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百日告別(台湾) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017(台湾映画祭) –

「百日告別 / A Gas Station」

★★★★★

邦題 百日告別
製作国 台湾
製作年 2015年
監督 トム・リン
上映時間 96分

あらすじ-公式サイトより

それぞれの旅の先に 待ち受けていたものとは

妻のシャオウェンと間もなく生まれる子どもを楽しみにしているユーウェイ
だが、交通事故が運命を大きく変えてしまう
シンミンは婚約を ユーウェイは妻と未だ見ぬ我が子を失ってしまったのだ
人生の羅針盤を失ったかのように立ち尽くす二人
合同葬儀の場で初めてその存在を知った二人は
出口のない悲しみの迷路から抜け出せずにいた
苦しみの中、ユーウェイはピアノ教師だった妻の生徒たちの家を尋ね歩く…
シンミンは新婚旅行をかねて 新メニューを探しに行くはずだった沖縄 へと旅立つ…

「大切な人の死」と向き合う100日

1秒前まで、隣にいた大切な人が手の届かないところに行ってしまった場合、どんな風に現実を受け止めるのか、というのがこの映画のテーマ。
その死が理不尽で、自己責任ではなく、突然であるほど、苦しいもの。
悲しみに寄り添ってくれる人はなく、周りの思慮のない言動に傷つけられていく二人が、その苦悩の日々を100日という時間の推移にあわせて、それぞれに自分の心に折り合いをつけていく様子が、静かに心に響いていきます。

トム・リン監督自身の体験がもとになっているということで、リアルな心情の描写と、主演のふたりの控えめな演技が素晴らしくて、静かに深く考えさせられる名作でした。

一日一日を大切に生きなきゃなぁ~

事故死というのは突然すぎて、心の準備が出来なくて、取り残されたような感覚になります。
友達と遊ぶのに忙しくて「明日また来るけんね」というばぁちゃんの言葉を上の空で聞いて、「うん、じゃ、また明日ね!」と返した言葉が最後になるなんて。
そんな、明日という日がなかったあの日を思い出しました。
わんわん泣いていいのか、ぐっとこらえればいいのか、なんかすごい変な気持ちで、やっぱり突然の死は辛いってことしか分からなかった10歳の頃。
今でも、あのときもっと会話していれば・・・とか悔やむことがあります。

人というのはやはり、いつも傍に当たり前のようにある(居る)ものに関しては、当たり前すぎて気付かなかったり、ぞんざいに扱ったりして、大切なものを忘れてしまいがちなんだけど、これからはもっと日々を大切に生きようと思える映画でした。

バイオリン弾き(イラン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「バイオリン弾き / Violinist」

★★★★★

邦題 バイオリン弾き
英題 Violinist
製作国 韓国
製作年 2016年
監督 モハマド=アリ・タレビ
上映時間 74分

あらすじ-公式サイトより

ひとりの青年を通して描かれるイスラム文化の温かみ

大都会・テヘラン、バザールの片隅でイラン歌謡のバイオリン演奏で日銭を稼ぐ青年。ある夜、ピアノを学ぶ女性が歩み寄り、彼女が通う音楽学校に案内された。西洋式の音楽教育を受けてない彼に新たな生活を手にする機会が訪れる。実在する市井の人々をキャストに据え、彼らの営みをひとつの物語として描く。

足るを知る者は富む

家族を支えるため、バイオリン演奏で日銭を稼ぐ日々を過ごしている10代のキアヌーシュ。
それも大都市テヘランで・・・
日本だとあり得ないような光景に目を疑います。

キアヌーシュにはいろんな災難が待ち受けているのだけど、自分の身に起こる出来事を受け入れるということ、そこに優しさを感じます。
大事なバイオリンを盗られて途方に暮れるキアヌーシュだけど、結局助けてくれたのは(多分彼よりマイノリティということになる)身体障害者の友人ハッサンだというのが、心打たれます。
自分の境遇を受け入れるって本当に難しいことだと思うんだけど、大変な中でも満足することを知っている人は、貧しくても精神的には豊かで幸福である、ということを教えてくれる素敵なストーリーです。

彼か弾いている曲は、イランの歌謡曲らしいのですが、切なかったり、不器用な感じだったり、一生懸命に誠実に向き合って生きてる感じだったり、というのが、キアヌーシュの気持ちを表してて泣けます。

観たら心が満たされるよ

人間捨てたもんじゃないなって思える温かい気持ちになれる映画です。
タレビ監督自身、息子さんを亡くされて、この映画を撮ることが一種のセラピーだったとおっしゃっていたのですが、この映画を観た人にも、小さな温かいものがぽわっと灯って伝わるような、そんな素敵な作りになっています。

自分が大変な時こそ手を差し伸べることが出来るのが人間。
支えあうのが人間。

熊本市賞おめでとうございます!

