱(笑)。
そう、これこそが冒頭の「初日で兄貴達と別れて、3年待ってる」の一人。

後に、ライダーが加わり、旅はまた3人になるんだけど、
彼もまた想定外の離脱で消えるので、この物語の主人公は、ジャン・ホーとハオ・ハンのふたり。

ハオ・ハンは、豪快で楽天的、でも実は内面がもろい男。
小学校教諭ジャン・ホーは、一見情けなく見えて、芯の強い男。
旅が進むにつれて、ハオ・ハンとジャン・ホーの立場が逆転してくるところも絶妙なのだ。

ロードムービーにありがちな友情物語、成長物語ではない感じが新鮮、
どこか突き放してる感じが心地いい。
原題は「後會無期」で、意味的には「もうきっと会わないでしょう」といったニュアンスということだから、その後のことは自分で考えといてという感じか。
いろいろ疑問に思う部分があるのに、
その辺はまったく回収されないところも「後會無期」ということかもしれない。

大事な車を乗り逃げされたハオ・ハンに
ジャン・ホーが言った言葉「あいつの話にだって真実はある」。
この映画にだって真実が散りばめられてる(笑)。

音楽で小林武史も参加している本作、
台湾、中国の有名俳優満載らしく、中国でハリウッド作品を抑えて堂々の1位を獲得したらしい。

とにかく、全編を通して笑える、俳句の世界みたいなロードムービー最高。
もう一度観たい秀作なのだった。

ダークホース(ニュージーランド) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「ダークホース / The Dark Horse」

★★★★★

邦題 ダークホース
英題 The Dark Horse
製作国 ニュージーランド
製作年 2014年
監督 ジェームス・ネイピア・ロバートソン
上映時間 124分

<あらすじ-公式サイトより->

勇敢に立ち向かう気持ちが伝染する

実在したマオリ族のチェス・プレイヤー、ジェネシス・ポティーニを主人公に描く情熱的なドラマ。ジェネシスは地方のチェス・チャンピオンだったが、精神を患い入院していた。退院後、ギャングがたむろする兄弟の家で生活するが、そんな荒れた日々から何とか脱出したいと模索していた彼は、地域の子どもたちにチェスを教えるクラブを開設する。そして、わずか6週間後に開催される全国大会に彼らを出場させると公言した…。

「ダークホース / The Dark Horse」

マオリ族の精神疾患を抱えるチェスの天才が、自らはホームレスになっても貧困家庭の子供たちにチェス教え、希望や夢を与えていく。
弱小チェスクラブを勝利に導くという王道ストーリーに、主人公ジェネシスと兄+息子マナの葛藤を描いていて、個人的には文句なしの観客賞!

マオリ族は誇り高き先住民族だが、現代社会の中では多くの問題を抱えてるらしい。
実際、ギャングも多いらしく、この映画でのギャングの描き方で脅迫を受けたと笑って答えるプロデューサーのトムさん(笑い事じゃないよw)。

ただ、映画で描きたかったのは、そうした難しい問題があったとしても、それを乗り越えていくヒーローの姿だったとのことで、ギャングの脅迫を受けてもこの映画を作り上げた「ダークホース」チームと、実在の人物たちへ心からの拍手を送りたい。

マオリ族の神話などは、知らないことばかりで新鮮だったし、最初のシーンでジェネシスが雨の中、手を広げているシーンは美しすぎてそれだけで感動した。
映像はとても洗練されていてハリウッド的、今年のロッテルダム国際映画祭では観客投票でぶっちぎりの第1位を獲得というのも納得。
再上映求む!

さて、ジェネシスが持っているマオリのチェス。
駒ひとつひとつがとてもカッコよかった。
あの駒はジェネシスのものなのか聞いたら、映画用に作ったとのことで、世界に1つしかないそう。
今はトムさんがこっそり!持ち帰って飾っているらしく(笑)、その中のひとつを頂戴って言ったら、いいよ!って…
軽いよ、軽すぎるよ~!

