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百日告別(台湾) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017(台湾映画祭) –

「百日告別 / A Gas Station」

★★★★★

邦題 百日告別
製作国 台湾
製作年 2015年
監督 トム・リン
上映時間 96分

あらすじ-公式サイトより

それぞれの旅の先に 待ち受けていたものとは

妻のシャオウェンと間もなく生まれる子どもを楽しみにしているユーウェイ
だが、交通事故が運命を大きく変えてしまう
シンミンは婚約を ユーウェイは妻と未だ見ぬ我が子を失ってしまったのだ
人生の羅針盤を失ったかのように立ち尽くす二人
合同葬儀の場で初めてその存在を知った二人は
出口のない悲しみの迷路から抜け出せずにいた
苦しみの中、ユーウェイはピアノ教師だった妻の生徒たちの家を尋ね歩く…
シンミンは新婚旅行をかねて 新メニューを探しに行くはずだった沖縄 へと旅立つ…

「大切な人の死」と向き合う100日

1秒前まで、隣にいた大切な人が手の届かないところに行ってしまった場合、どんな風に現実を受け止めるのか、というのがこの映画のテーマ。
その死が理不尽で、自己責任ではなく、突然であるほど、苦しいもの。
悲しみに寄り添ってくれる人はなく、周りの思慮のない言動に傷つけられていく二人が、その苦悩の日々を100日という時間の推移にあわせて、それぞれに自分の心に折り合いをつけていく様子が、静かに心に響いていきます。

トム・リン監督自身の体験がもとになっているということで、リアルな心情の描写と、主演のふたりの控えめな演技が素晴らしくて、静かに深く考えさせられる名作でした。

一日一日を大切に生きなきゃなぁ~

事故死というのは突然すぎて、心の準備が出来なくて、取り残されたような感覚になります。
友達と遊ぶのに忙しくて「明日また来るけんね」というばぁちゃんの言葉を上の空で聞いて、「うん、じゃ、また明日ね!」と返した言葉が最後になるなんて。
そんな、明日という日がなかったあの日を思い出しました。
わんわん泣いていいのか、ぐっとこらえればいいのか、なんかすごい変な気持ちで、やっぱり突然の死は辛いってことしか分からなかった10歳の頃。
今でも、あのときもっと会話していれば・・・とか悔やむことがあります。

人というのはやはり、いつも傍に当たり前のようにある(居る)ものに関しては、当たり前すぎて気付かなかったり、ぞんざいに扱ったりして、大切なものを忘れてしまいがちなんだけど、これからはもっと日々を大切に生きようと思える映画でした。

バイオリン弾き(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「バイオリン弾き / Violinist」

★★★★★

邦題 バイオリン弾き
英題 Violinist
製作国 韓国
製作年 2016年
監督 モハマド=アリ・タレビ
上映時間 74分

あらすじ-公式サイトより

ひとりの青年を通して描かれるイスラム文化の温かみ

大都会・テヘラン、バザールの片隅でイラン歌謡のバイオリン演奏で日銭を稼ぐ青年。ある夜、ピアノを学ぶ女性が歩み寄り、彼女が通う音楽学校に案内された。西洋式の音楽教育を受けてない彼に新たな生活を手にする機会が訪れる。実在する市井の人々をキャストに据え、彼らの営みをひとつの物語として描く。

足るを知る者は富む

家族を支えるため、バイオリン演奏で日銭を稼ぐ日々を過ごしている10代のキアヌーシュ。
それも大都市テヘランで・・・
日本だとあり得ないような光景に目を疑います。

キアヌーシュにはいろんな災難が待ち受けているのだけど、自分の身に起こる出来事を受け入れるということ、そこに優しさを感じます。
大事なバイオリンを盗られて途方に暮れるキアヌーシュだけど、結局助けてくれたのは(多分彼よりマイノリティということになる)身体障害者の友人ハッサンだというのが、心打たれます。
自分の境遇を受け入れるって本当に難しいことだと思うんだけど、大変な中でも満足することを知っている人は、貧しくても精神的には豊かで幸福である、ということを教えてくれる素敵なストーリーです。

