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神の眼の下(もと)に(韓国/カンボジア) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「神の眼の下(もと)に / God’s Eye View」

★★★☆☆

邦題 神の眼の下(もと)に
英題 God’s Eye View
製作国 韓国/カンボジア
製作年 2013年
監督 イ・ジャンホ
上映時間 90分

<あらすじ>

究極の状況の下で描かれる人間の苦悩と選択

東南アジアのある国で、海外宣教の奉仕活動をする9人の韓国人。ある時、イスラム過激派たちが支配する地域に足を踏み入れてしまった。ほどなく一行は、拉致される。彼らの運命をにぎるのは…。80年代、韓国ニューシネマの急先鋒だった韓国リアリズム映画の巨匠イ・ジャンホ監督が19年ぶりにメガホンをとった注目作。濃厚な演出力と繊細な心理描写で描く人間ドラマ。

「神の眼の下(もと)に / God’s Eye View」

架空のイスラム国家でキリスト教の布教活動をする韓国人が武装集団に拉致されるという設定で信仰とは何かをストレートに問うこの映画。
敬虔なクリスチャンであるイ・ジャンホ監督が、遠藤周作の「沈黙」をモチーフに撮影した力作。

自らの神への愛を守るためには、クリスチャンたちを苦しめなくてはならない。
クリスチャンたちを救うためには、自らの神への愛を捨てなくてはならない。

主人公ヨハンも、このジレンマに2度遭遇している。
神はなぜ沈黙を続けているのか。

ヨハンは、宣教師でありながら、一度背教した過去があった。
人間は弱い。どんな人間でも、苦しみを知り、許しを乞いながら生きている。
弱い者が強い者よりも苦しまなかったと誰が言えるのか。

どんなに弱く、愚かでも「許しを乞う」という権利だけは残されている。
自分の弱さを認められる人だけが強くなれる。

壮絶なラストシーン。
一緒にいた神父はヨハンと同じ「聖なる背教」をしてしまう。
ヨハンの最後の笑顔がすべてを物語っていた。

主演のオ・グァンノク氏の圧巻の演技に圧倒される。
そして絶望的な状況の中で、少年兵との交流が描かれているのだけど、そのときばかりはホッとする一コマとなっている。

韓国にキリスト教の基盤があるというのは知っていたけど、キリスト教に慣れ親しんでいない日本人からすると、理解できない部分も多くて、宗教って本当に難しいと思った。
特に、イスラムとキリストというのは相容れないとても敏感なテーマであるし、キリスト教=善、イスラムゲリラ=悪 というステレオタイプな構図には、多少違和感を覚えた。
宗教映画ではないので、人間の心の葛藤を描いた作品として観るとより楽しめる作品だと思う。

オ・グァンノク氏自身は宗教を信じていない人だそう。
宗教というのはデリケートな問題なので、そこに生きている人たちの観点から演じたとのこと。


主演俳優のオ・グァンノク氏。
とても気さくで、穏やかで、やさしい笑顔の普通のおじさま。


オ・グァンノク氏とキム・ヒョヌプロデューサーのサイン。
ハート書いちゃうグァンノク氏、素敵すぎて萌えた~。

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私は彼ではない(トルコ/ギリシャ/フランス) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「私は彼ではない / I’m not him」

★★★★☆

邦題 私は彼ではない
英題 I’m not him
製作国 トルコ/ギリシャ/フランス
製作年 2013年
監督 タイフン・ピルセリムオウル
上映時間 129分

<あらすじ>

人間の内に秘めた欲望を独特のリズムで描く

独身の中年男ニハット。ある日、職場の同僚アイシェから夕食に誘われる。部屋の写真を見て、彼女の服役中の夫が自分に瓜二つであることに気づく。二人は同棲を始めるが、アイシェは間もなく事故死。夫になりきって生活を続けるニハットだが、その後思わぬ事態が…。他人の顔になりすました人間のおそれとおののき、カフカ的な展開が魅力的である。

「私は彼ではない / I’m not him」

最初のシーン。
朝起きて鏡をのぞくニハット。
自分の顔をしげしげと見つめ、立ち去る。
そのあと、鏡のなかだけに顔があらわれる。
・・・私は彼ではない。

ニハットは職場でアイシェと出会う。
アイシェの夫は服役中だが、なんとニハットとそっくりなのだ。
こうして、ニハットは夫の「そっくり」として生きることにする。

ニハットは他人(ネジップ)になり変わることで、自分の欲望を全て実現させたように見えた。
他人になりかわりアイデンティティも揺らいでいく。

最後は、ニハットはネジップとして囚われて、最初に入れられた留置場に入れられる。
また見知らぬ男がいる。男は靴で鉄格子を叩くのだろうか。
ラストシーンで鉄格子を叩く音は、最初のそれよりも弱々しい。
ニハットが叩いているのだろうか。

見かけは I am him
行動は I’m not him だったのか・・・。

「私は彼ではない≒私は彼になった」
どこまでも曖昧で、答えのない意識の迷路に迷い込んでしまって、それを楽しむタイフン監督はちょっとズルいw。

それにしても、トルコの皆さんはよくチャイを飲みますね。
喫茶でチャイ、夕食前にチャイ、フェリーに揺られてチャイ、アイシェが死んでもチャイ。
帰りにチャイを飲んで帰ったのは言うまでもなし。

