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ゲーマー(ウクライナ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、9本目は

「ゲーマー(Гамер)」

★★★★☆

基本データ:
監督 / オレグ・センツォフ (Oleg Sentsov)
キャスト / ウラジスラウ・ジューク(Vladislav Zhuk)、ジャンナ・ビリューク(Zhanna Biryuk)
あらすじ
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ほとんどの時間をゲームに費やす17歳のアリョーシャは、その世界ではコスとして名の通った存在である。ゲームに熱中するあまり、学校は退学同然。アリョーシャは静かだが熱い情熱をシューティングゲーム「Quake」に傾ける。地元のゲームクラブの大会で3位に入り、賞金だけでなく、チームの一員として無料でクラブを利用できるようになる。シングルマザーの母親の心配をよそに、世界チャンピオンを目指すコス。果たしてその行方は?少年の孤独な闘いが静かに胸に響く。
(公式パンフレットより)

「ゲーマー(Гамер)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

最後に見える世界は、希望か絶望か。
天才少年の孤独な闘いがはじまる。

学生の頃、熱中したことって何?
私は「恐竜研究」「映画鑑賞」「切手収集」で、どちらかというと、熱しやすく冷めやすいミーハーな女だった。

さて、この映画の主人公アリョーシャは、何よりも「ゲーム」にストイックに打ち込む17才。
ゲームに熱中するあまり学校も退学寸前、だけどアリョーシャはゲームに人生をかけている(将来はプロのゲーマーになって生活したいと考えている)ので、心配する母親の話もあまり聞こうとしない。

彼は「ゲームの世界」では名の知れた存在で、彼に憧れているゲーム少年たちも多い。ゲームのために日々練習を積んだ甲斐もあって、国内大会で優勝し、世界大会へと勝ち進み、世界第二位の成績を収める。

世界第二位になったことで、一部では名声を得るが、母親からは学校に行くように説得され、今まで通りにゲームの練習が出来ず、ゲームの腕も落ちていくアリョーシャ。感情を表に出さないアリョーシャだが、彼が心に中に持っている苛立ちは、静かに伝わってくる。

母親が働く店で、後輩ゲーマーから からかわれる一幕。
彼は、苛立ちウォッカをかっ喰らい、最後には今までの人生の全てをかけた象徴のMicrosoftのマウスを捨てる。
バーチャルの世界から現実に、少年から大人に…

ゲーム大会の遠征で同室の男性が言った「ゲームより大事なものが出来るんだよ」という一言。
夢を追い続けること、何かに熱中する事は素晴らしい。
最後の笑顔が意味深だけど、いつに日か「ゲームに熱中した過去」が人生の糧になる日が来ると信じて。

なぜか平家物語を思い出した。
母親の友達の教授が「栄光は長くは続かない」って言ったからか。
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祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。
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この世のすべての現象は絶えず変化していき、どんなに勢いが盛んな者も必ず衰えるもので、世に栄え得意になっている者も、その栄えはずっとは続かず、春の夜の夢のようだ。勢い盛んではげしい者も、結局は滅び去り、まるで風に吹き飛ばされる塵と同じだ。
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アリョーシャは平家じゃないけど、天才が平凡になるのは、難しいことだと思う。
過去の栄光を忘れられないこともあるだろう。
やはり最後の笑顔に含みを持たせた監督は鋭いなぁ。

余談だけど、アリョーシャの友人の携帯着信音が「不思議惑星キン・ザ・ザ」で流れるバイオリンの曲だったように思った。この映画といい「不思議惑星キン・ザ・ザ」といい、音楽が素晴らしい。サントラがあったら欲しいくらい。

オレグ・センツォフ監督のサイン

オレグ・センツォフ監督の対談がアップされていました!