彼か弾いている曲は、イランの歌謡曲らしいのですが、切なかったり、不器用な感じだったり、一生懸命に誠実に向き合って生きてる感じだったり、というのが、キアヌーシュの気持ちを表してて泣けます。

観たら心が満たされるよ

人間捨てたもんじゃないなって思える温かい気持ちになれる映画です。
タレビ監督自身、息子さんを亡くされて、この映画を撮ることが一種のセラピーだったとおっしゃっていたのですが、この映画を観た人にも、小さな温かいものがぽわっと灯って伝わるような、そんな素敵な作りになっています。

自分が大変な時こそ手を差し伸べることが出来るのが人間。
支えあうのが人間。

熊本市賞おめでとうございます!

5番スクリーンを満席にした「バイオリン弾き」。
小さい方の劇場だったにも関わらず熊本市賞を受賞したということは、この映画がいかに素晴らしかったか、ということを物語っていると思います。
今年もさすがのイラン映画、そしてタレビ監督はユーモア溢れるとても素敵な監督さんなのでした~。
タレビ監督の受賞スピーチはこちらから!

映画の反響でキアヌーシュのYouTube人気らしいですよ!ぜひ!

春の夢(韓国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「春の夢 / A Quiet Dream」

★★★★☆

邦題 春の夢
英題 A Quiet Dream
製作国 韓国
製作年 2016年
監督 チャン・リュル
上映時間 101分

あらすじ-公式サイトより

マドンナと心やさしきポンコツ男たちが見る夢は…

街をうろつくだけの稼ぎのないチンピラ、イクチュン。北朝鮮出身のチョンボムは給料も貰えずクビになった。金持ちだが少し頼りないジョンビン、そしてこの男たちのマドンナ的存在のイェリは寝たきりの父親の看病のため居酒屋を営んでいる。オアシスみたいなイェリの居酒屋に入り浸る3人の男たち。ある日新たなオトコが店にやってくるのだが。

ぐだぐだな日々を淡々と

街のチンピラであるイクチュン、脱北者のジョンボム、大家の息子ジョンビン。
居酒屋を営むイェリを囲んで、ぐだぐだとした日々を送っている3人。
ぐたぐたとした日々の中でも、それぞれに抱えている問題はあって、小さな事件が起きたりもします。

この3人、一貫してユル~い感じ。
あっと驚くような結末を迎えても、この3人の日常は変わらない。
何が起ろうといつも通りに、ただ淡々と日々が過ぎていく。

他愛のない日々だけど、この映画の登場人物が大切にしてきたものは、モノクロ画面とは逆に鮮やかな世界、まさにタイトル通り「春の夢」だったのかもしれません。

韓国映画の名作を撮った若い監督たちが出演

チャン・リュル監督と親密な関係だという3人の監督たち。
息もできない(2009)』のヤン・イクチュン監督、
ムサン日記 白い犬(2010)』『生きる(2014)』のパク・ジョンボム監督、
『許されざる者(2005)』『悪いやつら(2011)』のユン・ジョンピン監督。
この3人が本名のまま、この映画に出ています。

チャン監督は、脚本を書くときに名前を考えるのに一番苦労するらしいです。
ただ、この3人の名前はが今風でない感じがよくて、水色洞(スセットン)という場所にもピッタリだったので、本名のまま使ったんだそうです。
本名で出演するには、メリットもデメリットもあるんだろうけど、本名で演じることによって素の自分を出せる瞬間があって、この映画に関しては良かったと、ジョンボム監督は言ってました。
ユン・ジョンビン監督は、役柄的に本名で出るの嫌だったみたいですけど(笑)

ジョンボムの元カノの北の美女(シン・ミナ)が訪ねてくるシーンで、イクチュンとジョンビンがシン・ミナを抱きしめるんだけど、ジョンボム監督だけシン・ミナを抱きしめられなかったから悔しかったそうです(笑)。

劇中に出てくるイェリが住む家は、ジョンボム監督の家で玄関の前に居酒屋のセットを作って撮影したそう。
水色洞が再開発エリアになっていて、その家ももう無いらしいのですが、水色洞という場所が都会の喧騒から離れて、本当にソウル?みたいな場所で、この映画のユルさを引き立てている感じがしました。