タイフン監督はとても素敵なおじさま!
女優のマルヤムさんはとてもクレバーで、美しかった~。

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予兆の森で(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「予兆の森で / Fish & Cat」

★★★★★

邦題 予兆の森で
英題 Fish & Cat
製作国 イラン
製作年 2013年
監督 シャーラム・モクリ
上映時間 141分

<あらすじ>

驚異の1カット撮影!終始漂う不安感は病み付きに

まがまがしい予兆をはらみながら、カメラは移動し続ける。森に囲まれた湖の畔、凧揚げイベントに参加するために集まった学生たち。近くのレストランの料理人たちは料理のための”肉”を探していた…。本作は実話に基づくが、決定的な何かが起こるという不安をはらんだまま、何も起こらない物語の中をさまよい続ける。134分を1カットで撮影した大胆不敵な傑作。

「予兆の森で / Fish & Cat」

さすが!イラン映画にハズレなし!
まず、全編ワンカット撮影という、なんとも実験的な作品で、これは絶対に観たいと思っていた作品。

説明は難しくて、まぁとにかく観てよ、っていう感じだけど、
監督の言うように、まさにエッシャーのだまし絵を見るような感覚の映画。
不安のリレーかと思っていたら、デジャヴした瞬間、少しずつ混乱。

ループして、ねじれて、交錯していて。
モクリ監督の作った不気味な森を彷徨ってる気分。
音楽の付け方も秀逸だし、映画全体の色彩も素晴らしい。

全編ワンカットで撮った理由として、観客に時間の流れを感じて欲しかったと仰っていた。
カットがある映画は虚構で現実じゃないから、中国の模倣品みたいなるから、と(ここで笑い起きるw)。
また、ワンカットだったので検閲もらくらくパスだったらしい。

タイトルの「Fish & Cat」に関しては、
猫がいつも魚を狙っているように、若い世代を狙う古い世代(新しく変化することを好まないというイラン独特の世界観)、またイラン自体が常にどこかに狙われている状態で、何かが起こるかもしれないという不安を抱えつつ生きるイランの人たちの現実も描きたかったとのこと。

シャーラム・モクリ監督、1978年生まれということで、勝手に親近感!クレバーで、クリエイティブで、新しいことに挑戦する勇気があって。
それに、いつもニコニコしていて、話してみるとご夫婦そろって、すっごく素敵な方だった。
イラン人の半分は優しさで出来ているって本当だな。

個人的には「予兆の森で / Fish & Cat」に観客賞をあげたいほどの作品だった。
ポスターは怖いけど・・・もう一度、観たい。

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タイムライン(タイ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「タイムライン / Timeline」

★★★★☆

邦題 タイムライン
英題 Timeline
製作国 タイ
製作年 2014年
監督 ノンスィー・ニミブット
上映時間 135分

<あらすじ>

時代を超えて想いがつなぐ甘く切ない物語

シングルマザーのマットは、一人息子のテーンが農業学校へ進み、農園を継いでくれることを望んでいた。しかし、テーンは新しい世界を望んでいた。彼は母を説得し、バンコクへ。大学の新入生歓迎会で、 チャーミングなジューンと出会い、彼の日常は変わっていった。タイ映画の王道を行く、ハートフルな感動作。唐津くんちなど、佐賀県各地で撮影されたシーンにも注目。

「タイムライン / Timeline」

>>> 以下、多少ネタバレあり

テーン役のチラーユ・タンシースックさんからのビデオメッセージ。
上映後のQAでは、ジューン役のャリンポーン・ジュンキアットさんが、
映画と同じく可愛らしい仕草、キュートな笑顔で会場を沸かせていた。
佐賀県のロケでは、特に祐徳稲荷神社が素晴らしかったとのこと。

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慶州(韓国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「慶州 / Gyeongju」

★★★★☆

邦題 慶州
英題 Gyeongju
製作国 韓国
製作年 2014年
監督 チャン・リュル
上映時間 145分

<あらすじ>

古都・慶州を舞台にした不思議な1泊2日の旅

中国の大学で教鞭をとるチェ・ヒョンは友人の葬儀のため、久しぶりに韓国に戻った。葬儀の後、友人との昔話の中で、ふと共に慶州を旅した時に見た茶屋の壁にあった春画のことを思い出す。チェ・ヒョンはその記憶を確かめるため、衝動的に慶州へと向かった。チャン・リュル監督が慶州を舞台に描く、ほのかなユーモアに彩られた、ゆるやかでファンタジックなロマンスの旅。

「慶州 / Gyeongju」

7年前に見た春画を探すために春画があった慶州の喫茶アリソルに行くチェ・ヒョン。
だが、春画はすでになくなっていた。
突然春画の行方を尋ねるチェ・ヒョンの怪しい行動に、変態だと誤解する喫茶店主のコン・ユニ。

実は、この二人のドキドキする出会いを作った春画は、実際にチャン・リュル監督が1995年に初めて慶州を訪れたとき、喫茶アリソルの壁の片隅に描かれていたんだそう。
しかし、7年後チャン・リュル監督が再び慶州を訪れたとき、その春画はなくなっていて、これが「慶州」のモチーフになったとのこと。

