「福岡国際映画祭2014」カテゴリーアーカイブ

ひとり(カザフスタン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「ひとり / Little Brother」

★★★★★

邦題 ひとり
英題 Little Brother
製作国 カザフスタン
製作年 2013年
監督 セリック・アプリモフ
上映時間 94分

<あらすじ>

ひとり佇む少年の孤独と愁いが胸に迫る

母親に死なれて以来、イエルケンは小さな村でひとりでたくましく暮らしている。子供だと思ってナメてかかる大人たちと闘いながら。そんなある日、実の兄が突然帰ってきた。喜びと幸せ。これで、ナメられないですむ。イエルケンはその兄を頼りにしようとするが…。必死に生きようとする少年の心根をわかってくれる大人はいない。ひとりぼっちの彼の矜持と孤立が切なく、健気だ。

「ひとり / Little Brother」

小学生のイエルケンは、なんと山の村で一人暮らしをしている小学生。
母親が亡くなったあと、父親は再婚し家を出て行ってしまった。
その父親は、1カ月に1回、食料などを持ってくる。
ご飯はその材料で隣の人が作ってくれる。

イエルケンはいつも一人で生活していて、日干し煉瓦を作ったりしている。
そんな彼に、周りの大人や学校の先生でさえも親切にはしてくれない。

健気に泣かずに頑張っているイエルケン。
そんなある日、都会の学校に行っているお兄ちゃんが里帰りすることに。
「これで皆を見返すことができる!」と嬉しくてたまらない。
お兄ちゃんに、相手を負かす寝技なんかを教えてもらったりする。

イエルケンはお兄ちゃんが喜んでくれるようなことを次から次にする。
お母さんの墓参りに行ったり、映画を観に行ったりもする。
映画は6人以上じゃないと上映しないと言われて、6人分の入場料を払ったり。

ところがこの兄ちゃん、里帰りの目的は「恋人」と「金」だった。
イエルケンに知り合いを回らせてお金を借りて来させる兄。
だけど、イエルケンは嫌な顔をしない。

山羊を盗まれたり、作った煉瓦のお金を払ってくれなかったり、金貸しの借金を背負わされたり、子供だからと言ってイエルケンを利用して騙したりするのだから、ホントとんでもない境遇だ。
兄でさえもイエルケンを利用して・・・。

結局、兄は弟から巻き上げた金を使い果たし、街へ戻って行ってしまう。
「バスの見送りがないと親戚がいない人のように思われる」と言うイエルケンは、兄の見送りに行く。

帰り道、お祭り帰りのピエロと出会うシーン。
馬鹿にされながら観客を笑わせているピエロ。
ピエロの顔を見損なったのだけど、悲しみを持つという意味を表現した「涙のマーク」があったのだとしたら、それはイエルケン自身だったのかもしれない。

ピエロにもらったハーモニカを少し吹いて佇むイエルケン。
最後には、イエルケンはまた「ひとり」になる。

初めて観たカザフスタン映画。
なんとエンドロールで「弟に捧げる」と書いてあった。
兄は監督だったのか!!!

イエルケンの暮らしが特に貧しいような描き方はされていないので、すごく悲しい気分になったりはしなかった。
とても健気でたくましいイエルケンが成長して、兄と一緒にお酒を飲み交わしていたらいいなぁと思った。
監督が来福していたら、質問攻めにあっただろうなぁ・・・。

——————————-
アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014、これで観た映画のレビュー全て書き終わりました。
(「sala(禁忌)」は日本公開になったらレビューする予定)
今年の鑑賞本数は15本。「予兆の森で」は二回観たから16本。

5点満点
予兆の森で」「シッダルタ」「ひとり」「絵の中の池

4点
ジャングル・スクール」「慶州」「タイムライン」「山猪温泉
ロマンス狂想曲」「私は彼ではない」「ブラインド・マッサージ

3点
神の眼の下に」「兄弟」「サピ」「sala(禁忌)」。

今年の作品は全体的に、自分のアイデンティティーとか、存在する意味を問うような内容が多かったという印象です。そして、ループするような感じ。
そしてやっぱりゲスト登壇があると、より映画の内容が分かって面白いです。

さて、アジアフォーカス・福岡国際映画祭。
来年は25周年ということで、さらに期待大です!