パク・ジョンボム監督にサインいただきましたよー、と。

ワンダーボーイ・ストーリー(シンガポール) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「ワンダーボーイ・ストーリー / Wonder Boy」

★★★★★

邦題 ワンダーボーイ・ストーリー
英題 Wonder Boy
製作国 シンガポール
製作年 2017年
監督 ディック・リー、ダニエル・ヤム
上映時間 96分

あらすじ-公式サイトより

これが僕の音楽だ。ディック・リー誕生秘話

シンガーソングライターでアジアン・ポップスの旗手、ディック・リーの青春時代を自身が監督を務め描く。幼い頃からピアノを習いエルトン・ジョンに憧れるリチャードは、いつか自作曲で歌手になりたいと夢見ている。しかし70年代初頭のシンガポールではロックは禁止、世間が好むのは海外の楽曲だった。

Mr.Singapore ディック・リー

そうです、ディック・リーです。
マッドチャイナマン、ディック・リーです。

そのディック・リーがデビューするまでを描いた自伝的作品。
独立して間もない当時のシンガポールの社会状況も興味深いし、音楽はもちろん、ファッションも見所。
ディック・リーが裕福な家庭で育ったというのは有名なんだけど、ディックの才能に本当に驚かされたし、家族や友達の支えがあって、(才能があるからこその)色んな葛藤を乗り越えていく、その過程も興味深くて、あっという間の96分です。
そして、ディック役の俳優さんの声がすごく良くて聞き惚れました。

たまたま知り合いがこの映画を見に来てたんですが、彼が往年のファンだったらしく、プロマイドまで持っているというから驚きでした!
ディックのコンサートはもちろん、ミュージカル等も見に行ったらしく、ディックのことを熱く語ってました~。
往年のファンの方はこの映画、たまらなかったと思います。

ナシゴレン食べたくなるし、ディック様と呼びたくなる

サインに快く応じてくれて、写真にも目線をくれるディック様。
今日もグッチのお洋服がお似合いオーラバンバンです!

ディック様に「CD買います」とお伝えしたら、
「ふふふ…今はiTunesダウンロード、ポチっとな」と不敵な…じゃなかった、素敵な笑みを浮かべて言っておられましたので、さっそくポチりました。

そんな素敵なディック様のデビューのきっかけとなった曲はこれ↓
ナシゴレンベリナイスです!

Fried Rice Paradise

頭脳ゲーム(タイ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「頭脳ゲーム / Bad Genius」

※日本公開時「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」になりました

★★★★★

邦題 頭脳ゲーム
英題 Bad Genius
製作国 タイ
製作年 2017年
監督 ナタウット・プーンピリヤ
上映時間 130分

あらすじ-公式サイトより

テストをマネーに!スリリングに展開するテスト大作戦

超成績優秀な女子高校生リンは、試験で友人を助けたことから、あるビジネスを思い立つ。試験中に彼女が答えを教え、代金をもらうというものだ。さまざまな手段を講じて試験を攻略する学生たち。リンの売り上げも増加する。そして多くの受験生の期待を背に受け、大学進学統一試験というビッグビジネスに挑む。

タイの名門高校で繰り広げられるカンニングビジネス

タイの名門高校に通う成績優秀なリンは、金持ちの娘グレース、グレースのボーイフレンド パットとカンニングビジネスを始めます。
謝礼は1人1科目3,000バーツ。テストは4つの答えのマークシート方式。
リンはピアノのメロディーを4種類奏でることで答えを教える、というやり方を思いつきます。
ところが、ある試験で2種類の問題が出されピンチに。優等生バンクにバレ、学校にもバレてしまいましたが、それをきっかけにバンクも仲間に引き入れることができ、やがて4人は大学入試統一試験(STIC)での大規模な作戦を考え始めます。

脚本、キャスティング、演出、見事です

何度か出てくるカンニングシーンは、手に汗握らされるし、国境を越えて繰り広げられる後半の展開はスリル満点。
試験に臨む姿は、まさに敵に立ち向かいながら刀を抜く武士といった感じで、(カンニングは決して良いこととは言えないけど)このカンニングが無事成功しますようにと祈ってしまうくらいの臨場感です。
闇に落ちていく優等生バンクと、光のさす方へ歩いていくリン。ふたりの対照的な姿が印象的なラスト。
バンクの実家がクリーニング店を営んでいるってことも皮肉に感じてしまいました。
貧しい若者達が才能とお金の間で揺れ動く姿は見ていてとても切ないのだけど、130分、中だるみなしです。



主演のリン役のオークベープさん、グレース役のウムさん、ナタウット監督。
高校生から大人へと向かうリンの内面をすごくうまく表現してらして、虜になりました。
「頭脳ゲーム」、見る価値ありです!観客賞イケると思いますよ!