古都慶州の美しい風景を、チェ・ヒョンと一緒に旅をしているような気分になる。
あれこれ考えて観るというよりは、映画のゆっくりした時間と描写に身を任せるような映画だった。

感心したのは、監督が日本人のおばちゃんをよく観察しているなぁということ(笑)。
パク・へイルさんを観て「あの人イケメンだわ~、ひょっとしたら俳優さんじゃない?映画俳優だったかしら?ドラマ?何かのドラマに出ていたような・・・」と言って、ユニが「俳優です」なんて嘘をつくもんだから、帰りに「写真を一緒に撮ってもらえませんか」と写真を撮るシーン。笑えたー。

店を出てわざわざ戻ってきて「韓国の方に日本がしたことを謝りたい」と言うところ。
日韓の少し敏感な部分をさらっと盛り込んで「納豆」で笑いに変える監督に脱帽。

ちょっと下心があって掴みどころのないキャラも、自転車のシーンも、カラオケでの変なダンスも、すべてがパク・ヘイルさんの独特の魅力にぴったりだった。
そして、登場人物たちは、それぞれの想いを抱えて、それでも前を向いて歩いていく。
帰ることが出来る場所があるっていうのは、いいものだと信じて。

二度目を観た夫によると、この映画の登場人物は色んな意味で死んでいるのではないかとのこと。
なんだか無気力なチェ・ヒョン(パク・ヘイル)や、写真に写りたがらないコン・ユニ(シン・ミナ)。
先輩の奥さんも「チェ教授なら分かるでしょう。夫は自ら死ぬことを選んだんです。精神的には死んでいたのです。」とか言うシーンがあって、それが伏線になっているのでは・・・と深読み?
ううむ。確かに、白と黒の対比も何だかだし。
これは再度確認する必要がありますな。

チャン・リュル監督、パク・ヘイルさん、プロデューサー キム・ドンヒョンさんのサイン。
パク・ヘイルさんは、爽やかで、すらっとしていて、素敵でした。特に声が素敵だった。

Q&A記事
ディレクター懇談
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絵の中の池(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

「絵の中の池 / The Painting Pool」

★★★★★

邦題 絵の中の池
英題 The Painting Pool
製作国 イラン
製作年 2013年
監督 マズィヤール・ミーリー
上映時間 96分

<あらすじ>

小さな家族の大きな愛にあふれた物語

軽度の知的障がいをかかえる両親マルヤムとレザに大切に育てられたソヘイル。
裕福ではないけれど笑顔の絶えない温かな家庭で幸せな毎日を送っていた。しかしソヘイルは小学校の高学年になり、自分の家庭が他とは違うことを知りはずかしさを感じるようになる。
息子の変化についていけないマルヤムはおろおろするばかり。
両親の深い愛情をソヘイルはどう受け止めるのか。

「絵の中の池 / The Painting Pool」

7/29(火)の記者発表会で、一足先にこの映画を見てきたので、少し感想を。
映画祭期間中にもう一度見て追記したいと思います。

>>> 以下、多少ネタバレあり <<<
———-
愛は障害(障がい)を乗り越えて、それを克服することが出来るのか。
すべては挑戦。

軽度の知的障害をかかえながら、息子ソヘイルを育てるマルヤムとレザ。
それは二人にとって挑戦だ。
通りを横断するのも、ピザを作るのも、息子の宿題を手伝うのも。

しかし、ソヘイルは、小学校の高学年になり、自分の家庭が他とは違うことを恥ずかしいと感じるようになる。
ほかの家の子になれたらどんなにいいだろう。
教頭先生の家に転がり込むソヘイル。
憧れの家庭だったが、ここにも様々な悩みや苦しみがある事が分かってくる。

障害の有無は関係なく、家族(夫婦)にとって大切なものに気付いたとき、
マルヤムは屋上にも登れるようになり、進まないバイクは走り出し、笑い声に包まれるラストに涙。

特にお母さん。とてもチャーミング。
家族を思う純粋な気持ちがすごく伝わってくる。
難しい題材なのに、暗い気持ちにはならない、考えさせられるけど、ライトに観られる映画だ。

ソヘイルとはまったく状況が違うけど、
私は5姉妹の長女で、小学校高学年、中学校の頃は「5人姉妹」というのがすごく恥ずかしかったので、
この多感な年頃の気持ち・・・なんとなく分かる。
大人になった今では、5人姉妹も、大家族も自慢だけど。

ソヘイルは10歳で自分の家族にしかない良さ、唯一無二のものに気付いたんだから、素直にすごい。

<上映スケジュールは こちら

オープニング – アジアフォーカス福岡国際映画祭2014 –

今年で24回目のアジアフォーカス・福岡国際映画祭2014、いよいよ開幕!

