「福岡国際映画祭2017」カテゴリーアーカイブ

百日告別(台湾) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017(台湾映画祭) –

「百日告別 / A Gas Station」

★★★★★

邦題 百日告別
製作国 台湾
製作年 2015年
監督 トム・リン
上映時間 96分

あらすじ-公式サイトより

それぞれの旅の先に 待ち受けていたものとは

妻のシャオウェンと間もなく生まれる子どもを楽しみにしているユーウェイ
だが、交通事故が運命を大きく変えてしまう
シンミンは婚約を ユーウェイは妻と未だ見ぬ我が子を失ってしまったのだ
人生の羅針盤を失ったかのように立ち尽くす二人
合同葬儀の場で初めてその存在を知った二人は
出口のない悲しみの迷路から抜け出せずにいた
苦しみの中、ユーウェイはピアノ教師だった妻の生徒たちの家を尋ね歩く…
シンミンは新婚旅行をかねて 新メニューを探しに行くはずだった沖縄 へと旅立つ…

「大切な人の死」と向き合う100日

1秒前まで、隣にいた大切な人が手の届かないところに行ってしまった場合、どんな風に現実を受け止めるのか、というのがこの映画のテーマ。
その死が理不尽で、自己責任ではなく、突然であるほど、苦しいもの。
悲しみに寄り添ってくれる人はなく、周りの思慮のない言動に傷つけられていく二人が、その苦悩の日々を100日という時間の推移にあわせて、それぞれに自分の心に折り合いをつけていく様子が、静かに心に響いていきます。

トム・リン監督自身の体験がもとになっているということで、リアルな心情の描写と、主演のふたりの控えめな演技が素晴らしくて、静かに深く考えさせられる名作でした。

一日一日を大切に生きなきゃなぁ~

事故死というのは突然すぎて、心の準備が出来なくて、取り残されたような感覚になります。
友達と遊ぶのに忙しくて「明日また来るけんね」というばぁちゃんの言葉を上の空で聞いて、「うん、じゃ、また明日ね!」と返した言葉が最後になるなんて。
そんな、明日という日がなかったあの日を思い出しました。
わんわん泣いていいのか、ぐっとこらえればいいのか、なんかすごい変な気持ちで、やっぱり突然の死は辛いってことしか分からなかった10歳の頃。
今でも、あのときもっと会話していれば・・・とか悔やむことがあります。

人というのはやはり、いつも傍に当たり前のようにある(居る)ものに関しては、当たり前すぎて気付かなかったり、ぞんざいに扱ったりして、大切なものを忘れてしまいがちなんだけど、これからはもっと日々を大切に生きようと思える映画でした。

バイオリン弾き(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「バイオリン弾き / Violinist」

★★★★★

邦題 バイオリン弾き
英題 Violinist
製作国 韓国
製作年 2016年
監督 モハマド=アリ・タレビ
上映時間 74分

あらすじ-公式サイトより

ひとりの青年を通して描かれるイスラム文化の温かみ

大都会・テヘラン、バザールの片隅でイラン歌謡のバイオリン演奏で日銭を稼ぐ青年。ある夜、ピアノを学ぶ女性が歩み寄り、彼女が通う音楽学校に案内された。西洋式の音楽教育を受けてない彼に新たな生活を手にする機会が訪れる。実在する市井の人々をキャストに据え、彼らの営みをひとつの物語として描く。

足るを知る者は富む

家族を支えるため、バイオリン演奏で日銭を稼ぐ日々を過ごしている10代のキアヌーシュ。
それも大都市テヘランで・・・
日本だとあり得ないような光景に目を疑います。

キアヌーシュにはいろんな災難が待ち受けているのだけど、自分の身に起こる出来事を受け入れるということ、そこに優しさを感じます。
大事なバイオリンを盗られて途方に暮れるキアヌーシュだけど、結局助けてくれたのは(多分彼よりマイノリティということになる)身体障害者の友人ハッサンだというのが、心打たれます。
自分の境遇を受け入れるって本当に難しいことだと思うんだけど、大変な中でも満足することを知っている人は、貧しくても精神的には豊かで幸福である、ということを教えてくれる素敵なストーリーです。

彼か弾いている曲は、イランの歌謡曲らしいのですが、切なかったり、不器用な感じだったり、一生懸命に誠実に向き合って生きてる感じだったり、というのが、キアヌーシュの気持ちを表してて泣けます。

観たら心が満たされるよ

人間捨てたもんじゃないなって思える温かい気持ちになれる映画です。
タレビ監督自身、息子さんを亡くされて、この映画を撮ることが一種のセラピーだったとおっしゃっていたのですが、この映画を観た人にも、小さな温かいものがぽわっと灯って伝わるような、そんな素敵な作りになっています。

自分が大変な時こそ手を差し伸べることが出来るのが人間。
支えあうのが人間。

熊本市賞おめでとうございます!