5番スクリーンを満席にした「バイオリン弾き」。
小さい方の劇場だったにも関わらず熊本市賞を受賞したということは、この映画がいかに素晴らしかったか、ということを物語っていると思います。
今年もさすがのイラン映画、そしてタレビ監督はユーモア溢れるとても素敵な監督さんなのでした~。
タレビ監督の受賞スピーチはこちらから!

映画の反響でキアヌーシュのYouTube人気らしいですよ!ぜひ!

春の夢(韓国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「春の夢 / A Quiet Dream」

★★★★☆

邦題 春の夢
英題 A Quiet Dream
製作国 韓国
製作年 2016年
監督 チャン・リュル
上映時間 101分

あらすじ-公式サイトより

マドンナと心やさしきポンコツ男たちが見る夢は…

街をうろつくだけの稼ぎのないチンピラ、イクチュン。北朝鮮出身のチョンボムは給料も貰えずクビになった。金持ちだが少し頼りないジョンビン、そしてこの男たちのマドンナ的存在のイェリは寝たきりの父親の看病のため居酒屋を営んでいる。オアシスみたいなイェリの居酒屋に入り浸る3人の男たち。ある日新たなオトコが店にやってくるのだが。

ぐだぐだな日々を淡々と

街のチンピラであるイクチュン、脱北者のジョンボム、大家の息子ジョンビン。
居酒屋を営むイェリを囲んで、ぐだぐだとした日々を送っている3人。
ぐたぐたとした日々の中でも、それぞれに抱えている問題はあって、小さな事件が起きたりもします。

この3人、一貫してユル~い感じ。
あっと驚くような結末を迎えても、この3人の日常は変わらない。
何が起ろうといつも通りに、ただ淡々と日々が過ぎていく。

他愛のない日々だけど、この映画の登場人物が大切にしてきたものは、モノクロ画面とは逆に鮮やかな世界、まさにタイトル通り「春の夢」だったのかもしれません。

韓国映画の名作を撮った若い監督たちが出演

チャン・リュル監督と親密な関係だという3人の監督たち。
息もできない(2009)』のヤン・イクチュン監督、
ムサン日記 白い犬(2010)』『生きる(2014)』のパク・ジョンボム監督、
『許されざる者(2005)』『悪いやつら(2011)』のユン・ジョンピン監督。
この3人が本名のまま、この映画に出ています。

チャン監督は、脚本を書くときに名前を考えるのに一番苦労するらしいです。
ただ、この3人の名前はが今風でない感じがよくて、水色洞(スセットン)という場所にもピッタリだったので、本名のまま使ったんだそうです。
本名で出演するには、メリットもデメリットもあるんだろうけど、本名で演じることによって素の自分を出せる瞬間があって、この映画に関しては良かったと、ジョンボム監督は言ってました。
ユン・ジョンビン監督は、役柄的に本名で出るの嫌だったみたいですけど(笑)

ジョンボムの元カノの北の美女(シン・ミナ)が訪ねてくるシーンで、イクチュンとジョンビンがシン・ミナを抱きしめるんだけど、ジョンボム監督だけシン・ミナを抱きしめられなかったから悔しかったそうです(笑)。

劇中に出てくるイェリが住む家は、ジョンボム監督の家で玄関の前に居酒屋のセットを作って撮影したそう。
水色洞が再開発エリアになっていて、その家ももう無いらしいのですが、水色洞という場所が都会の喧騒から離れて、本当にソウル?みたいな場所で、この映画のユルさを引き立てている感じがしました。

パク・ジョンボム監督にサインいただきましたよー、と。

ワンダーボーイ・ストーリー(シンガポール) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「ワンダーボーイ・ストーリー / Wonder Boy」

★★★★★

邦題 ワンダーボーイ・ストーリー
英題 Wonder Boy
製作国 シンガポール
製作年 2017年
監督 ディック・リー、ダニエル・ヤム
上映時間 96分

あらすじ-公式サイトより

これが僕の音楽だ。ディック・リー誕生秘話

シンガーソングライターでアジアン・ポップスの旗手、ディック・リーの青春時代を自身が監督を務め描く。幼い頃からピアノを習いエルトン・ジョンに憧れるリチャードは、いつか自作曲で歌手になりたいと夢見ている。しかし70年代初頭のシンガポールではロックは禁止、世間が好むのは海外の楽曲だった。