サピ(フィリピン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「サピ / Possession」

★★★☆☆

邦題 サピ
英題 Possession
製作国 フィリピン
製作年 2013年
監督 ブリヤンテ・メンドーサ
上映時間 102分

<あらすじ>

これは現実か?スーパーリアルな社会派ホラー登場!

冒頭から、ぐいぐい惹きつける。緊迫感あふれるドキュメンタリータッチの映像が、一気にリアル感を高める。陳腐になりかねない悪魔祓いという超常現象を、ニュース報道の世界を通じて描き出す。日常の中に侵入する恐怖が、悪夢のように観客を襲う。返す刀で、メディアの現実もえぐりだす。単なるホラーで終わらせないのがメンドーサ監督の凄さ。
※R18

「サピ / Possession」

テレビ局が舞台。
「悪魔憑きの取材」というストーリーの中、突然不可解で恐ろしい出来事が登場人物のみに次々と起こる。
ホラー要素は詰まってて、あ~!何か来る!と思った瞬間、次の場面では何事もなかったかのようにしていて・・・。
やらせや裏取引、醜悪なマスコミの裏面を描いて、権力という名の悪魔に取り付かれたのは自分たちではないのか、心の内で起きた何かをうまく表現しているなぁと思った。

テレビ局のプロデューサー役のメリル・ソリアーノさん。
劇中も「メリル」という名前で、すごくリアリティがあった。
本当にこんなプロデューサーいそう!っていう感じ。

個人的にはちょっと不完全燃焼の3点(エクソシストみたいな感じだと思って観たからなんだけど・・・)だけど、友人はもう一度観たいと言っていた。
フィリピンの街並みとか、心霊現象を信じる人たちとか、ひとつひとつを観れば興味深い映画だったのかも。
もう一度観る機会は来るのだろうか~。

Q&A記事

兄弟(フランス/グルジア) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「兄弟 / Brother」

★★★☆☆

邦題 兄弟
英題 Brother
製作国 フランス/グルジア
製作年 2014年
監督 テオナ・ムグヴデラゼ
上映時間 98分

<あらすじ>

グルジア内戦を少年の視点から鮮明に描く

1990年代初頭、内戦の影が忍び寄る都市トビリシ。銃声が響き、街を逃れる人々も多い中、マイアは二人の息子を育てている。兄ギオルギは休校が続く中で、次第に悪の道に進む。弟ダトゥナは才能豊かなピアニストで、母と兄の誇りである。重苦しい時代、明るいダトゥナの存在はかすかな希望の光だった。ソ連からの独立を模索する小国グルジアの未来であるかのように。

「兄弟 / Brother」

映画は、グレン・グールドに憧れて
ピアニストを夢見る少年ダトゥナの弾くシューベルトの即興曲から始まる。
美しいシーンの中に、時おり銃声がひびく。

内戦の混乱と暴力に巻き込まれる兄弟。
いつ終わるか知れない混乱の中で、
ダトゥナも次第に笑顔を失い、ついには声も出なくなってしまう。

一方、ギオルギは弟思いの優しい兄だが、
祖国が変わっていくと同時に、兄も変わっていってしまう。

ダトゥナ(弟)が登場するシーン(ピアノを弾くシーン)は、安堵と静寂。
ギオルギ(兄)が登場するシーンは、都会の喧騒や革命の動乱。
といった感じで、この映画のコントラストになっている。

テオナ監督は、内戦時14歳だったのだそう。
国家によって、子どもたちが巻き込まれていく理不尽さ。
90年代グルジアの失われた世代を知るドキュメンタリー的な映画だった。

ダトゥナが声と笑顔を取り戻す時、兄も暖かい光に包まれる最後のシーン。
グルジアの子どもたちが明るい未来を取り戻せる日が来ると信じて。

弟役のダトゥナを演じるのは、本当にピアニストを目指す少年だそうで、
彼の綺麗で長い指に終始目が釘付けになった。

兄。公式パンフレットを確認したら、17歳とのこと。
あまりに恰幅がよかったので、17歳に見えなかったのは私だけかな・・・。
福岡市図書館のフィルムアーカイブに収蔵されるそうなので、また機会があればじっくり観たいと思う。

ディレクター懇談
QAもあったはずなんだけど、まだ記事になっていないよう。

ブラインド・マッサージ(中国/フランス) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「ブラインド・マッサージ / Blind Massage」