狂舞派-The Way We Dance-(香港) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、8本目は

「狂舞派(The Way We Dance)」

★★★★★

基本データ:
監督 / アダム・ウォン (Adam Wong)
キャスト / チェリー・ガン(Cherry NGAN)、ベビージョン・チョイ(Babyjohn CHOI)、ヨン・ロッマン(Lokman YEUNG)、ジャニス・ファン(Janice FAN)、トミー・ガンズ・リー(Tommy “Guns” Ly)

あらすじ
大学生になった女の子ファーは、父の豆腐屋を手伝う毎日から抜け出し、念願のヒップホップ・ダンスチームBombAに入る。チームの目標はライバルのRooftoppersを打ち負かすこと。持ち前の明るい性格とダンスの実力で、ファーはチームで欠かせぬ存在となり、Rooftoppersからも一目置かれるようになっていく。チームリーダーのデイヴに淡い恋心を抱くが、レベッカ(チームメイト)の嫉妬の眼で見られ、彼女から自分のダンスを否定されて、チームを離れてしまう。
傷心のファーは、リョンという男の勧誘に負け太極拳を始める。いやいやながら稽古を重ねるうちに、ファーは太極拳の奥深さを知り、のめり込んでいくと同時に、落ち着きのあるリョンの包容力に魅かれていく。
ヒップホップダンス、ストリートダンスに情熱を注ぐ天真爛漫な女の子の青春ど真ん中ストーリー。
(公式パンフレットより)

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「狂舞派(The Way We Dance)」

>>> 以下、多少ネタバレあり <<<

豆腐の花は力強くしなやかに舞う。
Cool Hong Kong 今ここに!

福岡国際映画祭オープニング上映作品でもあった「狂舞派」。
「ダンス映画か」と完全スルーしていたのですが、授賞式に出席して「福岡観客賞」を受賞した「狂舞派」チームの嬉しそうな顔を見てると、どんな素敵な映画なんだろうと興味が湧いたので観てきた。

まず、最初に出演者プロフィールをダンスミュージックに合わせて出す。センスが良い。
これから始まるストーリーへの期待感を高めてからの豆腐屋のシーン。センスが良い。
豆腐屋の雑然としたシーンからの、Rooftoppersのビルでのパフォーマンス。センスが良い。

あぁ、もうここまでで(めっちゃ序盤だけど)アダム・ウォン監督、センスが良い!
これは期待できる!!!

主人公ファーは、可愛くて、明るくて、ダンスが大好きで、見ていて応援したくなるキャラ。
いつも、せわしなく動いている(ように見える)。

対して、太極拳の使い手リョンは、飄々とした雰囲気で、この映画に心地よい風を吹き込んでいると思う。
リョンが出てくると場の雰囲気が変わるから退屈しない。

ヒップホップ(ファー)と太極拳(リョン)の対比が面白いな、と思った。
最終的には、この二つ(二人)はうまくシンクロするわけだし。センス良い!

BombAのメンバー、レベッカに「カニみたいなダンス」だと笑われてチームを離脱、怪我をしてダンスが出来ない状況になっても努めて笑顔を絶やさないファー。
踊ることが出来ない私は私じゃない!と悔しがるファーに、ライバルチームのリーダーが、ファーのダンスを認め、励まし、彼女に本当の笑顔を取り戻させてくれるシーンにはグッときた。

また、レベッカがファーを嫌う理由もしっかりとあって、彼女は途中でコスプレグラドルになったりと迷走するのだが、最後に彼女は自分で自分を取り戻すことが出来る力を持っているし、問題山積みだったBombAが、一皮も二皮もむけて成長していく過程は、夢を諦めずに努力する姿はいつも素晴らしいと感じさせてくれる。

ファーとリヨンの二人のシーンには静かな時間が流れていて、心地よいなぁという感じ。
二人で影絵をするくだりが、ダンス大会への伏線になっているのも秀逸。

全編を通しての圧倒的なダンスパフォーマンスは見ごたえがあって、特にライバルチームのRooftoppersのダンスはパワフルでカッコ良くて、スクリーンに釘付けになること間違いなし。

自分と違うものを認めて、切磋琢磨する。ギャップを楽しむ。
夢に向かって努力する「ありのままのカッコイイ姿」を描き出したアダム・ウォン監督、「単なるダンス映画」なんて思っててごめんなさい。

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」を受賞した「狂舞派」。
「ダンス」というツールを通して、めいっぱいの青春を詰め込み、そして夢を諦めずに努力する姿は、アダム・ウォン監督の映画作りへの姿勢にも重なっていて、それでいて全ての人への応援メッセージでもある、そんな素敵なとてもハッピーな映画だった。
そして個人的に、リョンが話す「カニの話」良かったです!