9月12日(金)、オープニングセレモニーが開催されました。
この映画祭で上映される映画の監督や俳優など、ゲストが続々と福岡に。

わくわく、ドキドキ感と共に
ボランティアスタッフとしても気合いが入ります。

スタッフは、超絶カッコいいTシャツを着ています。
福岡らしく「ラーメン」フィルムTシャツ!
ご不明な点などあれば、スタッフまで~。

19:00から始まったオープニングセレモニー。
拍手の中、レッドカーペットを歩く映画人の皆様。

素敵すぎて目頭が熱くなりました…
感情失禁しがちな今日この頃です。



福岡市長
「素晴らしい映画を上映できるのは市民にとって大きな喜び」

おすぎさん
「アジア映画は身近に感じることが出来ながら、違いを楽しむことが出来る」

梁木ディレクター
「映画を”観る”ことは、人間を”見る”こと。見ることを大切にして。映画も楽しんで。」

と、挨拶がありました。
さぁ始まります、アジア映画の不思議な魅力に取り憑かれる10日間。
今年は何作観られるかな~。

上映作品紹介はこちら!

愛しのゴースト Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-(タイ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、10本目は

「愛しのゴースト Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-」

★★★★★

基本データ:
監督 / バンジョン・ピサンタナクーン (Banjong Pisanthanakun)
キャスト / マリオ・マウラー(MARIO MAURER)、マイ・ダーウィカー(MAI-DAVIKA HOORNE)、ナタポン・チャートポン(NATTAPONG CHARTPONG)、ポンサコーン・ジョンウィラート(Pongsatorn Jongwilas)
あらすじ
—————————–
身重の妻を残し、戦争に召集された夫。死線を乗り越え、愛する妻のもとに帰り、遂に我が子を抱きあげる。しかし、村人が言うには妻子はすでに死んでいる…!?
タイで歴代最高興行収入を記録したメガヒット・ホラー・コメディ。恐怖と笑い、だけじゃない!異色の愛の物語。

「Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-」

>>> 以下、多少ネタバレあり <<<

死が二人を分かつまで-。
それってホント?愛だろ、愛っ!

タイでは誰でも知っている有名な怪談「メーナーク・プラカノーン」の2013年版ということで、タイでのタイトルは「ピーマーク・プラカノーン」だそう。今回のリメイクでは、妻のメーナークの夫、ピーマークとその戦友たち4人を軸にストーリーが展開していく。

マークは徴兵され、身重の妻のナークを残して戦場に。負傷したマークは、激戦をくぐり抜け、戦友たちとプラカノーンの自宅に戻って来る。マークとナークは喜びの再会を果たし、マークは戦友たちをしばらくの間離れに泊めることにした。

しかし、マークらが村へ行くと、どうも村人たちの様子がおかしい。皆が妻のナークは幽霊だと言う。
戦友たちは、友達のマークを助けるべく色々と策を練るのだが・・・。

マークとナーク、戦友たちが繰り広げるドタバタホラー・コメディ。
途中まではどっちが幽霊なのかよく分からないし、そういう自分も実は幽霊だったりするの?・・・なんて思えてくる幻惑感(笑)。

冒頭の戦闘シーンはかなり迫力があって見ごたえがあるのに、笑えてしまうのは、良い演出、編集があったからだろうと思う。撮影もクオリティが高いのだ(タイ映画のクオリティの高さは「レッド・イーグル」でも感じた)。

冒頭で戦友の一人が、「この戦争を乗り切るために!」と一生懸命仲間に話しているシーンがあるのだが、タイの言葉や習慣、言い伝え、歴史など、外国語に訳すことが出来ないようなことを話しているので、翻訳の際に、誰にでも分かるように表現を変えているのだそう。例えば、タイの人なら誰でも知っている英雄の話をしているとしても、字幕では「ラストサムライ」とか「スリーハンドレット」とかにしているので、外国で配給されてもみんな楽しめるようになっている。
本当にこの冒頭では、編集の妙・翻訳の妙とでも言えばいいのか、戦闘のシーンなのに笑ってしまう。

そして最後は、ほろりと泣かせてくれる。
マークとナーク(名前が似てる・・・)の強い愛の物語。
死は、マークとナークの愛を引き裂くことが出来るのか。
日本公開があるとのことなので、それは観てからのお楽しみ。

マーク役のマリオ・マウラーは、ちょっとヘナチョコだけど愛妻家で純粋さが出ていて可愛らしいが、愛を信じる強さがにじみ出ていた。
ナーク役のマイ・ダーウィカーは、綺麗すぎてある意味怖いくらいだけど、その中に少女らしい可愛らしさを持ち合わせていたように思った。
特に良かったのは、マークの戦友たちを演じた助演の4人。抜群におかしい!4人が4人とも必死でマークを助けようとしているのに、まったく噛み合わない。見事に笑いを取っていて、でも友達って良いな、こんな友達いたら楽しいな、と思わせてくれる。

エンド・ロール中に後日談が流れるのだが、それも傑作だ。
後日談の戦友4人のサイドストーリーなんてどうだろう。だめ?

福岡国際映画祭、最終日に見たこの「Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-」。
バンジョン・ピサンタナクーン監督のQ&Aがあったのだけど、監督が「本当に最後の最後だから後悔しないように質問をどうぞ」とのことで、幼稚な質問だけどさせてもらった。

妻ナークの手料理をみんなで食べるシーン。
マーク、戦友たちは「これは”旨味”が出てる。美味しい」と口々に言う。
本当に日本語で「うまみ」と言っているのだ。タイ語でも「旨味=うまみ」なのですか?と質問!