★★★★☆

邦題 ブラインド・マッサージ
英題 Blind Massage
製作国 中国/フランス
製作年 2014年
監督 ロウ・イエ
上映時間 114分

<あらすじ>

中国第6世代の旗手ロウ・イエの最新作。

南京のマッサージ院を舞台に、そこで働く男女の愛と憎しみ、欲望と痛みなど、人間模様を苛烈に描く。見えない人間だからこそ、繊細な指の感覚が身体の痛みをとらえ、癒すことができる。1組のカップルが新入りとして働きだし、それまでの平穏な日常が一転、マッサージ院に緊張が走る。人間の希望と幻滅を凝視する、圧倒的な演出力。
※R15

「ブラインド・マッサージ / Blind Massage」

マッサージ治療院にく視覚障害者の物語。
障害者と健常者を混ぜて配役していて、とても生々しい。

盲人男女10人による、もつれ合い絡み合う人間関係。
見えないがために感じる不信感で、激しく争ったりする。
人間社会の普遍的な出来事を、視覚障害者を通して描くことで、感覚を研ぎ澄まして感じることが出来るような作品だった。

思いは一人一人違うけど、最後のシャオマーの笑顔とマンの佇まいは、
幸せは案外普通のことを寄せ集めたものなんだと気付かされる素敵なシーンだった。

マン役のホアン・ルーは「ロマンス狂想曲」のチン・ランもやっていた。
対照的な役なんだけど、個人的には「ブラインド・マッサージ」のホアン・ルーの方が好き。

山猪(いのしし)温泉(台湾) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「山猪(いのしし)温泉 / The Boar King」

★★★★☆

邦題 山猪(いのしし)温泉
英題 The Boar King
製作国 台湾
製作年 2014年
監督 クオ・チェンティ
上映時間 102分

<あらすじ>

山奥の温泉で繰り広げられる優しき人間ドラマ

奥深い山間の山猪(いのしし)温泉。ここで小さなホテルを営む夫婦がいた。強力な台風が襲い、一帯は壊滅状態となった。夫は台風の日に出かけて以来、行方知れず。ホテルも甚大な被害を受け、残された妻は途方に暮れる。そんな時、夫が知人宛に送ったパーティの招待状が届いた…その真意は?絶望的な環境の中、未来へと期待をつなぐ人々を温かいまなざしで描く。

「山猪(いのしし)温泉 / The Boar King」

この映画も実話に基づいたフィクションだ。
台風によって一夜にして破壊された故郷を離れるか、残って再建をするか。
この物語の主人公たちは「残る」ことを選んだ人たちの物語。

ビデオ撮影が趣味のロンは、台風の日のもビデオをまわし、その日以来行方不明になってしまう。
台風後の山猪温泉には、宅地開発をする業者が来て、残っている土地を買収している。
メイチュエは途方に暮れるが、ロンが生前に発送した知人宛てのパーティーの招待状と引き出物が届いたことが分かり、ロンが残したビデオを見ながら、夫がなぜそんなことをしたのかを考える。

「山猪温泉」は夫の夢だった。
それは、メイチュエの夢にもなるのだろうか。
残された人たちの選択は・・・。

多くを語らないメイチュエだが、夫に対する気持ち、山猪温泉への愛着、その芯の強さが伝わってくる。
義理の娘フェンにとっても、家族の絆を思い出させる父親のビデオ。
家族の幸せな時間を映したビデオはカラー、台風後の現在はモノクロで表現されている。
メイチュエとフェンの思いがひとつになったとき、希望の光が全てをカラーにするのだ。

最初の梅の花のシーン。
力強く咲く梅が、再建に向けて頑張っていこうという思いと繋がっていて、ロンからのメッセージのようにも受け取れた。

主演のルー・イーチンさんは「ピノイ・サンデー」にも出ていた女優さん。
ひょうひょうとしていて、芯が強い雰囲気の女優さんだと記憶している。
娘役のウー・イーティンさんは、小さくて可憐ですごく可愛らしい女性だった。

今回、二人とも福岡に来られていたのだけど、残念ながらQAには参加できず。
最終日の上映にて鑑賞。
福岡市図書館のフィルムアーカイブに収蔵されるそうなので、また観る機会がありそう。
もう一度観たくなる映画だった。

Q&A記事

ジャングル・スクール(インドネシア) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「ジャングル・スクール / The Jungle School」