5番スクリーンを満席にした「バイオリン弾き」。
小さい方の劇場だったにも関わらず熊本市賞を受賞したということは、この映画がいかに素晴らしかったか、ということを物語っていると思います。
今年もさすがのイラン映画、そしてタレビ監督はユーモア溢れるとても素敵な監督さんなのでした~。
タレビ監督の受賞スピーチはこちらから!

映画の反響でキアヌーシュのYouTube人気らしいですよ!ぜひ!

春の夢(韓国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「春の夢 / A Quiet Dream」

★★★★☆

邦題 春の夢
英題 A Quiet Dream
製作国 韓国
製作年 2016年
監督 チャン・リュル
上映時間 101分

あらすじ-公式サイトより

マドンナと心やさしきポンコツ男たちが見る夢は…

街をうろつくだけの稼ぎのないチンピラ、イクチュン。北朝鮮出身のチョンボムは給料も貰えずクビになった。金持ちだが少し頼りないジョンビン、そしてこの男たちのマドンナ的存在のイェリは寝たきりの父親の看病のため居酒屋を営んでいる。オアシスみたいなイェリの居酒屋に入り浸る3人の男たち。ある日新たなオトコが店にやってくるのだが。

ぐだぐだな日々を淡々と

街のチンピラであるイクチュン、脱北者のジョンボム、大家の息子ジョンビン。
居酒屋を営むイェリを囲んで、ぐだぐだとした日々を送っている3人。
ぐたぐたとした日々の中でも、それぞれに抱えている問題はあって、小さな事件が起きたりもします。

この3人、一貫してユル~い感じ。
あっと驚くような結末を迎えても、この3人の日常は変わらない。
何が起ろうといつも通りに、ただ淡々と日々が過ぎていく。

他愛のない日々だけど、この映画の登場人物が大切にしてきたものは、モノクロ画面とは逆に鮮やかな世界、まさにタイトル通り「春の夢」だったのかもしれません。

韓国映画の名作を撮った若い監督たちが出演

チャン・リュル監督と親密な関係だという3人の監督たち。
息もできない(2009)』のヤン・イクチュン監督、
ムサン日記 白い犬(2010)』『生きる(2014)』のパク・ジョンボム監督、
『許されざる者(2005)』『悪いやつら(2011)』のユン・ジョンピン監督。
この3人が本名のまま、この映画に出ています。

チャン監督は、脚本を書くときに名前を考えるのに一番苦労するらしいです。
ただ、この3人の名前はが今風でない感じがよくて、水色洞(スセットン)という場所にもピッタリだったので、本名のまま使ったんだそうです。
本名で出演するには、メリットもデメリットもあるんだろうけど、本名で演じることによって素の自分を出せる瞬間があって、この映画に関しては良かったと、ジョンボム監督は言ってました。
ユン・ジョンビン監督は、役柄的に本名で出るの嫌だったみたいですけど(笑)

ジョンボムの元カノの北の美女(シン・ミナ)が訪ねてくるシーンで、イクチュンとジョンビンがシン・ミナを抱きしめるんだけど、ジョンボム監督だけシン・ミナを抱きしめられなかったから悔しかったそうです(笑)。

劇中に出てくるイェリが住む家は、ジョンボム監督の家で玄関の前に居酒屋のセットを作って撮影したそう。
水色洞が再開発エリアになっていて、その家ももう無いらしいのですが、水色洞という場所が都会の喧騒から離れて、本当にソウル?みたいな場所で、この映画のユルさを引き立てている感じがしました。

パク・ジョンボム監督にサインいただきましたよー、と。

ワンダーボーイ・ストーリー(シンガポール) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「ワンダーボーイ・ストーリー / Wonder Boy」