実は「旨味=うまみ」タイの味の素CMでの宣伝文句だそう。
タイの観客「あの時代に味の素なんてあるわけないだろ!」と大爆笑。
バンジョン・ピサンタナクーン監督いわく「Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-」には、時代背景とはそぐわない言葉がいくつもあるけれど、それが現代の人に分かりやすく伝わっている、とのこと。

他にも、お歯黒にしているので歯磨き粉のCMに出演することになった裏話とかあって、大変面白かった。
味の素のCMにも起用されるといいね(笑)!

予告編からもホラー映画な要素はたっぷり出ているのだが、コメディであり、ロマンスであり、そう、愛のホラーであり、一口で3度美味しい映画!
またまたタイ映画に恋してしまった。日本公開が待ち遠しい(*^^*)

バンジョン・ピサンタナクーン監督のサイン

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dtvで「愛しのゴースト」レンタルしました

吹替版が良かった…ホント。
タイ語で観てたから、なおさら良かったのかも。

声優さんたち、雰囲気すごくつかんでた!
小野大輔さん、神谷浩史さん、櫻井孝宏さん、福山潤さん。

マーク、へなちょこ過ぎなのにめちゃカッコいいのがもうツボ。
小野D のキャラと被る…マーク似合いすぎw

バンジョン・ピサンタナクーン監督もニッコリですね、こりゃ。
吹替版いいなぁって思ったの初めてかもしれません。

ゲーマー(ウクライナ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、9本目は

「ゲーマー(Гамер)」

★★★★☆

基本データ:
監督 / オレグ・センツォフ (Oleg Sentsov)
キャスト / ウラジスラウ・ジューク(Vladislav Zhuk)、ジャンナ・ビリューク(Zhanna Biryuk)
あらすじ
—————————–
ほとんどの時間をゲームに費やす17歳のアリョーシャは、その世界ではコスとして名の通った存在である。ゲームに熱中するあまり、学校は退学同然。アリョーシャは静かだが熱い情熱をシューティングゲーム「Quake」に傾ける。地元のゲームクラブの大会で3位に入り、賞金だけでなく、チームの一員として無料でクラブを利用できるようになる。シングルマザーの母親の心配をよそに、世界チャンピオンを目指すコス。果たしてその行方は?少年の孤独な闘いが静かに胸に響く。
(公式パンフレットより)

「ゲーマー(Гамер)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

最後に見える世界は、希望か絶望か。
天才少年の孤独な闘いがはじまる。

学生の頃、熱中したことって何?
私は「恐竜研究」「映画鑑賞」「切手収集」で、どちらかというと、熱しやすく冷めやすいミーハーな女だった。

さて、この映画の主人公アリョーシャは、何よりも「ゲーム」にストイックに打ち込む17才。
ゲームに熱中するあまり学校も退学寸前、だけどアリョーシャはゲームに人生をかけている(将来はプロのゲーマーになって生活したいと考えている)ので、心配する母親の話もあまり聞こうとしない。

彼は「ゲームの世界」では名の知れた存在で、彼に憧れているゲーム少年たちも多い。ゲームのために日々練習を積んだ甲斐もあって、国内大会で優勝し、世界大会へと勝ち進み、世界第二位の成績を収める。

世界第二位になったことで、一部では名声を得るが、母親からは学校に行くように説得され、今まで通りにゲームの練習が出来ず、ゲームの腕も落ちていくアリョーシャ。感情を表に出さないアリョーシャだが、彼が心に中に持っている苛立ちは、静かに伝わってくる。

母親が働く店で、後輩ゲーマーから からかわれる一幕。
彼は、苛立ちウォッカをかっ喰らい、最後には今までの人生の全てをかけた象徴のMicrosoftのマウスを捨てる。
バーチャルの世界から現実に、少年から大人に…

ゲーム大会の遠征で同室の男性が言った「ゲームより大事なものが出来るんだよ」という一言。
夢を追い続けること、何かに熱中する事は素晴らしい。
最後の笑顔が意味深だけど、いつに日か「ゲームに熱中した過去」が人生の糧になる日が来ると信じて。

なぜか平家物語を思い出した。
母親の友達の教授が「栄光は長くは続かない」って言ったからか。
————————————–
祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。
——————–
この世のすべての現象は絶えず変化していき、どんなに勢いが盛んな者も必ず衰えるもので、世に栄え得意になっている者も、その栄えはずっとは続かず、春の夜の夢のようだ。勢い盛んではげしい者も、結局は滅び去り、まるで風に吹き飛ばされる塵と同じだ。
————————————–

アリョーシャは平家じゃないけど、天才が平凡になるのは、難しいことだと思う。
過去の栄光を忘れられないこともあるだろう。
やはり最後の笑顔に含みを持たせた監督は鋭いなぁ。

余談だけど、アリョーシャの友人の携帯着信音が「不思議惑星キン・ザ・ザ」で流れるバイオリンの曲だったように思った。この映画といい「不思議惑星キン・ザ・ザ」といい、音楽が素晴らしい。サントラがあったら欲しいくらい。

オレグ・センツォフ監督のサイン

オレグ・センツォフ監督の対談がアップされていました!