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」恭喜~!


(左から真ん中の四人)アダム・ウォン監督、トミー・ガンズ・リー氏(Rooftoppersリーダー役)、ベビージョン・チョイ氏(リョン役)、サヴィル・チャン氏(プロデューサー)
みんな気取ってなくて普通のお兄ちゃんって感じです。親近感!

トミー・ガンズ・リー氏、本当に義足のプロダンサーだそうです。
9/17が誕生日だったようで、9/18の授賞式は良い思い出になったんじゃないかな~?良かったですね!
こちらの記事も合わせてどうぞ!

そして、リョン役のベビージョン・チョイ氏、劇中では髭も生やしていて髪型も大人っぽい感じだったけど、少年みたいな雰囲気の可愛い俳優さんでした。舞台俳優さんなんだそう。「レッド・カーペットや映画祭、上映会…私にとって全部初めての経験で賞までいただけたことに感激しています。一生で忘れられない経験となりました。福岡は、日本でこの映画を広めるチャンスを作ってくれた場所。日本でも口コミでぜひ、この映画の面白さを伝えてほしい」だって・・・惚れた!

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」授賞式の様子はこちら!
レポート記事はこちら!

アダム・ウォン監督の受賞コメント書き起こしました。(発表は25分くらいから)
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ありがとうございます。この賞は予想もしていませんでした。
実はこの映画を作るのに4年かかりました。4年前、私とサヴィル・チャンは街中に座り込んでこの映画の草案を練っていました。
香港では、大学に行って「ダンスの映画を作りたいんだ、でも人気俳優なんて全然出ないんだ」と言うと散々バカにされたわけです。でも、私たちは信念を持っていました、この映画は絶対に良い映画になる、と。しかも香港の中でダンスをしているグループの人たちにに魅了されたんです。みんな情熱、ロマンスを持ってダンスをしていたのです。だから、絶対にやる価値がある、やろうと思ったわけです。そして最終的に良い俳優にめぐり合えて、この映画を完成させることが出きました。でも商業的に成功するということは最初全然考えていませんでした。ただ良い映画を作りたかっただけです。
しかし、とうとうこのように「福岡観客賞」を受賞するまでになりましたし、実際、香港でも大成功を収めています。もちろん、香港では沢山の人がこの映画をほめてくれましたし、ちょっとしたブームになっているというくらいです。プラスのコメントもネガティブなコメントも含めて、全部受け止めて、これからも前に進んでいきたいと思っています。
そして、今日は本当に予想もしなかったこの賞をいただくことになり、本当に嬉しい限りです。
この賞というのは、私たちチームが一丸となって努力した証だということ、それを確信するに至りました。本当にありがとうございます。
この機会に日本全国の観客のみなさんに、この映画祭の皆さんに心からお礼申し上げたいと思います。そして、日本映画そのものにも心からお礼申し上げたいと思います。私は実は日本映画からものすごく大きな影響を受けたんです。ぜひいつの日か、近い将来に、日本の映画を日本人の俳優さんたちと共に日本で作ってみたいと思います。
ありがとうございました。
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サントラも絶好調の様子。「狂舞派」劇中の良いとこどりのPVとなってます。

DoughBoy – 狂舞吧 (電影狂舞派主題曲) Official MV

納得のアジアフォーカス・福岡国際映画祭2013「福岡観客賞」受賞でした。
香港の若くて素晴らしい才能に乾杯!
福岡を皮切りに全国でこの「狂舞派」が観られる日が来ることを祈っています。

「狂舞派」チームのサイン!