★★★★★

邦題 ワンダーボーイ・ストーリー
英題 Wonder Boy
製作国 シンガポール
製作年 2017年
監督 ディック・リー、ダニエル・ヤム
上映時間 96分

あらすじ-公式サイトより

これが僕の音楽だ。ディック・リー誕生秘話

シンガーソングライターでアジアン・ポップスの旗手、ディック・リーの青春時代を自身が監督を務め描く。幼い頃からピアノを習いエルトン・ジョンに憧れるリチャードは、いつか自作曲で歌手になりたいと夢見ている。しかし70年代初頭のシンガポールではロックは禁止、世間が好むのは海外の楽曲だった。

Mr.Singapore ディック・リー

そうです、ディック・リーです。
マッドチャイナマン、ディック・リーです。

そのディック・リーがデビューするまでを描いた自伝的作品。
独立して間もない当時のシンガポールの社会状況も興味深いし、音楽はもちろん、ファッションも見所。
ディック・リーが裕福な家庭で育ったというのは有名なんだけど、ディックの才能に本当に驚かされたし、家族や友達の支えがあって、(才能があるからこその)色んな葛藤を乗り越えていく、その過程も興味深くて、あっという間の96分です。
そして、ディック役の俳優さんの声がすごく良くて聞き惚れました。

たまたま知り合いがこの映画を見に来てたんですが、彼が往年のファンだったらしく、プロマイドまで持っているというから驚きでした!
ディックのコンサートはもちろん、ミュージカル等も見に行ったらしく、ディックのことを熱く語ってました~。
往年のファンの方はこの映画、たまらなかったと思います。

ナシゴレン食べたくなるし、ディック様と呼びたくなる

サインに快く応じてくれて、写真にも目線をくれるディック様。
今日もグッチのお洋服がお似合いオーラバンバンです!

ディック様に「CD買います」とお伝えしたら、
「ふふふ…今はiTunesダウンロード、ポチっとな」と不敵な…じゃなかった、素敵な笑みを浮かべて言っておられましたので、さっそくポチりました。

そんな素敵なディック様のデビューのきっかけとなった曲はこれ↓
ナシゴレンベリナイスです!

Fried Rice Paradise

頭脳ゲーム(タイ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「頭脳ゲーム / Bad Genius」

※日本公開時「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」になりました

★★★★★

邦題 頭脳ゲーム
英題 Bad Genius
製作国 タイ
製作年 2017年
監督 ナタウット・プーンピリヤ
上映時間 130分

あらすじ-公式サイトより

テストをマネーに!スリリングに展開するテスト大作戦

超成績優秀な女子高校生リンは、試験で友人を助けたことから、あるビジネスを思い立つ。試験中に彼女が答えを教え、代金をもらうというものだ。さまざまな手段を講じて試験を攻略する学生たち。リンの売り上げも増加する。そして多くの受験生の期待を背に受け、大学進学統一試験というビッグビジネスに挑む。

タイの名門高校で繰り広げられるカンニングビジネス

タイの名門高校に通う成績優秀なリンは、金持ちの娘グレース、グレースのボーイフレンド パットとカンニングビジネスを始めます。
謝礼は1人1科目3,000バーツ。テストは4つの答えのマークシート方式。
リンはピアノのメロディーを4種類奏でることで答えを教える、というやり方を思いつきます。
ところが、ある試験で2種類の問題が出されピンチに。優等生バンクにバレ、学校にもバレてしまいましたが、それをきっかけにバンクも仲間に引き入れることができ、やがて4人は大学入試統一試験(STIC)での大規模な作戦を考え始めます。

脚本、キャスティング、演出、見事です

何度か出てくるカンニングシーンは、手に汗握らされるし、国境を越えて繰り広げられる後半の展開はスリル満点。
試験に臨む姿は、まさに敵に立ち向かいながら刀を抜く武士といった感じで、(カンニングは決して良いこととは言えないけど)このカンニングが無事成功しますようにと祈ってしまうくらいの臨場感です。
闇に落ちていく優等生バンクと、光のさす方へ歩いていくリン。ふたりの対照的な姿が印象的なラスト。
バンクの実家がクリーニング店を営んでいるってことも皮肉に感じてしまいました。
貧しい若者達が才能とお金の間で揺れ動く姿は見ていてとても切ないのだけど、130分、中だるみなしです。



主演のリン役のオークベープさん、グレース役のウムさん、ナタウット監督。
高校生から大人へと向かうリンの内面をすごくうまく表現してらして、虜になりました。
「頭脳ゲーム」、見る価値ありです!観客賞イケると思いますよ!

観客賞受賞おめでとうございます!!!
ナタウット監督の受賞スピーチはこちらから