狂舞派-The Way We Dance-(香港) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、8本目は

「狂舞派(The Way We Dance)」

★★★★★

基本データ:
監督 / アダム・ウォン (Adam Wong)
キャスト / チェリー・ガン(Cherry NGAN)、ベビージョン・チョイ(Babyjohn CHOI)、ヨン・ロッマン(Lokman YEUNG)、ジャニス・ファン(Janice FAN)、トミー・ガンズ・リー(Tommy “Guns” Ly)

あらすじ
大学生になった女の子ファーは、父の豆腐屋を手伝う毎日から抜け出し、念願のヒップホップ・ダンスチームBombAに入る。チームの目標はライバルのRooftoppersを打ち負かすこと。持ち前の明るい性格とダンスの実力で、ファーはチームで欠かせぬ存在となり、Rooftoppersからも一目置かれるようになっていく。チームリーダーのデイヴに淡い恋心を抱くが、レベッカ(チームメイト)の嫉妬の眼で見られ、彼女から自分のダンスを否定されて、チームを離れてしまう。
傷心のファーは、リョンという男の勧誘に負け太極拳を始める。いやいやながら稽古を重ねるうちに、ファーは太極拳の奥深さを知り、のめり込んでいくと同時に、落ち着きのあるリョンの包容力に魅かれていく。
ヒップホップダンス、ストリートダンスに情熱を注ぐ天真爛漫な女の子の青春ど真ん中ストーリー。
(公式パンフレットより)

—————————–

「狂舞派(The Way We Dance)」

>>> 以下、多少ネタバレあり <<<

豆腐の花は力強くしなやかに舞う。
Cool Hong Kong 今ここに!

福岡国際映画祭オープニング上映作品でもあった「狂舞派」。
「ダンス映画か」と完全スルーしていたのですが、授賞式に出席して「福岡観客賞」を受賞した「狂舞派」チームの嬉しそうな顔を見てると、どんな素敵な映画なんだろうと興味が湧いたので観てきた。

まず、最初に出演者プロフィールをダンスミュージックに合わせて出す。センスが良い。
これから始まるストーリーへの期待感を高めてからの豆腐屋のシーン。センスが良い。
豆腐屋の雑然としたシーンからの、Rooftoppersのビルでのパフォーマンス。センスが良い。

あぁ、もうここまでで(めっちゃ序盤だけど)アダム・ウォン監督、センスが良い!
これは期待できる!!!

主人公ファーは、可愛くて、明るくて、ダンスが大好きで、見ていて応援したくなるキャラ。
いつも、せわしなく動いている(ように見える)。

対して、太極拳の使い手リョンは、飄々とした雰囲気で、この映画に心地よい風を吹き込んでいると思う。
リョンが出てくると場の雰囲気が変わるから退屈しない。

ヒップホップ(ファー)と太極拳(リョン)の対比が面白いな、と思った。
最終的には、この二つ(二人)はうまくシンクロするわけだし。センス良い!

BombAのメンバー、レベッカに「カニみたいなダンス」だと笑われてチームを離脱、怪我をしてダンスが出来ない状況になっても努めて笑顔を絶やさないファー。
踊ることが出来ない私は私じゃない!と悔しがるファーに、ライバルチームのリーダーが、ファーのダンスを認め、励まし、彼女に本当の笑顔を取り戻させてくれるシーンにはグッときた。

また、レベッカがファーを嫌う理由もしっかりとあって、彼女は途中でコスプレグラドルになったりと迷走するのだが、最後に彼女は自分で自分を取り戻すことが出来る力を持っているし、問題山積みだったBombAが、一皮も二皮もむけて成長していく過程は、夢を諦めずに努力する姿はいつも素晴らしいと感じさせてくれる。

ファーとリヨンの二人のシーンには静かな時間が流れていて、心地よいなぁという感じ。
二人で影絵をするくだりが、ダンス大会への伏線になっているのも秀逸。

全編を通しての圧倒的なダンスパフォーマンスは見ごたえがあって、特にライバルチームのRooftoppersのダンスはパワフルでカッコ良くて、スクリーンに釘付けになること間違いなし。

自分と違うものを認めて、切磋琢磨する。ギャップを楽しむ。
夢に向かって努力する「ありのままのカッコイイ姿」を描き出したアダム・ウォン監督、「単なるダンス映画」なんて思っててごめんなさい。

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」を受賞した「狂舞派」。
「ダンス」というツールを通して、めいっぱいの青春を詰め込み、そして夢を諦めずに努力する姿は、アダム・ウォン監督の映画作りへの姿勢にも重なっていて、それでいて全ての人への応援メッセージでもある、そんな素敵なとてもハッピーな映画だった。
そして個人的に、リョンが話す「カニの話」良かったです!

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」恭喜~!


(左から真ん中の四人)アダム・ウォン監督、トミー・ガンズ・リー氏(Rooftoppersリーダー役)、ベビージョン・チョイ氏(リョン役)、サヴィル・チャン氏(プロデューサー)
みんな気取ってなくて普通のお兄ちゃんって感じです。親近感!