Mr.Singapore ディック・リー

そうです、ディック・リーです。
マッドチャイナマン、ディック・リーです。

そのディック・リーがデビューするまでを描いた自伝的作品。
独立して間もない当時のシンガポールの社会状況も興味深いし、音楽はもちろん、ファッションも見所。
ディック・リーが裕福な家庭で育ったというのは有名なんだけど、ディックの才能に本当に驚かされたし、家族や友達の支えがあって、(才能があるからこその)色んな葛藤を乗り越えていく、その過程も興味深くて、あっという間の96分です。
そして、ディック役の俳優さんの声がすごく良くて聞き惚れました。

たまたま知り合いがこの映画を見に来てたんですが、彼が往年のファンだったらしく、プロマイドまで持っているというから驚きでした!
ディックのコンサートはもちろん、ミュージカル等も見に行ったらしく、ディックのことを熱く語ってました~。
往年のファンの方はこの映画、たまらなかったと思います。

ナシゴレン食べたくなるし、ディック様と呼びたくなる

サインに快く応じてくれて、写真にも目線をくれるディック様。
今日もグッチのお洋服がお似合いオーラバンバンです!

ディック様に「CD買います」とお伝えしたら、
「ふふふ…今はiTunesダウンロード、ポチっとな」と不敵な…じゃなかった、素敵な笑みを浮かべて言っておられましたので、さっそくポチりました。

そんな素敵なディック様のデビューのきっかけとなった曲はこれ↓
ナシゴレンベリナイスです!

Fried Rice Paradise

頭脳ゲーム(タイ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2017 –

「頭脳ゲーム / Bad Genius」

※日本公開時「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」になりました

★★★★★

邦題 頭脳ゲーム
英題 Bad Genius
製作国 タイ
製作年 2017年
監督 ナタウット・プーンピリヤ
上映時間 130分

あらすじ-公式サイトより

テストをマネーに!スリリングに展開するテスト大作戦

超成績優秀な女子高校生リンは、試験で友人を助けたことから、あるビジネスを思い立つ。試験中に彼女が答えを教え、代金をもらうというものだ。さまざまな手段を講じて試験を攻略する学生たち。リンの売り上げも増加する。そして多くの受験生の期待を背に受け、大学進学統一試験というビッグビジネスに挑む。

タイの名門高校で繰り広げられるカンニングビジネス

タイの名門高校に通う成績優秀なリンは、金持ちの娘グレース、グレースのボーイフレンド パットとカンニングビジネスを始めます。
謝礼は1人1科目3,000バーツ。テストは4つの答えのマークシート方式。
リンはピアノのメロディーを4種類奏でることで答えを教える、というやり方を思いつきます。
ところが、ある試験で2種類の問題が出されピンチに。優等生バンクにバレ、学校にもバレてしまいましたが、それをきっかけにバンクも仲間に引き入れることができ、やがて4人は大学入試統一試験(STIC)での大規模な作戦を考え始めます。

脚本、キャスティング、演出、見事です

何度か出てくるカンニングシーンは、手に汗握らされるし、国境を越えて繰り広げられる後半の展開はスリル満点。
試験に臨む姿は、まさに敵に立ち向かいながら刀を抜く武士といった感じで、(カンニングは決して良いこととは言えないけど)このカンニングが無事成功しますようにと祈ってしまうくらいの臨場感です。
闇に落ちていく優等生バンクと、光のさす方へ歩いていくリン。ふたりの対照的な姿が印象的なラスト。
バンクの実家がクリーニング店を営んでいるってことも皮肉に感じてしまいました。
貧しい若者達が才能とお金の間で揺れ動く姿は見ていてとても切ないのだけど、130分、中だるみなしです。



主演のリン役のオークベープさん、グレース役のウムさん、ナタウット監督。
高校生から大人へと向かうリンの内面をすごくうまく表現してらして、虜になりました。
「頭脳ゲーム」、見る価値ありです!観客賞イケると思いますよ!

観客賞受賞おめでとうございます!!!
ナタウット監督の受賞スピーチはこちらから

夜は短し歩けよ乙女

「夜は短し歩けよ乙女」

★★★★★

邦題 夜は短し歩けよ乙女
製作国 日本
製作年 2017年
監督 湯浅政明
原作 森見登美彦
キャスト 星野源/花澤香菜/神谷浩史/秋山竜次 ほか
配給 東宝映像事業部
上映時間 93分
公式サイト 夜は短し歩けよ乙女

あらすじ

所属クラブの後輩である「黒髪の乙女」に恋心を抱く大学生の「先輩」は、「なるべく彼女の目に留まる」ことを目的とした「ナカメ作戦」を実行する日々を送っていた。個性豊かな仲間が巻き起こす珍事件に巻き込まれながら季節はめぐっていくが、黒髪の乙女との関係は外堀を埋めるばかりでなかなか進展せず……。

森見登美彦 × 湯浅監督 × 中村佑介 × アジカン

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大好きな森見登美彦さんの小説のアニメ化、そして湯浅監督の13年ぶりの新作ということで、すごい期待してました!
森見登美彦さんと湯浅監督、イラストレーターの中村佑介さんのタッグと言えば、フジの深夜の『ノイタミナ』枠で放映されていた「四畳半神話大系」なんですけども、このお三方のアートでアヴァンギャルドでシュールな感じがギュッと詰まったこのアニメーションが「夜は短し歩けよ乙女」でまた観られると思うとね…もう期待しかないでしょう!