ノリが抜群によくて、熱いハートを持ったトムさんの笑顔、どうぞー。

その夏に抱かれて(台湾) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「その夏に抱かれて / (Sex) Appeale」

★★★☆☆

邦題 その夏に抱かれて
英題 (Sex) Appeal
製作国 台湾
製作年 2014年
監督 ワン・ウェイミン
上映時間 107分

<あらすじ-公式サイトより->

実話を元に学内セクハラ事件を描く

バイは音楽家への夢を実現するため、母親の束縛から逃れるように台東の大学に入学する。そこで出会ったムホンは彼女に想いを寄せるが、都会育ちの彼女を前になかなか告白できない。しかし彼女は指導教官であるリーから関係を迫られるのだった…。台湾を代表する俳優で監督も手がけるレオン・ダイがリーを演じ、金馬奨助演男優賞にノミネート。またビビアン・スーが大人の魅力満載で敏腕弁護士をクールに演じる。

「その夏に抱かれて / (Sex) Appeal」

女子大生が教授に犯される。
担任教諭と弁護士に後押しされ、彼女は教授を訴える。

事件に絡む人間が、教授以外はみんな女性。
絡み合う女性の利害、それぞれが抱える心の闇。

法廷劇かと思って観てたけど、現実に向き合う厳しさや強さ、
立場の弱い者が声をあげることの難しさや勇気、そういったことを考えさせられた。

台湾映画、ハッピーな映画ばかり観てたので、やや異色作だと感じた。
邦題はもっとどうにかならなかったのかなぁ…分かりにくい!

台東の夏の風景はとても美しく映像も綺麗。
弁護士役のビビアン・スーは、愛らしさの中に強さを兼ね備えた女性になっていてとても素敵だったし、主演のアンバー・クォの「台北の朝、僕は恋をする」のスージー役とは180度違う役どころ、素晴らしい演技にも見応えあり。

野良犬たち(韓国)– 福岡アジアフィルムフェスティバル2015 –

「野良犬たち / STRAY DOGS/WILD DOGS/THE CARNIVORES」

★★★☆☆

邦題 野良犬たち
英題 STRAY DOGS/WILD DOGS/THE CARNIVORES
製作国 韓国
製作年 2014年
監督 ハ・ウォンジュン
上映時間 99分

<あらすじ>

実際の事件を元に描いた衝撃作

不倫と賭博にのめり込む自堕落な日々を過ごしている記者のソ・ユジョン(キム・ジョンフン)は、不倫相手である職場の先輩ヒョンテの妻から関係解消を迫られる。夫とやり直したいと彼女から言われても納得できないユジョンは、力ずくでも奪ってやろうとヒョンテを追って彼が取材に向かっている山の奥深くにある村を訪ねる。だが、ヒョンテが見つからない上に乗ってきた車が故障し、村に滞在する羽目に。やがて、ユジョンはヒョンテなど知らないという村長をはじめ、村民たちに不審なものを感じ始める。

「野良犬たち / STRAY DOGS/WILD DOGS/THE CARNIVORES」

昔の日本でも似たようなことはあったのだろう、とは思うものの。
韓国で実際に<2012年に起きた事件>がモチーフという事実に驚愕。

プロローグ。
古ぼけたビニールハウスで殺される一人の男。
その現場を目撃しカメラに収めている一人の男。
振り下ろされるシャベル。

一体、何が起きたのか。
観客は、主人公とともにその真相に迫る事になる。

村の秘密と閉塞感がもうひたすらすごい。
閉ざされ限られた人数の村社会。

女を道具としか思っていない最下層の野良犬たち。
徐々に明らかになる真相。

主人公が、運動ができるわけでも、正義感に溢れているわけでもない、
むしろ俗な人間なので、逆にハラハラさせられた。

結末は実に韓国的。
日本映画なら違う結末にしてたかもしれない。

それにしても。
ジョンフンさん良い俳優になったなぁ。

イロイロ ぬくもりの記憶(シンガポール) – 福岡アジアフィルムフェスティバル2015 –

「イロイロ ぬくもりの記憶 / Ilo Ilo」

★★★★☆

邦題 イロイロ ぬくもりの記憶
原題 Ilo Ilo
製作国 シンガポール
製作年 2013年
監督 アンソニー・チェン
上映時間 99分

<あらすじ>

人生にはあなたを救ってくれる出会いがある

1997年シンガポール、共に働きに出ている両親と暮らす一人っ子のジャールー(コー・ジア・ルー)は問題児で、母親の悩みの種だった。そんな折、住み込みで雇われたフィリピン人メイドのテレサに反発するジャールーだったが、真剣に自分と向き合おうとする彼女と次第に心を通わせていく。一方、父親はアジア通貨危機の影響でリストラされ、母親はテレサに対して嫉妬のような感情を持ち始め……。