授賞式編集されたのを見つけたので貼っておきますー。

花様~たゆたう想い~ Ripples of Desire(台湾) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、3本目は

「花様~たゆたう想い~ Ripples of Desire」

★★★★☆

基本データ:
監督・制作・脚本 / 周美玲(ゼロ・チョウ)
キャスト / 陳意涵(アイビー・チェン)、言承旭(ジェリー・イェン)、陳妍希(ミシェル・チェン)、鄭元暢(ジョセフ・チェン)、任達華(サイモン・ヤム)
公式サイト

あらすじ
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300年前の中国外洋。美しい姉妹・小雪(シャオシュエ)と小霜(シャオシュアン)が漂着したのは“流嶼島”だった。
妓楼「花漾楼(かようろう)」の女主人に拾われた二人は、ある秘密を胸の奥底に押し隠し、芸妓としての道を歩む。
しかし花漾楼にやって来る男たちによって、彼女たちの愛と運命はまるで海面に浮かぶ花の様に、次第にたゆたい始める。
4人の若者の切ない恋模様が艶やかな映像で描かれる。

「花様~たゆたう想い~ Ripples of Desire」

>>> 以下、多少ネタバレあり

ゼロ・チョウ監督は、著名人では台湾で唯一レズビアンだとカミングアウトしている女性だそう。
女性監督が歴史映画を撮ることで、男性でなくても大作を手掛けることが出来るんだという、すべての女性監督への応援映画でもあるようです。
脚本から何から全て手掛けていらっしゃいますもんね!

日本での公開は10/26~とのこと。お楽しみに!

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パルウィズ-Parviz-(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、2本目は

「パルウィズ」

★★★★★

基本データ:
監督 / Majid Barzegar (マジド・バルゼガル)
美術監督 / Leila Naghdi(レイラ・ナグディパリ)
キャスト / Levon Haftvan(レヴォン・ハフトワン)、Homeira Nonahali(ホメイラ・ノナハリ)、Mahmoud Behrouzian(マームド・ベヘルジアン)
あらすじ
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父親と二人で暮らす中年男パルウィズ。
定職もなく、結婚もできず、デブで、冴えない男だが、長年暮らしてきた集合団地の中では住人たちの雑用をあれこれ請け負うなど彼なりの居場所を確保していた。
ところが父親の再婚を機に状況は一変してしまう。家を追い出されたのだ。
(公式パンフレットより)

「パルウィズ(Parviz)」

>>> 以下ネタバレあり クリーニング店でのひとコマ。
大きな洗濯機にウールの洋服が入っていると気付くパルウィズ。
「一緒に洗ったらいけないやつが入ってる」と店主に教えるが、店主は「大丈夫だよ」と言う。

洗濯機の中で同じように回る洗濯物から、違うものを一つ見つけるパルウィズが
自分に気付いて欲しいと訴えているようで、このシーンはとても悲しかった。

デブっていうのは、憎めなくて、おっちょこちょいで、愛すべき存在として描かれることが多い(例えば、サモ・ハン・キンポーとか)けど、このパルウィズはだいぶ違う。
(もちろん、最初はパルウィズも太っちょで不器用だけど憎めない、普通の人として描かれています。)

宗教的、社会的、政治的な観点から(?)イラン国内ではまだ公開出来ていないとのこと。

イランだから、ではなく、
どこにいても身の回りで身近に起きそうな問題を提起しているこの映画「パルウィズ」。
パルヴィズの視線で写る世界、皆さんには、どう映りますか?

マジド・バルゼガル監督、レイラ・ナグディパリ美術監督、主演のレヴォン・ハフトワン氏。

「sachikoの幸は、私の国の言葉で “shadi” だよ」と微笑んで、サインと一緒に”shadi”と書いてくれたマジド・バルゼガル監督とレイラ・ナグディパリ美術監督。
主演のレヴォン・ハフトワン氏は、とても気さくで優しくて、ハグまで出来て幸せでした。

スケジュールはこちらをチェック

マジド・バルゼガル監督のインタビューがアップされていました!