「夜は短し歩けよ乙女」アニメ版のキャラクター原案は、原作小説のカバーイラストを手掛けた中村佑介さんがやってることも含めて、アジカンが主題歌を担当することなど、完全に「四畳半神話大系」を踏まえた作りの映像化というのも期待をさせる要素でして、そりゃぁもう前売券を買って映画館へ走りましたよ!
※「四畳半神話大系」とクロスオーバーする要素が非常にいっぱい仕込まれているので、「四畳半神話大系」を観るとめちゃ楽しめます。

四季が移り変わっていく4つのエピソード

原作小説では、四季が移り変わっていく、1年(春、夏、秋、冬)の4つのエピソードがオムニバス的に分かれているんですね。
今回のアニメ化では、その4つのエピソードを一晩に起こったことにしているんです。
いろんな体験が凝縮された一夜「まるで1年のような一夜」のストーリーです。

人生の中で特別に濃い時間、夢のようなそんな特別な時間を、観てる方にも体感させてくれる作りになっていて、93分の上映時間はあっという間に終わっちゃいます。
時間の感覚っていうのは、人それぞれに違うんだっていうことも見せてくれているので、その辺の作りもうまいあぁと思いました。

春パート

京都の街並み、ハシゴ酒、詭弁論部の詭弁踊り、すべてが新しい体験をする黒髪の乙女。
多幸感にあふれたパートで、観てる方も楽しくなっちゃう。

夏パート

古本市。
古本を目の前に乙女大盛り上がり、分かります、本のアーカイブ見てるだけで幸せ!
先輩は乙女を追ってるんですけども「四畳半神話大系」の「小津」を思わせる、古本市の神様の子供。
先輩にボーンとぶつかって、ソフトクリームをくっつけちゃう。わざわざ股間にバーン!ってくっついて、そそり立っている…w
そこで児童虐待を疑う古本屋のおじさんの顔のアップがしばらく続く夏パート。笑えます。

秋パート

秋と言えば学園祭。
ミュージカル化されたゲリラ演劇「偏屈王」、これは「四畳半神話大系」の、映画部の城ヶ崎先輩のエピソードを舞台化しているのを見せられるんですけども(笑)
ちょっと無理がある言葉の詰め込み方で始まってたりして「日本語ミュージカルあるある」やっぱりおかしいな!って笑っちゃう。
日常を飛び出して、ミュージカルの非日常な雰囲気を、祭りの醍醐味にクロスオーバーさせててテンション上がります。
大学の中だけはアナーキーな感じがすごく伝わってきて、このパートのパンツ総番長、学園祭事務局長もイイです!

冬パート

先輩の内的葛藤。
絵の見せ方と声の表現だけで魅せてるパートです。

ここは風邪をひいて寝込んでいるっていうパートなんですけど。
風邪をひく、というのも非日常であるわけで、逆の視点で見てみると「風邪もワクワク」だったりするっていう見せ方です。
大人になってからは「風邪がワクワク」ってのはあんまりないんだけど、子供の頃は「風邪はワクワク」でしたねー。

ここはもう冬パートですから、アニメも最終局面に向かっているんです。
妄想がバーッと広がっていって、大アクションシーンが始まって…もう目が離せません。

声優

先輩は星野源がやってまして、良かったです。
セリフが長いんですよね~、森見登美彦作品は!
大変だったと思うんですけど、ハマってました。

そして、本編の主人公、黒髪の乙女。
花澤香菜さんが素晴らしいです。
黒髪の乙女、ぶっちゃけ天然でちょっとクレイジーなんだけど、嫌味なく愛すべきキャラに仕上がったのは花澤香菜さんのおかげだと!
「PSYCHO-PASS サイコパス」の常守朱もそうなんですけど、愛らしい声の中に一本筋が通ってる声っていうか、本当に説得力あって良かったです。

パンツ総番長は、ロバートの秋山です。
学園祭事務局長は、神谷浩史さん。
ミュージカルパートでの掛け合いも必見です!