「イロイロ ぬくもりの記憶 / Ilo Ilo」

97年のシンガポール。
淡い色調で淡々と描かれる、シンガポールの中華系一家と出稼ぎのフィリピン人家政婦の交流。

わがまま放題の子供、このクソガキめ!と観ていたんだけど、
フィリピン人の出稼ぎメイドとの交流で、この家族の心情が浮き彫りになってくる。

居心地の悪い家、
思いやりのない家族、
その中で唯一「安らぎの場」となったのが、フィリピン人家政婦のテレサとなっていく。

父親はあれこれしくじり、妊娠し心が弱った母親は拠り所を求め自己啓発にのめりこんでいく。
結局、お金に余裕がなくなりテレサを解雇することに。

憎らしいクソガキに思えた少年ジャールーが、
初めて誰かを想い、起こす行動と、最後に見せる反抗は、
10才のクソガキが兄になるまでの素晴らしい成長物語。

淡々と。
じんわりと。
心に沁みていくそんな良作でした。

愛の棘(韓国)– 福岡アジアフィルムフェスティバル2015 –

「愛の棘 / INNOCENT THING」

★★★★☆

邦題 愛の棘
英題 INNOCENT THING
製作国 韓国
製作年 2014年
監督 キム・テギュン
上映時間 118分

<あらすじ>

純愛か、狂気か…

体育教師ジュンギ(チャン・ヒョク)は、女子生徒のヨンウン(チョ・ボア)から好意を寄せられていることに気付く。ある雨の日、傘がなく濡れたヨンウンに自分の体育着を貸した際彼女の体に触れてしまったジュンギは、彼女との接触を極力避けるようになる。それ以来彼女のひたむきな恋心は暴走し、ジュンギの寝室に忍び込んだり、妊娠中の妻に近づくなど常軌を逸した行動を起こす。

「愛の棘 / INNOCENT THING」

「教師と生徒の禁断の恋」で終わるわけがないのが韓国映画。
”恋は盲目” ”若気の至り” なんて可愛いものじゃない。
韓国映画の描く愛は濃すぎて疲れる(笑)。

徐々に狂気化していく女子高生。
あどけない高校生が妖艶さをも醸し出す大人の女性へのスイッチが入った瞬間の表情もすごい。
高校教師とその妻をも巻き込んで、どんどんエスカレートする女子高生が怖くて憎らしくて凄まじい。

「私の事を弄んだの?私はおもちゃだったの?
あの時、ドキドキしたのは、愛だったんじゃないの?」

いい人そうに見える普通の人の方が酷いことする場合もあるし、
ストーカーみたいなちょっとイカれてるように見える人の方が純粋な人かもしれない。

棘は最後まで抜けない。
純愛映画だった。

幻想か現実か分からないような感じで進むストーリー。
映像で幻想と現実をうまく切り替えて魅せているところは秀逸。
さすが「火山高」のキム・テギュン監督。

なつやすみの巨匠(日本) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「なつやすみの巨匠」

★★★☆☆

邦題 なつやすみの巨匠
製作国 日本
製作年 2015年
監督 中島良
上映時間 112分

少年のひと夏の恋

福岡の離島・能古島に住む10歳の少年シュン(野上天翔)は、夏休みに映画研究部員だった父・和由(博多華丸)から古いビデオカメラをもらう。すっかりカメラに夢中になり親友たちと映画撮影のまねに没頭するシュンの前に、島にやって来たワケありのハーフの美少女オリヴェイラ唯(村重マリア)が現れる。一目ぼれがバレないように、彼女を女優としてスカウトするシュンだったが……。