観客賞受賞おめでとうございます!!!
ナタウット監督の受賞スピーチはこちらから

クエン 〜さらば、ベルリンの壁よ〜(ベトナム) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「クエン 〜さらば、ベルリンの壁よ〜 / Farewell, Berlin Wall」

★★★☆☆

邦題 クエン 〜さらば、ベルリンの壁よ〜
英題 Farewell, Berlin Wall
製作国 シンガポール・マレーシア
製作年 2015年
監督 グエン・ファン・クアン・ビン
上映時間 108分

<あらすじ-公式サイトより->

激動の欧州を生きるひとりの女性

80年代、東側ヨーロッパの深刻な経済危機により、多くのベトナム人労働者や学生は非合法に西ドイツへ向かっていた。道中、若妻のクエンは密入国ブローカーの画策で夫と引き離されてしまう…。時代の流れと男たちに翻弄されるクエンの人生を軸に描く、ベトナムでは珍しく暗く冷たい異色の恋愛ドラマ。

1989年ベルリンの壁崩壊直前のヨーロッパ

経済状況の悪化から、東ドイツから西ドイツへの密入国をすために、闇業者を利用していたクエンと夫。
東欧側から西側に逃げる途中で、ガイドの男がクエンに一目惚れし、手元に置いたことで翻弄されるクエンの人生。
ベトナムの社会派映画なのかなぁ~と思っていたら、政治的背景を盛り込みつつ、筋はメロドラマ、そして予想以上にマフィア映画でした。

クエンの魅力

女性から見てもクエンさん本当に透明感があってお綺麗なんです。
料理も上手そうだし…手元に残したくなるのは分かります!
見た目だけでなく、奥ゆかしい感じ、寡黙に耐える感じ、芯の強い感じ、すべてがパーフェクトですね。
最終的には、身勝手な男たちに翻弄されながらも、自分の生きる道を見つけ、背を向けて歩き出す姿には感動です。

だけどねぇ。
クエンさんに甘えすぎなんだよ、男どもは!って心の声が漏れちゃいましたよ。
※助けてくれるドイツ人男性以外。

俳優さんたちが気になります

個人的にはマフィアの抗争パートがなかなか良かったです。
俳優さんたちも親近感の沸くお顔立ちで。
クエンの夫役の方は今岡誠に似てました~。

「クエン」という原作小説の映画化ということで、ドイツで30年生活した作家グエンさんの作品だそうです。
そして監督のお名前もグエンさんです。

ベトナム人難民たちが置かれた背景や事情は、日本人にはよく分からなくてポカーンなのですが、そこらへんがもう少しわかると良かったのかもしれませんね。

風は記憶(トルコ・仏・独・ジョージア) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「風は記憶 / Memories of the Wind」

★★★★☆

邦題 風は記憶
英題 Memories of the Wind
製作国 トルコ・仏・独・ジョージア
製作年 2015年
監督 オズジャン・アルペル
上映時間 126分

<あらすじ-公式サイトより->

それぞれの心に閉ざされた記憶

第二次大戦中のトルコ。共産主義者の主人公は、反抗分子として政府から追われていた。危険なイスタンブールから脱出しソビエトへ亡命するため、国境近くの山小屋に潜伏。そこには初老の男性と若い女性というワケありげなふたりがいた…。抑圧された人々の秘めた想いを詩情あふれる映像美で描く。

舞台は第二次大戦下のトルコ

記者(翻訳家?)で画家の主人公アラムは、共産主義者であることから政府から終われ、ソビエトとの国境近くの村に潜伏した。
匿ってくれる初老の男と若い女、緊張感のある空間。
潜伏先の村でも、政府によって潜伏者が次々と捕らえられ、アラムの身も危険になってくる中で、山小屋に移動することになる。