まとめ

夢を見ているように、脈絡なく連なり転がっていくこの4つのお話が、黒髪の乙女を通して最終的には繋がっていく。
全ては関わり合っている、「これも何かのご縁」で締められる最後、ポトンと落ちる感じです。
「現実のこのクソみたいな世界も、実はものすごく楽しくてワクワクする場所なのかも?!」と思えるような作品です。

全体に夢を見ている感じ、凝縮されていたあの時、みたいな思い出を持っている人なら、すごく楽しめる93分です。
湯浅政明さんにしか作れない、オリジナルでフレッシュな、アニメらしいアニメ。
そしてアニメーションならではの躍動感、自由さもあって「あ~、ワクワクする!」ってなります。

パンフレットも日めくりカレンダーも一見の価値ありですよ~。

現在公開中の湯浅監督の「夜明け告げるルーのうた」はアヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞を受賞しています。
「夜明け告げるルーのうた」に「夜は短し歩けよ乙女」ぜひ観てみてください!

GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊

「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」

★★★☆☆

原題 GHOST IN THE SHELL
邦題 ゴースト・イン・ザ・シェル/攻殻機動隊
製作国 アメリカ
製作年 2017年
監督 ルパート・サンダース
キャスト スカーレット・ヨハンソン/ピルウ・アスベック
ビートたけし/ジュリエット・ビノシュ ほか
上映時間 107分
公式サイト GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊

あらすじ

近未来。少佐(スカーレット・ヨハンソン)は、かつて凄惨(せいさん)な事故に遭い、脳以外は全て義体となって、死のふちからよみがえった。その存在は際立っており、サイバーテロ阻止に欠かせない最強の戦士となる。少佐が指揮するエリート捜査組織公安9課は、サイバーテロ集団に果敢に立ち向かう。

近未来の世界

みんな大好き「攻殻機動隊」の実写化です。
かく言う私も、ものすごぉぉぉく期待して観に行きましたよ、と。

ままま、ストーリーはともかく~
近未来ということで、電脳シティ未来都市の作り込みは面白かった。
アジアンテイストでなかなか面白いし、ホログラム映像広告なんかは、これから先、実際あぁなっていくんだなぁとかぼんやりと思いました。
芸者ロボットの動きもなかなか(笑)。

キャストは豪華

ビートたけしの存在感さすがでした。
ビシっと締まる感じ。
一人だけ日本語なのが違和感とかよく聞くんだけど、電脳化された近未来、言語が翻訳されて通じてるんだと思ってましたよ。
ただ、出来れば、ビートたけしのところも字幕付けてほしかった。

スカジョはハマリ役、バトーもなんだか似てたし、トグサも見た目は異常に似てた(笑)!!!そして、桃井かおりも出てるわよ。

攻殻機動隊の実写化

うん・・・
それなりに良かったんじゃないですか!?

往年のファンだと期待値もずっと高いはずなので、厳しめの評価もたくさんあるかと。
素子は最初から素子じゃん、とか
バトーの目は最初から義体化してるよね、とか。
アニメでは大活躍の工作ロボットのタチコマは出ないし、とか。

「攻殻機動隊」の醍醐味は情報戦にあるし、荒巻課長の政治的な駆け引きも面白かったりするんですが、映画ではそこらへんが十分でないし、どちらかというとパワーに物言わせる感じの展開でそこ違うよ!って言いたくなっちゃいましたよ。

もしかしたら、吹き替えで観たら良かったのかも・・・しれませんね。
素子の声は田中敦子さんがやってて、アニメと同じなので。

「攻殻機動隊」には、面白いストーリーがたくさんある(「笑い男事件」とか「個別の11人事件」など)ので、出来れば忠実に実写化してほしかったです。
っていうか、やるなら実写化より3DCGでお願いっ。

はじまりへの旅/Captain Fantastic

「はじまりへの旅/Captain Fantastic」

★★★★★

原題 Captain Fantastic
邦題 はじまりへの旅
製作国 アメリカ
製作年 2016年
監督 マット・ロス
キャスト ヴィゴ・モーテンセン/ジョージ・マッケイ
サマンサ・アイラー/シュリー・クルックス ほか
上映時間 119分
公式サイト はじまりへの旅

あらすじ

現代社会から切り離されたアメリカ北西部の森で、独自の教育方針に基づいて6人の子どもを育てる父親ベン・キャッシュ。
厳格な父の指導のおかげで子どもたちは皆アスリート並みの体力を持ち、6カ国語を操ることができた。さらに18歳の長男は、受験した名門大学すべてに合格する。
ところがある日、入院中の母レスリーが亡くなってしまう。一家は葬儀に出席するため、そして母のある願いをかなえるため、2400キロ離れたニューメキシコを目指して旅に出る。
世間知らずな子どもたちは、生まれて初めて経験する現代社会とのギャップに戸惑いながらも、自分らしさを失わずに生きようとするが……。