★★★★☆

邦題 ジャングル・スクール
英題 The Jungle School
製作国 インドネシア
製作年 2013年
監督 リリ・リザ
上映時間 90分

<あらすじ>

学ぶことの素晴らしさを教えてくれたのは…

NGOで働くブテットはスマトラ島の森で暮らす子どもたちに読み書きを教えていた。ある日、森の中で倒れ、別の集落の少年ブゴに助けられる。彼の集落には読み書きできる大人がいない。そのせいで森の外の人間から不当な扱いを受けていると知ったブテットは……。実在の人物を主人公に、気鋭リリ・リザ監督が、自然、文明、教育、そして次世代に向け未来を穏やかな視線で問う。

「ジャングル・スクール / The Jungle School」

スマトラの熱帯林を舞台に「森の人」に読み書き計算を教えた女性教師ブテット。
その実話を元にしたリリ・リザ監督の「ジャングル・スクール」。

伝統と文明、そして教育とは何か。
なぜ知識(勉強)が必要なのか。
本当に住民たちのためになる支援がどういうものか。

学問が災いをもたらすという原住民の価値観も尊重し、
心から教育を望む子供の気持ちにも寄り添うブテット。
ジャングルで自然と共に生きる人々が、自分たちと森を守るための教育。
森の外と森の中をつなぐコミュニケーションとしての教育。
純粋で素直な子供たちに未来を託して。

最後は彼女の想いが実を結ぶ。
そして私たちも映画を通して「なぜ勉強するのか」「本当の支援とは何か」を考えるのだ。

とにかく、カメラワークが素晴らしい。
アニメーションも使っていて、子供が見ても分かりやすい内容。
そしてブテットにくっついて離れない二人の子供がとっても可愛い!

「ジャングル・スクール」主人公を演じたのはプリシア・ナスティオンさん。
2013年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された「聖なる踊子」の主演女優。

プリシア・ナスティオンさんとリリ・リザ監督、お二人とも去年は福岡に来ていたので、実は福岡で出会ってこの映画を一緒に作ったのかな!?
なんて思いながら鑑賞した。
素直に感動する、納得の観客賞受賞作品だった。

ディレクター懇談
福岡観客賞受賞おめでとう!

シッダルタ(インド/カナダ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「シッダルタ / SIDDHARTH」

★★★★★

邦題 シッダルタ
英題 siddharth
製作国 インド/カナダ
製作年 2013年
監督 リチー・メーヘター
上映時間 96分

<あらすじ>

これは今日のデリーで起きている事である

デリーでジッパー修理をして細々と収入を得ているマヘンダル。そこで、苦しい家計をなんとかしようと、12歳の息子シッダルタを遠方の工場で働きに出す。しかし数週間たっても息子は家に帰ってこない。お金もない、財産もない、頼れるひともいない。父親は自ら息子捜しの旅に出る。父親のその愚直なまでの姿に、わたしたちは祈るような気持ちでスクリーンを見つめてしまう。

「シッダルタ / SIDDHARTH」

これは「実話」である。
リチー監督がデリーに里帰りした際に、タクシーに乗ったリチー監督は運転手に「ドングリ」という場所を知っているかと聞かれた。タクシー運転手である彼は、自分の息子の身に起こったことを話し始めた。
1年間ずっと息子を探していた運転手。息子は「ドングリ」という場所にいるという噂がある。そこを知っているかと。リチー監督は、持っていたiPhoneで「ドングリ」を検索、「ドングリ」はムンバイにあるとすぐに分かった。運転手は他にも何か分かったら教えてくれと、電話番号をリチー監督に渡す。
後日リチー監督が電話すると、その電話番号はまったく別の人のものであった・・・。

お金もない、財産もない、頼れる人もいない。
警察への届け出も「行方不明者を探すには時間が経ちすぎている」と言われ、父親は自ら息子捜しの旅に出ようとするが、ムンバイまで行くのに45日働いてお金を貯めなければいけない。
父親が息子の行方を尋ね歩くその姿には、涙せずにはいられなかった。

探し疲れ、最後には「俺は息子の顔も思い出せない・・・」とつぶやくマヘンダル。
自分の父親に電話するマヘンダル「俺は出来ることは全てやったんだ・・・」と。
父親に「これも神のご意志だ。お前は帰って嫁と娘の世話をしっかりするんだ」と言われ家に戻るマヘンダル。次の日、マヘンダルは家族を守るために、力を振り絞って働きに出かけるのだ。