「なつやすみの巨匠」

オール福岡ロケの映画「なつやすみの巨匠」。
舞台は福岡市西区の能古島。
馴染みのある場所が次々と出てくる。

ひと夏の淡い恋物語ではあるけど、
子供たちの成長、いじめ、不法滞在、命の大切さなど、社会問題も盛り込んだ映画だった。

子供たちはみんなとても良かったし、
お父さん(華丸)もお母さん(国生さゆり)もチンピラのボス(リリー・フランキー)もみんな良かった。
海辺や木陰、夕日、神社から見る島など、映像はとても綺麗で、能古島の魅力再発見である。

主人公の少年シュンが恋するユイは、結局ブラジルに行くことになる。
ユイとこじれたまま別れ、フェリーを追いかけるシュン。
泳げないのに泳ごうとして溺れかけ、助けられた後のフェリーを見つめる表情はとっても切ない。

自分の好きなように生きろ。
人と違うことをしろ。
自分が立っとるところが世界の中心や。

その通りです。
子供のときにこういうこと言ってくれる親、素敵です。

個人的に思うところが2点ほど。
もう会うことができない…と思ってるシュンに対して、お母さん同士は携帯で簡単に繋がってて連絡取りあってたり…ちょっと残念かなぁ~。
事故で入院してた青年が2週間くらいで外出許可を得て、上映の準備を一緒に手伝ってるカットがあったんだけど、圧迫骨折をした私からすればあり得なかった。

地元発の自主製作映画ということで、全体的には良かったんだけど、あえて言わせていただくと、伏線の回収がしきれてない部分が結構あった気がした。
これは個人の判断に任せますってことだろうけど、もうちょっと回収してくれもいいかなぁ~と思ったり。

中島監督はこの映画製作中に福岡に魅了され移り住んだんだとか。
また福岡で(じゃなくてもいいけどw)素敵な映画、撮ってくださいね。

マタンゴ(日本) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「マタンゴ」

★★★☆☆

邦題 マタンゴ
製作国 日本
製作年 1963年
監督 本多猪四郎(本編)/ 円谷英二(特撮)
上映時間 89分

これは東京の病院に収容された青年の回想録である

ある日、豪華なヨットで海に繰り出した7人の若い男女が遭難し、無人島に漂着した。そこは、カビと不気味なキノコに覆われた孤島であった。唯一見つかった難破船には、少数の食料が残されていたものの生存者はおらず、「船員が日々消えていく」といった内容の日誌と「キノコを食べるな」という旨の警告が残っていた。始めは協力していたが、やがて心がバラバラになっていき、食料と女性を奪い合い対立する飢餓と不和の極限状態が訪れると共に、島の奥からは不気味な怪物が出没し始める。そして1人、また1人と禁断のキノコに手を出していく。

「マタンゴ」

マタンゴは怖いけど、人間も怖い

お坊ちゃんたちが、7人のグループでクルーズに出かけ、嵐で遭難し、島に漂着。
この島は、なぜかほとんど魚も取れない、鳥も寄り付かない。
気味の悪いキノコだけがたくさん生息している。

それぞれに思惑はあるものの、たいした考えも無いため、心はバラバラに。
食料も底がついてくることが分かると、次第にエゴを剥き出しにしてゆく7人。

禁断のキノコの甘い味。
このキノコを食べた者は、キノコ人間になってしまう。
ひとり、ふたり…そしてキノコを食べていないのは、村井と明子だけになる。

キノコ人間(マタンゴ)は、理性をどうにか保っている村井と明子のもとにやってくる。
怖いのが、殺しに来るのではなく、キノコを食べさせにくるところ。
自分がこんな状態になったから他人にもそうさせよう、と巻き添え作戦をするマタンゴたち・・・。
キノコの癖に思考がすごく人間的で怖い!