Captain Fantastic

理想の哲学を追い、社会をドロップアウトして大自然で暮らす一家が、自殺した母親の葬儀に出るために街へ。6人の子供たちはキャプテン(父親ベン)の命令の下、最低限の高級品であるオンボロバスで珍道中を続ける。
街の人たちと関わり合っていく中で、街の暮らしとのカルチャー・ギャップに戸惑いながら、絶対だったキャプテン(父親ベン)が「絶対」ではないことが分かってきて・・・。

世間の常識にさらされた家族は、あることをきっかけにその絆にほころびが見え始める。
これまで強い信念でキャプテンをやっていたベンは、これまで自分が行っていたことが、ただのエゴだったのではないか、と迷いを持つようになる。

んー。
あるね!
スーパーマンだと思ってた親も「そうじゃない」って気付く日。
私はいつだったかなぁ~
早く自立したくてたまらなかったなぁ、と思い出しましたよ。

普通って何ですか?

常識とは何か?
社会とは何か?
教育とは何か?
幸せとは何か?

自分らしく生きること。
自然の中でも規律を守る事。
いつも笑顔で生活をする大切さ。
真実に向き合うこと。

自分が信じている「普通」という価値観は、他人が見たら「普通じゃない」かもしれない。
皆それぞれの「普通」があっていいじゃない!
人生は、間違えながら、やり直しながら、1歩ずつ進むしかないのかもしれません。

音楽・ファッションが好きな方、家族を想いたい方、ぜひ!

誰もが感銘を受ける、ヒューマン・ロードムービーです。
ラストは本当に心がポッとなる愛らしさ。
ヴィゴも6人の子供たちも、ヒッピーなファッションも、音楽もすべてがパーフェクトです。

映画本編はもちろん音楽が最高ですよ。
Guns N’ Rosesの「Sweet Child O’ Mine」も最高ですし、最後Jònsiで締めるあたり!

リトル・ミス・サンシャイン [Blu-ray]」「ダージリン急行 [Blu-ray]」あたりのロードムービー、「かいじゅうたちのいるところ [DVD]」なんかが好きな方にはおすすめ。

個人的には「はじまりへの旅」ってう邦題がちょっといただけない。
原題の「Captain Fantastic」ままでいいじゃない。

虐殺器官

「虐殺器官」

★★★★☆

邦題 虐殺器官
製作国 日本
製作年 2017年
監督 村瀬修功
原作 伊藤計劃
キャスト 中村悠一/大塚明夫/櫻井孝宏/小林沙苗 ほか
配給 東宝映像事業部
上映時間 115分
公式サイト 虐殺器官

あらすじ

9.11以降、テロとの戦いを経験した先進諸国は、自由と引き換えに徹底的なセキュリティ管理体制に移行することを選択し、その恐怖を一掃。一方で後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加。世界は大きく二分されつつあった。

クラヴィス・シェパード大尉率いるアメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊は、暗殺を請け負う唯一の部隊。戦闘に適した心理状態を維持するための医療措置として「感情適応調整」「痛覚マスキング」等を施し、更には暗殺対象の心理チャートを読み込んで瞬時の対応を可能にする精鋭チームとして世界各地で紛争の首謀者暗殺ミッションに従事していた。

そんな中、浮かび上がる一人の名前。ジョン・ポール。
数々のミッションで暗殺対象リストに名前が掲載される謎のアメリカ人言語学者だ。
彼が訪れた国では必ず混沌の兆しが見られ、そして半年も待たずに内戦、大量虐殺が始まる。
そしてジョンは忽然と姿を消してしまう。彼が、世界各地で虐殺の種をばら撒いているのだとしたら…。

クラヴィスらは、ジョンが最後に目撃されたというプラハで潜入捜査を開始。
ジョンが接触したとされる元教え子ルツィアに近づき、彼の糸口を探ろうとする。
ルツィアからジョンの面影を聞くにつれ、次第にルツィアに惹かれていくクラヴィス。
母国アメリカを敵に回し、追跡を逃れ続けている“虐殺の王”ジョン・ポールの目的は一体何なのか。対峙の瞬間、クラヴィスはジョンから「虐殺を引き起こす器官」の真実を聞かされることになる。
(「虐殺器官」公式サイトより)

観た後には、ちょっとだけ頭が良くなった気分になれる、そんな不思議な映画です。
そんな気分に浸りたい方は是非ご鑑賞を!