アラムが封印した過去

言葉を封じられた主人公アラムが、潜伏先の抑圧された生活の中で見つめる過去。
それは、第一次大戦でのアルメニア人迫害の記憶。

山小屋に映ったアラムはさらに極限の孤独に追いつめられる。
深い森、そして真っ白な霧の中で、何度も幼少期の記憶が蘇ってきて…

深い森の静かな風景、雨、深い霧、穏やかさが、アラムの孤独をより一層際立たせていて、観ていてとても辛かった。

詩的な映像美

登場人物たちが置かれた状況はとにかく息が詰まりそうで、最後まで見応えあり。
自由求める姿にかかる深い霧は、ハッピーエンドを願う視聴者に暗い影を落としていて、観ていてとてもしんどい。
ただ、全てのカットが絵画を観ているような、そのカットにまた別のカットを重ねて、たくさんの層になって襲い掛かってくるような、静かに胸に沁みる作品になっています。

Nothing

登場人物たちが何かを言いかけて「Nothing」と口をつぐむシーンがとても印象的。
マイノリティーたちが強いられた言論の統制、迫害の歴史を、現代に生きる私たちが「Nothing」にしてはいけない、口をつぐむことなく伝えていかなくてはいけない、というメッセージも感じられました。
過去の自分と向き合う、過去から教訓を得る、なかなか難しいことだけど。

緑の野に黄色い花(ベトナム) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「緑の野に黄色い花/ Yellow Flowers on the Green Grass」

★★★★★

邦題 緑の野に黄色い花
英題 Yellow Flowers on the Green Grass
製作国 ベトナム
製作年 2015年
監督 ヴィクター・ヴー
上映時間 103分

<あらすじ-公式サイトより->

少年時代はいつもファンタジック

舞台は1989年、豊かな自然に囲まれたベトナム中南部の小さな農村。12歳の少年ティウは両親と弟トゥンと暮らしていた。弟は何をするにしても尊敬する兄と一緒。ある日、ティウがほのかに想いを寄せる女の子の家が火事になった…。緑と光に溢れた美しい田園風景の中、少年たちの目を通し、心の揺れや人間模様を瑞々しく描く珠玉作。

舞台は1989年のベトナム

貧しく小さな村に暮らす12歳の少年の成長を描く物語。
少年時代の美しい日々、恋の嫉妬と痛み。

無邪気にお兄ちゃんを慕う弟。
恥ずかしくて一緒にいられない少女。
成長期、繊細すぎて周りも自分も傷つけまくるお兄ちゃん。

広大で美しい風景に、登場人物それぞれの葛藤が見える。
お兄ちゃんがちょうど声変り時期の感じで、成長過程なのが分かるし、ただ美しいだけでは終わらない、ほろ苦さが残る作品になっているのは、ヴィクター・ヴー監督の手腕かと。

背中思いっきり叩いたらアカン

嫉妬心に駆られたお兄ちゃんが、弟の背中を棒で思いきり叩くシーンがあるんですが、もう途中から、背骨がピリピリしてどうにかなりそうだったよ…!

「あぁ…これ確実に圧迫骨折したなぁ~」と。
圧迫骨折を経験した身としては、1か月安静や!そしたら治るやで!
って弟くんを応援しました!

途中から座ったり歩いたり、ちょっと足を引きずってたのが気になったけど、最後には走ってたので、神経にも触ってなかったんだ、大丈夫だったんだなぁとホッと胸をなでおろしました。

骨折し動けなくなった弟くんでしたが、捕らわれのお姫様が会いに来てくれた!とだんだん元気を取り戻していくあたり、空想することが子どもにとって心の拠り所にも力にもなる、ということも描いていて良かったなぁと思いました。
捕らわれのお姫様も同様に。

グエン・ニャット・アン原作の映画化

日本では「つぶらな瞳」という邦題で翻訳されているベトナムの作家グエン・ニャット・アンの2010年発表のベストセラー小説なんだそうです。
子供の目線から見た世界をみずみずしく表現しているそうで、機会があれば読んでみてもいいかも。