インドで頻繁に起こっている子供の人身売買。
現在はパキスタンルートなどもあるそう。

インドの貧困層の人たちの現実を丁寧に描いたリチー監督。
政治的、宗教的問題は抜きに、人が尊厳をもって生きていくとはどういうことか、心に訴える作品だった。
家族もいる、落ち込んで鬱になるという選択肢はなく、働かざるをえない状況で生きている。
どんなに劣悪な状況だろうと前向きに生きる人たち。

今までずっと一緒に居た人が突然居なくなる悲しみ、何が「救い」になるかは分からないけど、それでも生きている私たちは、生きていかなければいけない。前を向いて。


Q&A時のリチー監督。
小さなことを発見する天才、どんなことにでも興味を持つって素晴らしい。
真面目だけどお茶目な一面もあってファンになっちゃった!

Q&A記事

ロマンス狂想曲(台湾) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「ロマンス狂想曲 / Apolitical Romance」

★★★★☆

邦題 ロマンス狂想曲
英題 Apolitical Romance
製作国 台湾
製作年 2013年
監督 シエ・チュンイー
上映時間 90分

<あらすじ>

甘くてピリっと刺激的な異文化交流ラブコメディ

台湾と中国大陸のむずかしい関係を、ふたりの若い男女に託して爽やかに描く。アーチェンは役所で働くやさ男。ある日、北京から祖母の初恋の人を探しに来たチン・ランと出会う。美人だが、わがままで押しが強い。人捜しの旅で、ふたりは感じ方考え方の違いに衝突を繰り返す。近づけそうで近づけないもどかしさ。ぎくしゃくしながら、このドタバタ恋愛喜劇はノンストップで突っ走る。

「ロマンス狂想曲 / Apolitical Romance」

タイトルの元ネタは、リッチー・レンが歌ってヒットした「對面的女孩看過來」ということで、原題は「對面的女孩殺過來」。
直訳すると「向かいの女の子が殺しにやって来た」という物騒なタイトル!
監督いわく「普通にやって来るのではなく、すごい勢いで来た」という意味なんだそう。

台北の28歳の公務員アーチェン。
上司に提出する企画書をまとめるのには「中国大陸の人間との交流が不可欠」と言われて、台北の食堂で知り合った中国人の旅行者チン・ランを自宅に連れ帰ることに。

祖母のかつての恋人を捜しに台湾にやってきたチン・ラン。
提出する企画書の修正に協力してもらう代わりに、人探しを手伝うことになったアーチェン。
政治的背景も違えば性格も違う2人は、感じ方、考え方の違いに衝突を繰り返しながらも、互いに信頼する関係を築いていく。

近づけそうで近づけないもどかしさ。
2人を通して台湾と中国大陸の難しい関係を爽やかに描いていて、アップテンポの展開が心地よい作品だ。
そして家族との関わり合いに関してもほろりとさせてくれる。

政治的に難しい関係にある国はたくさんあるけど、人と人とは分かり合える、つながることが出来る。
若い世代にはその差を「埋めていく力がある」と感じさせてくれる。

それにしても、アーチェン。見事なガンプラヲタ!それもとっても爽やかな。
チン・ランのお蔭で、アーチェンは自分の夢に向かって進んでいくのだが、チン・ランのガンプラへの扱いがひどすぎると話題になっていた(笑)。
その理由が、彼女が彫刻を勉強している学生だということが分かったから。

まぁ、確かに。
芸術が分かる人は、そういうものに対しても敬意をもって扱うのではないかな~と。
監督はガンダムが大好きだと言っていたから、逆に意図してそういう風にしたのかもしれないね!


上映前挨拶では、「福岡が大好きになりました。」とシエ・チュンイー監督。
チャン・シューハオさんは「福岡に来てからは、毎日ラーメンを食べています。」と言って笑いを誘っていた。
シエ・チュンイー監督もチャン・シューハオさんも爽やかなイケメンで、このお二人からロマンスお裾分けしてもらえて最高の1時間半。

Q&A記事

神の眼の下(もと)に(韓国/カンボジア) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「神の眼の下(もと)に / God’s Eye View」

