この世界の片隅に

この世界の片隅に

「この世界の片隅に」

★★★★★

邦題 この世界の片隅に
製作国 日本
製作年 2016年
監督 片渕須直
原作 こうの史代
キャスト のん/細谷佳正/尾身美詞
稲葉菜月/小野大輔 ほか
配給 東京テアトル
上映時間 126分
公式サイト この世界の片隅に

あらすじ

1944(昭和19)年2月。
18歳のすずは、突然の縁談で軍港の街・呉へとお嫁に行くことになる。
新しい家族には、夫・周作、そして周作の両親や義姉・径子、姪・晴美。
配給物資がだんだん減っていく中でも、すずは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。

1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの艦載機による空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして、昭和20年の夏がやってくる――。
(「この世界の片隅に」公式サイトより)

観終わってからも勝手に涙が溢れてくるような素晴らしい作品です。
日本映画史に残る大傑作ですよ!
感想がうまくまとめられないくらいの衝撃です。
映画館で絶対に観た方がいいです。
まだ観ていない人は、ネタバレを見ずにそっとブラウザを閉じて、映画館へGO~

この”世界”の”片隅”に

このストーリーにおける「世界」っていうのは、国、戦争、政治、思想などを全部ひっくるめた大きな物語(歴史)ですね。
「大きな物語」っていうのは、NHKの「その時歴史が動いた」なんかに取り上げられるような人たちのドラマチックなストーリーだったりするわけだけど、その「大きな物語」の中には、我々のような一人一人の人間の積み重ねがあって、その中に「小さな物語」がたくさんある。それがこのストーリーにおける「片隅」ですね。
取るに足らない日々の細々した営みはドラマにはならないけども、この「片隅」のほうから「世界」を浮き彫りにしてる、そういうすごい映画でした。

感性を攻撃してくる

6年もの歳月をかけて調べぬかれ、考え抜かれ、磨き上げ抜かれたアニメーションです。戦時下の広島・呉で暮らす人々の暮らしが生き生きとアニメーションで最大級に丁寧に描かれて、本当にそこに生きていたんだ!と思えるんです。

当たり前の暮らし、仕事、人々の笑顔、青い空、飛んでくるサギ、海の白波や夕陽、野に咲く草花。それは儚いものかもしれないけど、すずさんたちが大切にしてきたものの鮮やかな描写が逆に、戦争に巻き込まれる市井の人たちの言葉にならない悲しみを感じさせます。

原作漫画が素晴らしいし、コトリンゴさんの歌も催涙効果抜群というのもあるんですけど。
すずさんたちの「日々の暮らし」を自分に重ね合わせて観ることが出来るので、126分間、感性がフル活動です。
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食べ物の演出

食べ物の演出はこの物語の一部なんですが、このフード演出が素晴らしいです。
何を食べるか、何をどう料理して、どうやって日々の命をつないでいくか。
食べ物は、すずさんたちにとっては日々の暮らしの中心。
戦況が苦しくなっていくと同時にその変化っていうのは否応なく食卓にも現れるわけです。
その見える食卓の変化=歴史の変化 という風になっているんです(泣)。

ただ、その生活は決して悲惨なものではなく、クスクス笑えるシーンもたくさんあります。
すずさんが明るく料理をするシーンは、オーケストラよろしくの演出でほんわかするし。
普通すぎる日々を過ごしているみんなが愛おしくてしょうがないよ!

要所要所で表示される日付

そんな普通すぎる日々を過ごしているずすさんたちですが、太平洋戦争の真っ只中なわけで、徐々に戦争は激しくなり、「あの日」へのカウントダウンも進んでいきます。
日本人なら誰もが昭和20年8月6日に広島で何が起こったか知っている。
気持ちがグーッとなるわけですね・・・。

それでも、過剰に感情を煽ったり泣かせるような演出はないです。
淡々と日々が過ぎていく。何が起ろうといつも通りに。

すずさん

小さい頃からぼーっとしとる、と言われていたすずさん。
強い自己主張をすることはないけど、自分の感情は絵で表現してきたすずさん。

そのすずさんの声をあてたのは、のんさんです。
おっとりした中に芯の強い雰囲気があって本当にピッタリでした。
のんさんはもちろん、細谷佳正さん、小野大輔さん、声優陣も最強の布陣でした。

映画の後半、すずさんが怒るシーンが3つほどあるんですけども

  1. 北條家に嫁いだことが不幸であり連れ出してほしいと思っているに違いないと決めて迫ってくる水原哲に
  2. 余計な気を回して水原に自分を差し出した周作に
  3. 玉音放送に

特に玉音放送を聞いた後のシーンがすごくて。
右手を無くし、自分から絵を、姪を、父と母と兄を取り上げ、故郷を取り上げ、最後の一人まで戦えと言ったのはお前たちだろうと。
悲しみと痛み、苦しみを内に秘めながら、戦争という不条理にただ毅然と向き合いながら過ごしてきたすずさん。
普段怒らない、おっとりしたすずさんが怒るからこそ印象的です。

普通の暮らしの中にこそ大切なものがある

終戦の日に、大切に取っておいたご飯を炊いて食べるというエピソードがあるんですけども、釜戸からのぼる煙を見た時にじんわりと涙が出ました。
すずさんの家のシーンから呉の町のシーンになって、家のあちこちから釜戸の煙が立ち上がってきて、電気もひとつひとつ点いていく。
「あ、戦争が終わったんだ。暮らしが戻ってきたんだ。」とパッと分かるんですね。

戦後の日本、これから大変なことのほうが多いかもしれない。
だけど当たり前の日々の、普通の暮らしの中に、未来につながる普遍的な宝がある。
そういうことに気付かせてくれるんですね。

クラウドファンディング

この映画は、クラウドファンディングで3912万1920円の制作資金を集めて制作されました。
つまり多くの人がこの原作を映画にしてほしい、と熱望して完成した作品です。
ぜひぜひたくさんの人に見てほしいと思います。

まとめ

死んだにはちは言っていた「この戦争には負けると知っていた」と。
台湾でパンツを盗まれて悔しくて歯ぎしりしたと。
歯ぎしり?地団太?・・・ちょっと笑っちゃうじゃん。
「片隅」で戦時下にいた海兵隊員のにはちでもそうことがあったんです。

そう、実はこの映画、基本めちゃめちゃ笑えます。
あの悪夢の日にもやっぱり笑っちゃうことは起こってて、それを見る側も自然に笑っちゃっうっていう。
涙出てたのに「ふはは」って。全編通してオチがあるんです。
ブレてないんです、そこに本当に感動します。

2回観に行ったんですけど、1回目はまっさらな状態で初めて見て「ガーン」ってなって、原作漫画や映画パンフ、公式資料を見てからの2回目。
改めてさらに感動が増しました。

3回目はさらにですよ、きっと。で、きっと行きますよ。
2回目、ちょうど行った日がクリスマス前でして、素敵なポストカードを頂きました。

原作は読んでも読まなくても大丈夫ですけども、読んだ方がより映画では語られない部分が補完されて良い感じです。
ぜひ。

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