エンドロール

エンドロールは、切り紙風CGアニメに。
ちょっと動きが早くて目で追えない(疲れてたからかな?)感じだったんですが、すごく素敵でした。
ヴィクター・ヴー監督は越僑(在外ベトナム人)なので、感覚も少し違うかもしれない、と思いました。
2017年オスカー外国語映画賞のベトナムからの推薦作品にもなっているようで、日本公開も待ち遠しいです。

1989年の日本

1989年で12歳の設定なので、お兄ちゃんは私と同世代になるんですが、日本とベトナムではだいぶ様子が違いますね。
1989年(平成元年)は、バブル景気の後半のほうですが、すごく上向きの時代です。

任天堂「ゲームボーイ」発売、ジブリ「魔女の宅急便」が21.5億円の大ヒット、トシちゃんの「教師びんびん物語」を観て、プリプリの「Diamonds」を歌ってた。
吉本ばななの「キッチン」、村上春樹の「ノルウェーの森」はみんな読んだし、流行語は「オバタリアン」「オタク」「24時間タタカエマスカ」「NOと言える日本」などで、ソウル・オリンピックが開催され、手塚治虫が亡くなった年でもありました。

私は当時5年生だったんですけど、普通に小学校に通い、普通に勉強し、普通に遊んでました。
一番思い出すのは「明日来るね」と言って帰った祖母が次の日に交通事故で死ぬというアクシデントがあったこと。その大きな思い出(?)に紐づけされて思い出される記憶はまぁあるかな~、大した思い出じゃないですけど。
皆さんの1989年はどうですか?

スキャンダル(ベトナム) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「スキャンダル / Scandal」

★★★☆☆

邦題 スキャンダル
英題 Scandal
製作国 ベトナム
製作年 2012年
監督 ヴィクター・ヴー
上映時間 103分

<あらすじ-公式サイトより->

芸能界に巣食うブラックマジック?

モデルのリンは若き実業家と結婚をし、一躍トップスターの座をいとめる。だがライバル、チャミーが夫の前に現れるや否や、その座は危ういものとなる。やがて彼女は謎の頭痛に襲われ、身辺でも奇妙なことが起き始めた…。これは誰かが仕向けた“呪い”なのか?きらびやかな芸能界を舞台に描くサイコスリラー。

サイコスリラーなホラーなんですよ

ベトナムの芸能界を背景にした性悪女同士の泥試合。
負の連鎖がすごいですねー、エスカレートすればするほど、もうなんだか分からなくなってくる。

「相手に呪いを掛けることが芸能界では普通なんだよ」って真面目な顔して言っているあたり、想像の斜め上をいってます。
呪いを解きに行くシーンもなかなかホラー。

自分の中にある野望・欲望は、自分を滅ぼすことになってしまった、という怒涛の展開はなかなか見応えがあるんですが、二人を転がしていた真犯人の意図は不明。
転がして遊んでたってだけかなぁ?

どちらにも感情移入できないのは何故か?

うーん…随分(いや、ちょっとだけ)悩んだんですが。
トップモデル役の割にあまりそう見えないっていうか。

ごめん!ちょっと不細工だからじゃない?
髪の毛もなぜかウィッグだし、アフレコしたのかな~って感じの声だったし。
最後はただただ、ヒロインを演じた女優さんに盛大な拍手を送りたくなった…あ、これも罠?

一番素敵だったのが、主人公のお友達でしたね。
こちらもアフレコっぽかったけど。

ヴィクター・ヴー監督のセンス

これを作るヴィクター・ヴー監督のセンスがちょっと怖いですよね。
緑の野に黄色い花」を撮った監督の作品だよ~と言われても「ふぁ?」ってなるほどの狂気の地獄絵(笑)ですもん。

これ すなわち
マッド・マックス」を撮った監督が「ベイブ」を撮ったんだよ!
「火山高」を撮った監督が「クロッシング」撮ったんだよ!
くらいの衝撃ですよ。

梁木ディレクターがラブコールをずーっと送っていたらしい、ヴィクター・ヴー監督 初来福!