トミー・ガンズ・リー氏、本当に義足のプロダンサーだそうです。
9/17が誕生日だったようで、9/18の授賞式は良い思い出になったんじゃないかな~?良かったですね!
こちらの記事も合わせてどうぞ!

そして、リョン役のベビージョン・チョイ氏、劇中では髭も生やしていて髪型も大人っぽい感じだったけど、少年みたいな雰囲気の可愛い俳優さんでした。舞台俳優さんなんだそう。「レッド・カーペットや映画祭、上映会…私にとって全部初めての経験で賞までいただけたことに感激しています。一生で忘れられない経験となりました。福岡は、日本でこの映画を広めるチャンスを作ってくれた場所。日本でも口コミでぜひ、この映画の面白さを伝えてほしい」だって・・・惚れた!

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」授賞式の様子はこちら!
レポート記事はこちら!

アダム・ウォン監督の受賞コメント書き起こしました。(発表は25分くらいから)
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ありがとうございます。この賞は予想もしていませんでした。
実はこの映画を作るのに4年かかりました。4年前、私とサヴィル・チャンは街中に座り込んでこの映画の草案を練っていました。
香港では、大学に行って「ダンスの映画を作りたいんだ、でも人気俳優なんて全然出ないんだ」と言うと散々バカにされたわけです。でも、私たちは信念を持っていました、この映画は絶対に良い映画になる、と。しかも香港の中でダンスをしているグループの人たちにに魅了されたんです。みんな情熱、ロマンスを持ってダンスをしていたのです。だから、絶対にやる価値がある、やろうと思ったわけです。そして最終的に良い俳優にめぐり合えて、この映画を完成させることが出きました。でも商業的に成功するということは最初全然考えていませんでした。ただ良い映画を作りたかっただけです。
しかし、とうとうこのように「福岡観客賞」を受賞するまでになりましたし、実際、香港でも大成功を収めています。もちろん、香港では沢山の人がこの映画をほめてくれましたし、ちょっとしたブームになっているというくらいです。プラスのコメントもネガティブなコメントも含めて、全部受け止めて、これからも前に進んでいきたいと思っています。
そして、今日は本当に予想もしなかったこの賞をいただくことになり、本当に嬉しい限りです。
この賞というのは、私たちチームが一丸となって努力した証だということ、それを確信するに至りました。本当にありがとうございます。
この機会に日本全国の観客のみなさんに、この映画祭の皆さんに心からお礼申し上げたいと思います。そして、日本映画そのものにも心からお礼申し上げたいと思います。私は実は日本映画からものすごく大きな影響を受けたんです。ぜひいつの日か、近い将来に、日本の映画を日本人の俳優さんたちと共に日本で作ってみたいと思います。
ありがとうございました。
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サントラも絶好調の様子。「狂舞派」劇中の良いとこどりのPVとなってます。

DoughBoy – 狂舞吧 (電影狂舞派主題曲) Official MV

納得のアジアフォーカス・福岡国際映画祭2013「福岡観客賞」受賞でした。
香港の若くて素晴らしい才能に乾杯!
福岡を皮切りに全国でこの「狂舞派」が観られる日が来ることを祈っています。

「狂舞派」チームのサイン!

授賞式編集されたのを見つけたので貼っておきますー。

果てしなき鎖(フィリピン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、7本目は

「果てしなき鎖」

★★★★☆

基本データ:
監督 / ローレンス・ファハルド (Lawrence Fajardo)
キャスト / ニコ・アントニオ(Nico Antonio)、アート・アクーニャ(Art Acuna)、バングス・ガルシア(Bang Garcia)、ノル・ドミンゴ(Nor Domingo)
あらすじ
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マニラでのある一日の物語。
貧民街に育ち、盗みで母親と弟の二人の家族を養うジェス。若い女性グレイスのiPhoneを盗み、売りさばいたまでは良かったが、警察に捕まってしまう。そして、釈放の代償として求められたのは・・・。

「果てしなき鎖(Posas)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

これは出口が見当たらないメビウスの輪なのか。
人間社会の不条理は連鎖し続ける・・・
「アモク」で衝撃を与えたローレンス・ファハルド監督の最新作。

盗みで家族を養うジェス。
今日もいつも通り、グレイスのiPhoneを盗むと、すぐに売りさばき意気揚々と闊歩する。

しかし、彼女のiPhoneには秘密の動画が保存してあり、死んでもそれを他人に見せるわけにはいかないグレイスは、警察に助けを求める。彼女に顔を見られていたジェスは、狙った獲物は逃がさないと言わんばかりの警察官についに捕まってしまう。無罪を主張するジェスだったが、iPhoneを売りさばいたお金が出てきて、言い逃れできない状況に・・・。

一方、どうしてもiPhoneを取り戻したいグレイスは、法にのっとり手続きをするが、にっちもさっちもいかない。
「起訴したら時間もかかる。3回の調停に一度でも休めば不起訴になる。今、不起訴にしたほうがいいかもしれない。iPhoneは見つけたら必ず連絡します。」というドミンゴ警部の言葉にグレイスも頷く。
ジェスを不起訴にしたドミンゴ警部は、彼を連れてiPhoneを取り戻させ、さらには逃げられないように「いつものやり方」でジェスを利用するのだった。