★★★☆☆

邦題 神の眼の下(もと)に
英題 God’s Eye View
製作国 韓国/カンボジア
製作年 2013年
監督 イ・ジャンホ
上映時間 90分

<あらすじ>

究極の状況の下で描かれる人間の苦悩と選択

東南アジアのある国で、海外宣教の奉仕活動をする9人の韓国人。ある時、イスラム過激派たちが支配する地域に足を踏み入れてしまった。ほどなく一行は、拉致される。彼らの運命をにぎるのは…。80年代、韓国ニューシネマの急先鋒だった韓国リアリズム映画の巨匠イ・ジャンホ監督が19年ぶりにメガホンをとった注目作。濃厚な演出力と繊細な心理描写で描く人間ドラマ。

「神の眼の下(もと)に / God’s Eye View」

架空のイスラム国家でキリスト教の布教活動をする韓国人が武装集団に拉致されるという設定で信仰とは何かをストレートに問うこの映画。
敬虔なクリスチャンであるイ・ジャンホ監督が、遠藤周作の「沈黙」をモチーフに撮影した力作。

自らの神への愛を守るためには、クリスチャンたちを苦しめなくてはならない。
クリスチャンたちを救うためには、自らの神への愛を捨てなくてはならない。

主人公ヨハンも、このジレンマに2度遭遇している。
神はなぜ沈黙を続けているのか。

ヨハンは、宣教師でありながら、一度背教した過去があった。
人間は弱い。どんな人間でも、苦しみを知り、許しを乞いながら生きている。
弱い者が強い者よりも苦しまなかったと誰が言えるのか。

どんなに弱く、愚かでも「許しを乞う」という権利だけは残されている。
自分の弱さを認められる人だけが強くなれる。

壮絶なラストシーン。
一緒にいた神父はヨハンと同じ「聖なる背教」をしてしまう。
ヨハンの最後の笑顔がすべてを物語っていた。

主演のオ・グァンノク氏の圧巻の演技に圧倒される。
そして絶望的な状況の中で、少年兵との交流が描かれているのだけど、そのときばかりはホッとする一コマとなっている。

韓国にキリスト教の基盤があるというのは知っていたけど、キリスト教に慣れ親しんでいない日本人からすると、理解できない部分も多くて、宗教って本当に難しいと思った。
特に、イスラムとキリストというのは相容れないとても敏感なテーマであるし、キリスト教=善、イスラムゲリラ=悪 というステレオタイプな構図には、多少違和感を覚えた。
宗教映画ではないので、人間の心の葛藤を描いた作品として観るとより楽しめる作品だと思う。

オ・グァンノク氏自身は宗教を信じていない人だそう。
宗教というのはデリケートな問題なので、そこに生きている人たちの観点から演じたとのこと。


主演俳優のオ・グァンノク氏。
とても気さくで、穏やかで、やさしい笑顔の普通のおじさま。


オ・グァンノク氏とキム・ヒョヌプロデューサーのサイン。
ハート書いちゃうグァンノク氏、素敵すぎて萌えた~。

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私は彼ではない(トルコ/ギリシャ/フランス) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「私は彼ではない / I’m not him」

★★★★☆

邦題 私は彼ではない
英題 I’m not him
製作国 トルコ/ギリシャ/フランス
製作年 2013年
監督 タイフン・ピルセリムオウル
上映時間 129分

<あらすじ>

人間の内に秘めた欲望を独特のリズムで描く

独身の中年男ニハット。ある日、職場の同僚アイシェから夕食に誘われる。部屋の写真を見て、彼女の服役中の夫が自分に瓜二つであることに気づく。二人は同棲を始めるが、アイシェは間もなく事故死。夫になりきって生活を続けるニハットだが、その後思わぬ事態が…。他人の顔になりすました人間のおそれとおののき、カフカ的な展開が魅力的である。

「私は彼ではない / I’m not him」

最初のシーン。
朝起きて鏡をのぞくニハット。
自分の顔をしげしげと見つめ、立ち去る。
そのあと、鏡のなかだけに顔があらわれる。
・・・私は彼ではない。

ニハットは職場でアイシェと出会う。
アイシェの夫は服役中だが、なんとニハットとそっくりなのだ。
こうして、ニハットは夫の「そっくり」として生きることにする。

ニハットは他人(ネジップ)になり変わることで、自分の欲望を全て実現させたように見えた。
他人になりかわりアイデンティティも揺らいでいく。

最後は、ニハットはネジップとして囚われて、最初に入れられた留置場に入れられる。
また見知らぬ男がいる。男は靴で鉄格子を叩くのだろうか。
ラストシーンで鉄格子を叩く音は、最初のそれよりも弱々しい。
ニハットが叩いているのだろうか。