ロスト・ドラゴン(ベトナム) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「ロスト・ドラゴン / The Lost Dragon」

★★★☆☆

邦題 ロスト・ドラゴン
英題 The Lost Dragon
製作国 ベトナム
製作年 2015年
監督 クーン・ゴー
上映時間 100分

<あらすじ-公式サイトより->

プリンスを捜せ!地上に降りた最強仙女

平和な天宮、竜帝の宮殿を突然黒魔王が攻撃。その戦いですべての男子の仙神を失っていた。時が経ち竜帝も疲弊し後継者の誕生を待ちわびていた。その竜太子が生まれるはずの大切な玉が、ひょんなことで人間界に落ちてしまった。太子を捜し出すため、ふたりの仙女が現代のベトナムの地に降り立たった…。

ベトナムの旧正月(テト)用 娯楽コメディ

平和な天宮の仙女といえど、仲にはドジッ子もいるんですね。
そのドジッ子が竜太子が生まれるはずの大切な玉を下界に落としたもんだから、さぁ大変。
天宮の3日間は下界では30年らしく、早く探さなきゃ!と、仙女長とドジっ子の二人の仙女が下界で人探し。

仙女長はかなりのクールビューティ、出来る女!って感じなのですが、下界に降りた途端出来ない感じになるんです。
ドジっ子のほうは、下界に降りた途端、潜在能力発揮!
最終的には、ふたりは自分たちなりの幸せを見つけてハッピーエンド。

何も考えなくていい、軽く楽しめる映画。
迷いのない馬鹿馬鹿しさが逆に清々しくて好き!
FIFFの息抜きにピッタリの映画なのでした。

最初のCGすっごいよ!

ここで全予算使っちゃったんじゃない?大丈夫?ってくらいのCG満載です。
悪役のCGは手抜きすぎ、もうちょっと頑張ってwww!

最初は少~しだけ悪い予感がしたんですが、天宮と下界とでのカルチャーギャップあり、ドタバタあり、恋愛ありで娯楽要素がたくさんで面白かったです。
あ。ベトナムのサーカス見てみたいなぁって思いました。

ショートシンポジウム聞きました

超人X」のズン監督が登壇。
ズン監督の最初の仕事は、なんと400ドルの報酬だったそう。
映画を作る時は、1~2年ほど暮らせる収入を確保して撮ったりしてたんだそうです。

「美脚の娘たち」は民間で作った初めての映画で、その音楽を手掛けたそうですが、予算がなかったため、映画音楽自体は無料で請け、サントラを出すことで報酬を得ることが出来た!
その報酬は今までで最高の報酬になったんですねー、とズン監督ニヤニヤしてたのが面白かったです。

現在、ベトナム映画界には海外の資本(主に中国・韓国)が入ってきていて、マージンが高すぎたりと色々問題があって、映画業界も大変な時に入っているそう。
映画人を守るための仕組みづくりとかに尽力していくとのことでした。

ハラル・ラブ(独・レバノン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「ハラル・ラブ / Halal Love (and Sex)」

★★★★★

邦題 ハラル・ラブ
英題 Halal Love (and Sex)
製作国 独・レバノン
製作年 2015年
監督 アサド・フラッドカー
上映時間 95分

<あらすじ-公式サイトより->

教義とともに愛して恋して…

開放的な国際都市でありながら、一方でイスラム教的制限も多いベイルート。そこに住む3組のカップルを通して、平凡な人々がコーランの教えを破ることなく、夫婦の問題や恋、男女の性的欲望に折り合いをつけようと奮闘する物語。ベールの向こうにリアルなムスリム世界も見えて来る傑作コメディ。

男女の煩悩は万国共通?

レバノンの首都ベイルートを舞台に、結婚や離婚や恋愛を描く上質コメディ。
イスラムのカップル3組を通して、コーランの教えを破ることなく、自分たちの幸せを模索していく人々の姿をユーモアたっぷりに描いています。

経典による性教育、一夫多妻制、簡単に夫から離婚可能、短期契約婚というシステムなど知らないことだらけだったし、ムスリムの戒律がどのように人々の生活の中にあるのか、SEXも含めた男女関係の細部まで描かれていて、本当に興味深かった!