「犯罪者もいれば 法を施行する側もいる 放免される日 彼は自由を失う」

フィリピン警察組織の腐敗ぶりを描いた作品。
ドミンゴ警部の澄んだ瞳は、被害者からは信頼を得そうであり、だからこそ、この腐敗ぶりが怖すぎる。

朝は「盗みをやめて堅気になったら」と言っていた母親が、ジェスが捕まって多額の保釈金が必要と言われたとき「この先どうやって暮らしていけばいいの?」となじる場面は、フィリピンの貧困(貧富の差)の問題の根深さを表わしていて、とにかくどこまでいっても救いがない、目をそむけたくなる現実を突きつけられた。

ジェスとドミンゴ警部の「目」。
それがすべてを物語っているように感じた。

グレイスのように富裕層もいれば、ジェスのような貧困層もいる。
生まれながら背負ってきた運命が「いつか変わる」と信じることが出来れば良いが、負の連鎖は容易く断ち切れないだろうと、諦めにも似た気持ちが湧き上がってくる。

「負」のメビウスの輪は裏も表も繋がっている、まるで出口が見当たらない。
常識が常識ではいそんなフィリピンの悲しい現実、そして日常。
(ちなみに腐敗認識指数、フィリピンは129位とかなり腐敗している模様)

ローレンス・ファハルド監督によると、なんと牢獄や警察署などはすべて実在の建物で撮影したそう。
カメラワークも秀逸で、特にドミンゴ警部役のアート・アクーニャ氏の名演技にやられること間違いなし。
サスペンス的な部分ばかりではなく、ちょっと笑えるシーンもあり。
札束詐欺に合う男性が、ロッキーホラーショーの古田新太に見えたのは私だけ?

92分という短さでこの濃さ。
機会があればぜひ見ていただきたい映画です。

「間に合ったぜ、へへへ!ロックンロール、福岡!」と言っていた
ローレンス・ファハルド監督のQ&Aはコチラ!

目撃者(中国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、6本目は

中国青海青年映画祭受賞作品 FIRST「目撃者」

★★★☆☆

基本データ:
監督 / Zehao Gao (高 則豪)
キャスト / ジャック・カオ 他
あらすじ
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主人公の宋(ソン)は妻と二人で小さな飲食店を切り盛りしていたが、レストランのオーナー平(ピン)への借金返済に苦しんでいた。ある晩、友人と行きつけの店で飲んでいた宋は、ひき逃げの現場に遭遇し、事故の“目撃者”になる。ある偶然からひき逃げ犯人の正体を知った宋は、思いがけない行動にでる・・・

中国青海青年映画祭受賞作品 FIRST「目撃者」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

見て見ぬふりは我が身を助けるのか。
すべては「幸せのため」と言い切れるのか。
中国が発展を続ける中での下流社会の人達の生活を描いた作品。

主人公の宋(ソン)は、ひき逃げ事故の「目撃者」となる。
宋(ソン)は、被害者を助けようとするが、その甲斐なく被害者は死んでしまう。

自分が疑われるからと被害者を病院の前に捨て、「見て見ぬふり」をし、いつもの生活をようと決めた宋(ソン)。しかし、被害者は行きつけの店の女性店員の彼氏だったことを知る。
しかも彼女は妊娠していた。

複雑な思いを抱えながらも、日々の生活で精いっぱいの宋(ソン)。
店はオーナー平(ピン)への借金返済で火の車。手下にいじめらえる毎日。
そんなとき、宋(ソン)はひき逃げの犯人が、平(ピン)だと知ってしまう。

宋(ソン)は平(ピン)へ仕返しをすることを決め、徐々に平(ピン)を追い詰めていくが、結局は平(ピン)にばれてしまい、行きつけの店の女性店員を人質にされてしまう。
海辺に呼び出された宋(ソン)は、平(ピン)と最後の対決をする。

だれもが「自分の幸せのため」に生きている。
善と悪は表裏一体。

現在の中国の社会問題(例えば、交通事故の現場を見ても自分が疑われるという理由で助けないなどの悲しい状況)を提起し、下流社会の人が虐げられている現実を真正面から見つめた良い作品。
劇中の音楽も秀逸だったし、機会があればぜひ見てほしい映画だ。

最初は「普通の人」だった主人公が徐々に暴力的になっていく様子は、イラン映画「パルウィズ」でも描写されているが、「目撃者」では最後に少し希望が見える。この部分は監督の「願い」「信じたい気持ち」が込められているように感じた。

また、個人のアイデンティティはともかく、守るべき対象(宋の場合は「家族」)があるか無いかで、暴力の質が違ってくるようにも感じた。

インタビューから、高 則豪監督の真面目な人柄を垣間見ることができ、映画作りへの真摯な姿勢が素晴らしいと感じた。
中国青海青年映画祭 FIRSTは、若手映画監督の作品が出品される映画祭とのことで、毎年7月に開催されているそう。

サインをする高 則豪監督(右)と中国 西寧FIRST青年映画祭プロデューサーの李 子為さん(左)。

福岡に来てくれてありがとう!

字幕協力は、福岡大学人文学部東アジア地域言語学科。
福岡の若者を起用したところも、この映画祭ならでは!