Project Itoh

2009年に34歳の若さで他界した天才SF小説家・伊藤計劃(いとうけいかく)。
彼の遺した3つのSF小説「屍者の帝国」「ハーモニー」「虐殺器官」を3カ月連続でアニメ映画化するというアニメ界、SF界が満を持して臨む、一大プロジェクト。
だったわけですが、映画「虐殺器官」は制作会社が倒産し、制作続行不可能と言われながらも完成まで至った Project Itoh3部作最後の作品です。

素敵チケットにパンフレット。
入場者特典(先着順)のクリアブックマークは、朗読ボイス付き。
アニメ映画は特典が充実しててホント好きー。

『虐殺器官』とは一体何なのか?

人間には「虐殺のための器官」というもの元々備わっている。
言語学者であるジョンは、紛争や虐殺が起こる予兆として「ある言葉」がよく使われてるという事に気付きます。
その「言葉」は「虐殺のための器官」を刺激し ”殺戮本能” を呼び覚ましてしまう。
そこでジョンは、統計的にその言葉=虐殺の文法を導き出し、その言葉によるコントロールをすることで、紛争や虐殺を起こしていたんです。

序盤のシーン、暗殺部隊である主人公たちが任務を遂行する任務地で、現地語を理解するアレックスが車の中で流れる現地語のラジオを聞いていることが伏線になり、後にアレックスは感情の制御ができなくなり暴走します。
これは虐殺の文法と感情マスキングが互いに干渉しあったためだったのです。

ジョン・ポールが語る真理(ネタバレ)

後半戦の大きな見どころ、ジョン・ポールは何故各地で紛争や虐殺を引き起こすのか?
ジョン・ポールの行動原理は「愛する人を守るため」。
愛国心溢れるジョンは、ソマリアのテロで妻子を失ってから、自分の愛している人を失う悲しみに耐えられませんでした。
そして、愛する人々=ジョンの所属するアメリカ人 と
それ以外の人々=ジョンが虐殺の文法を広めて歩いた国々の人々
とをハッキリと分け、愛する人々のためには、その他の人間にお互いで殺し合ってもらい犠牲になってもらう、という理論です。

途上国で内戦や虐殺などの政情不安を意図的に作り出し、母国の平和を実現する。
悪意を持った隣人には隣人同士仲良く殺し合ってもらう。
その結果として、その矛はアメリカに向くことはなく、アメリカ国民は平和に暮らすことができる、というものです。

フィクション(SF)なんだけど

「人の不幸は蜜の味」まさにコレですよね・・・
人を陥れ、攻撃し、楽しむような機能は人間に標準装備されてる。
それがエスカレートしたら「虐殺」は引き起こせるかもしれない。
歴史的な事件(ナチスのユダヤ人大虐殺、ルワンダでの大虐殺、原爆投下、アレッポ虐殺など)を見ていると、人間には「虐殺」をすることができる器官が備わっているように思える。

今は誰もが言葉で簡単に人を憎悪できる時代。
マインドコントロールや刷り込み、プロパガンダ。
日本や世界で起きているニュースを見ていたら、「虐殺器官」の中の混沌の時代がすぐそこまで迫ってきているようにも思えます。

ウィリアムズは「ビッグマックを食べきれずにゴミ箱に捨ててしまうような日常のほうが、争いに巻き込まれるよりも大事だ」と言っていました。
ナショナリズムに舵を切りはじめた世界で、人々が自分のことしか考えなくなったら・・・このウィリアムの意見に反論できない自分もいるんですよ。

ジョン・ポールがやったことは正しいとは言えないけれど、愛する人、大切な人を守るためにという発想は理解が出来る。
自分たちの国の平和は、世界を平和な国とそうじゃない国に二分することで実現している。
この思考はすでに「虐殺器官」を刺激されてるんじゃないかって・・・。

近未来を視覚的に楽しめる

小説映像化の意義としては、SFの世界観やガジェットを視覚的に楽しめる点ですよね。
特殊暗殺部隊のメンバーは、戦闘中に痛みを感じないように痛覚をマスキングしていたり、人を難なく殺せるように感情を無くす「感情適応調整」を受けていたりします。
緑色の目薬を挿せば視界に照準器が写るし、体を透明化(背景に同化させる?)ことが出来る。そして、隊員が見たものは全て映像として他人が見ることも出来たりもします。

乗り込んだ隊員を飛行船から投下する棺桶みたいなポッドや、ポッドから離脱するドローンのような狙撃器、そのポッドは証拠を残さぬように一定時間経つと溶ける仕組みになっていたり。
ランニングの際に設定した目標タイムが自身の姿で映像化、その映像化された自分と競争するとか、そう遠くない未来に実現しそうなガジェットやテクノロジー描写は興味深いです。
人工筋肉を利用した兵器の数々は実際に実現するんじゃないかというリアル感で見応えありです。