登場人物たちは、全員が超真剣。
人間どこの国でも変わらないなぁ、としみじみ。
とにかく笑える!

Q&A聞きました


ムスリムの女性たちは、外出時にチャドルやヘジャブを身につけているためか、身も心も保守的で不自由そうなイメージが強くあるんだけど、現実のレバノンの女性たちは、驚くほど明るく進歩的で、人生を謳歌している感じが素敵でした。

伝統的家族の堅苦しさもあったりと少しシリアスな場面もあるのだけど、イスラム教徒の自由な価値観に驚かされると同時に、女性たちのユーモアと機転にニヤリとさせられるのも良かったー。

ポスターにも描かれているとおり、表面上は違うように見える人たちも、実はベールの中は同じ人間なのだと、気付かされる作品になっているんだけど・・・
うん。下ネタが多い(笑)
ヌーヌーはもう頭から離れない!

イスラムの女性の恋愛観をちょっと覗き見

イラン生まれでフランス在住のマンガ家、マルジャン・サトラピの『刺繍──イラン女性が語る恋愛と結婚』をご覧あれ。
封建的な空気にがんじがらめにならず、自由に心を羽ばたかせているイラン女性たちの姿を見ていると、自然に元気がわいてくる一冊です。
ダリン・ハムゼさん曰く、レバノンとイランは少し離れている(レバノンはイスラエルの隣の小国)んだけど、恋愛の価値観はとても似ているらしいので、読んでからこの映画をみると、なるほど!となることもアリ。
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福岡観客賞 受賞おめでとう!

私も文句なしの星5つ投票。
納得の観客賞受賞ですねー。
主演のダリン・ハムゼさんのスピーチはこちら

くるみの木(カザフスタン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2016 –

「くるみの木 / Walnut Tree」

★★★★★

邦題 くるみの木
英題 Walnut Tree
製作国 カザフスタン
製作年 2015年
監督 エルラン・ヌルムハンベトフ
上映時間 81分

<あらすじ-公式サイトより->

ユーモアと優しさあふれる人間賛歌

カザフスタン南部の、のどかな村を舞台に、若いカップルを中心に繰り広げられる結婚と出産にまつわるエピソードを描く作品。ストーリーというより、そこに生活するシンプルな人々のライフサイクルを、淡々とユーモラスな語り口で映し出す。2015年の釜山国際映画祭でNewCurrent賞を受賞した。

人々の日常を見つめ続けている「くるみの木」

のどかな田舎。くるみの大木がある一軒の家。
くるみの収穫をしている息子に母親は「明日にも嫁を連れて来るんだよ、孫の顔を見てから死にたいもんだ」と言い、素直にうなづく息子。
息子は意中の相手に合意の上で誘拐婚をするために友達を誘って出かけていきます。

登場人物の関係がすぐには呑み込めなくて、最初、登場人物がバラバラのパズルを眺めているようだったのだけど、カザフスタンの人たちが常に淡々としていて、ひたすらゆるい村の人々の日常が実にユーモラス。
それぞれの生活の一部を覗いているような気分になります。
夢か現実か分からないような幻想的な映像はエッジが効いているし、少しすっとぼけているのが愛らしい。

一組のカップルの結婚の顚末を通して語られるカザフスタンの人々の日常を「くるみの木」になったつもりで観るといいよ!

カザフスタンって文明のクロスロードなのかも

人間といい動物といい、いろんな民族が入り混じって暮していて、複数の宗教が混在しているように見えました。
最初、男の子が割礼してて、妹が心配して泣きそうになってるシーンからの火事のシーンは、本当におかしくて笑ってしまった。
全体的にコメディ・タッチで、随所に笑えて、最後はなんだか「ほんわー」と幸せな気分になるこの「くるみの木」。
カザフスタンの映画、今回も大当たりでしたねー。

ポスター

3人は友達で、右から歌手を目指す青年、消防士、この物語の主人公(?)ガビット(求婚する男)です。
で、この3人が乗っているこのバイク、後ろに大きな荷台がついてまして。
いやもうこれ、バイクじゃないよねー?軽自動車くらいの感じあるよねー?
っていうツッコミはともかく、このバイクは色々と大活躍で、荷台には人が3人くらいは乗れますよ。