見かけは I am him
行動は I’m not him だったのか・・・。

「私は彼ではない≒私は彼になった」
どこまでも曖昧で、答えのない意識の迷路に迷い込んでしまって、それを楽しむタイフン監督はちょっとズルいw。

それにしても、トルコの皆さんはよくチャイを飲みますね。
喫茶でチャイ、夕食前にチャイ、フェリーに揺られてチャイ、アイシェが死んでもチャイ。
帰りにチャイを飲んで帰ったのは言うまでもなし。

タイフン監督はとても素敵なおじさま!
女優のマルヤムさんはとてもクレバーで、美しかった~。

Q&A記事
ディレクター懇談
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予兆の森で(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「予兆の森で / Fish & Cat」

★★★★★

邦題 予兆の森で
英題 Fish & Cat
製作国 イラン
製作年 2013年
監督 シャーラム・モクリ
上映時間 141分

<あらすじ>

驚異の1カット撮影!終始漂う不安感は病み付きに

まがまがしい予兆をはらみながら、カメラは移動し続ける。森に囲まれた湖の畔、凧揚げイベントに参加するために集まった学生たち。近くのレストランの料理人たちは料理のための”肉”を探していた…。本作は実話に基づくが、決定的な何かが起こるという不安をはらんだまま、何も起こらない物語の中をさまよい続ける。134分を1カットで撮影した大胆不敵な傑作。

「予兆の森で / Fish & Cat」

さすが!イラン映画にハズレなし!
まず、全編ワンカット撮影という、なんとも実験的な作品で、これは絶対に観たいと思っていた作品。

説明は難しくて、まぁとにかく観てよ、っていう感じだけど、
監督の言うように、まさにエッシャーのだまし絵を見るような感覚の映画。
不安のリレーかと思っていたら、デジャヴした瞬間、少しずつ混乱。

ループして、ねじれて、交錯していて。
モクリ監督の作った不気味な森を彷徨ってる気分。
音楽の付け方も秀逸だし、映画全体の色彩も素晴らしい。

全編ワンカットで撮った理由として、観客に時間の流れを感じて欲しかったと仰っていた。
カットがある映画は虚構で現実じゃないから、中国の模倣品みたいなるから、と(ここで笑い起きるw)。
また、ワンカットだったので検閲もらくらくパスだったらしい。

タイトルの「Fish & Cat」に関しては、
猫がいつも魚を狙っているように、若い世代を狙う古い世代(新しく変化することを好まないというイラン独特の世界観)、またイラン自体が常にどこかに狙われている状態で、何かが起こるかもしれないという不安を抱えつつ生きるイランの人たちの現実も描きたかったとのこと。

シャーラム・モクリ監督、1978年生まれということで、勝手に親近感!クレバーで、クリエイティブで、新しいことに挑戦する勇気があって。
それに、いつもニコニコしていて、話してみるとご夫婦そろって、すっごく素敵な方だった。
イラン人の半分は優しさで出来ているって本当だな。

個人的には「予兆の森で / Fish & Cat」に観客賞をあげたいほどの作品だった。
ポスターは怖いけど・・・もう一度、観たい。

Q&A記事
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タイムライン(タイ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「タイムライン / Timeline」

★★★★☆

邦題 タイムライン
英題 Timeline
製作国 タイ
製作年 2014年
監督 ノンスィー・ニミブット
上映時間 135分

<あらすじ>

時代を超えて想いがつなぐ甘く切ない物語

シングルマザーのマットは、一人息子のテーンが農業学校へ進み、農園を継いでくれることを望んでいた。しかし、テーンは新しい世界を望んでいた。彼は母を説得し、バンコクへ。大学の新入生歓迎会で、 チャーミングなジューンと出会い、彼の日常は変わっていった。タイ映画の王道を行く、ハートフルな感動作。唐津くんちなど、佐賀県各地で撮影されたシーンにも注目。

「タイムライン / Timeline」

>>> 以下、多少ネタバレあり

テーン役のチラーユ・タンシースックさんからのビデオメッセージ。
上映後のQAでは、ジューン役のャリンポーン・ジュンキアットさんが、
映画と同じく可愛らしい仕草、キュートな笑顔で会場を沸かせていた。
佐賀県のロケでは、特に祐徳稲荷神社が素晴らしかったとのこと。

<上映スケジュールは こちら