結局、明子は連れ去られてしまい、村井は助けに行くが時すでに遅し…。
明子は「おいしいわ、ほんとうよ」とマタンゴを村井に勧めるのだ!
村井はその場から逃げ出し、ヨットに乗って島からも脱出。
(え?ヨット??みたいな急展開w)

戻ってきた村井は病院に収容されていた。
キチガイ扱いされるなら戻ってこない方がよかった。
恋人と一緒にキノコを食べて幸せになった方がよかった。

振り返る村井。
キノコへの変身が始まっていたのだった。
(食べたのね…)

衝撃のラスト。
極限下において「生きる」ということの本質を訴えかけてくるこの「マタンゴ」。
東宝の変身人間シリーズ全4本(美女と液体人間(1958年) / 電送人間(1960年) / ガス人間第一号(1960年) / マタンゴ(1963年))のうち最後の作品。
出演している俳優さんたちがすごく良い味を出しているところも、観る価値ありの1本。

裁き(インド) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2015 –

「裁き / Court」

★★★★★

邦題 裁き
英題 Court
製作国 インド
製作年 2014年
監督 チャイタニヤ・タームハネー
上映時間 116分

<あらすじ-公式サイトより->

社会の縮図が見え隠れする異色の法廷劇

下水労働者の死体がムンバイのマンホールの中から発見された。ほどなく年老いた民謡歌手が逮捕される。彼の扇動的な歌が、労働者を自殺へと駆り立てたのかもしれないと告発されたのだった。裁判は下級裁判所で展開、そこはムンバイの普通の人々の希望と夢が演じられる舞台でもあった。それらの運命を形作るのは弁護士と検察官そして裁判官。映画は裁判所という主舞台を離れ、彼らの個人的生活を静かに観察していく。

「裁き / Court」

タイトル「裁き」と被告人のおじいさんの画像に騙された!
裁判映画は大抵、弁護士が熱弁をふるって無実の被告人を助ける、法廷での白熱したやり取りが見せ場。
だが、この「裁き」は全く違う。
ボリウッド的な要素も一切ない。

この映画の中で、裁判自体は大きなウェイトを占めていない。
弁護士も検事も裁判官も、条文に従って淡々と役割を果たすだけの冷め切った裁判劇。

ある労働者の死を裁く法廷を中心に、被告人、弁護士、検事、裁判官のプライベートを描き、その中でインドが抱える諸問題、日常を映し出している。
観客はこの4人を通して、人間は見た範囲、知っている範囲だけの姿ではない、自分のフレームやレンズ通りの人間ではないのだと、気づかされる。

ラスト、裁判官の休日は秀逸。
28歳のチャイタニヤ・タームハネー監督、さすが鋭い。


左から、プロデューサー・俳優(弁護士役)のヴィヴェーク・ゴームベールさん、チャイタニヤ・タームハネー監督。
ヴィヴェーク・ゴームベールさん、映画の中では髭を生やし眼鏡をかけて、いかにも弁護士風だったのが、急にラフだから気づかなかった(笑)。

「裁き」のポスターについて興味深い話も聞けた。
ポスターは全部で4種類あり、全部を見せて選んでもらったらしい。

福岡国際映画祭に持ってきたポスターはこれ。
被告人のおじいさんのイラストは無し。

次に、インドで使用されたポスター。
こちらは被告人のおじいさんを全面に出して、法廷劇の映画、もしくは何かの布教?とも見えそうなポスター。
映画の内容からすると、これはちょっと惑わされる。

3つ目は、イラストが目を引くポスター。
土管に被告人、後ろには法廷。
分かりやすいけど、ポップすぎる印象。

最後は、監督とヴィヴェークさんのポーランド人イラストレーターの友達に作ってもらったというポスター。
3人(弁護士、検察、裁判官)の顔のラインが交錯している。
白、黒、赤の3色しか使っておらず、シンプルながらも目を引くデザイン。
お二人はこのポスターが気に入っているとのこと。

個人的には、お二人も気に入っているという最後のポスターが好きだけど、この映画祭の来場者の年齢層を考えるとやはり、分かりやすく、それでいて今どきのデザインである1番目のポスターを福岡国際映画祭が選んだのもうなづける。
このポスターに関して、私見だが、人物をわざとポリゴンスタイルにして、人間の多面的な部分を表現したのでは?と思っている。

それにしても、チャイタニヤ・タームハネー監督もプロデューサー・俳優(弁護士役)のヴィヴェーク・ゴームベールさんも、めっちゃノリが良くてラブリー。
とてもあの映画の中の人たちとは思えないほど(笑)。
インドの人たちやっぱり陽気w