語彙が豊富なので頭フル回転

この語彙の豊富さが最初に書いた「ちょっとだけ頭が良くなった気分になれる」ところですね。
おかげで映画上映中は、ずーっと頭がフル回転です。
疲れます。勉強不足を思い知らされます。

日常会話にはでてこないような純文学的な言い回しとかありますし。
文学的な知識まで知っていないと分からないところもありますし。
カフカ著作に関する内容も出てきますし。

「計数されざる」とか言われても・・・
漢字で見ると憶測しやすいんですけど、音で聞くと分からない。
小説を読んでから観たほうが情報が補完されて良かったのかもしれません。

エピローグについて

完全な鬱エンドで、シェパード大尉がジョン・ポールから受け継いだ虐殺文法を用いた告発を行い、アメリカ国内で混乱をもたらすという結末です。
アメリカが混乱に陥れば、テロを仕掛けるような理由もなくなり、今度はアメリカ以外の国を救えるいう、ジョン・ポールとは逆の発想です。
原作小説では「実際に文法の効果があらわれて、アメリカ崩壊寸前」という場面まで描かれていて、アメリカが虐殺の嵐になっている中、ピザを食べている主人公のラストカットもあるんですね。
映画では重要だけど語られなかった箇所があって(母親との関係性だとかルツィアを好きになる部分とか)、やっぱり原作を読んでから映画を観たほうが面白かったかも。

完全なフィクションだとは思えない、どこか本音をえぐられたような気持ちになりました。
全く突飛ではない、どこか身近さを感じさせるところ、目を背けたくなるような現実や描写にも真摯に向かい合ったところ、そしてこのプロジェクトを最後まであきらめなかったこと、すべてがこの作品の凄いところではないかと思います。

あと、PSYCHO-PASSが好きな人は好きだと思います。
PSYCHO-PASSアニメ8話で、槙島とチェ・グソンのシーンで伊藤計劃の「虐殺器官」が引用されているので要チェックですし、世界観もなんだか似ているし、主題歌もEGOISTだし。

小説は難しいって人は漫画も出てますよー。
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この世界の片隅に

「この世界の片隅に」

★★★★★

邦題 この世界の片隅に
製作国 日本
製作年 2016年
監督 片渕須直
原作 こうの史代
キャスト のん/細谷佳正/尾身美詞
稲葉菜月/小野大輔 ほか
配給 東京テアトル
上映時間 126分
公式サイト この世界の片隅に

あらすじ

1944(昭和19)年2月。
18歳のすずは、突然の縁談で軍港の街・呉へとお嫁に行くことになる。
新しい家族には、夫・周作、そして周作の両親や義姉・径子、姪・晴美。
配給物資がだんだん減っていく中でも、すずは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。

1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの艦載機による空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして、昭和20年の夏がやってくる――。
(「この世界の片隅に」公式サイトより)

観終わってからも勝手に涙が溢れてくるような素晴らしい作品です。
日本映画史に残る大傑作ですよ!
感想がうまくまとめられないくらいの衝撃です。
映画館で絶対に観た方がいいです。
まだ観ていない人は、ネタバレを見ずにそっとブラウザを閉じて、映画館へGO~

この”世界”の”片隅”に

このストーリーにおける「世界」っていうのは、国、戦争、政治、思想などを全部ひっくるめた大きな物語(歴史)ですね。
「大きな物語」っていうのは、NHKの「その時歴史が動いた」なんかに取り上げられるような人たちのドラマチックなストーリーだったりするわけだけど、その「大きな物語」の中には、我々のような一人一人の人間の積み重ねがあって、その中に「小さな物語」がたくさんある。それがこのストーリーにおける「片隅」ですね。
取るに足らない日々の細々した営みはドラマにはならないけども、この「片隅」のほうから「世界」を浮き彫りにしてる、そういうすごい映画でした。

感性を攻撃してくる

6年もの歳月をかけて調べぬかれ、考え抜かれ、磨き上げ抜かれたアニメーションです。戦時下の広島・呉で暮らす人々の暮らしが生き生きとアニメーションで最大級に丁寧に描かれて、本当にそこに生きていたんだ!と思えるんです。

当たり前の暮らし、仕事、人々の笑顔、青い空、飛んでくるサギ、海の白波や夕陽、野に咲く草花。それは儚いものかもしれないけど、すずさんたちが大切にしてきたものの鮮やかな描写が逆に、戦争に巻き込まれる市井の人たちの言葉にならない悲しみを感じさせます。

原作漫画が素晴らしいし、コトリンゴさんの歌も催涙効果抜群というのもあるんですけど。
すずさんたちの「日々の暮らし」を自分に重ね合わせて観ることが出来るので、126分間、感性がフル活動です。
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食べ物の演出

食べ物の演出はこの物語の一部なんですが、このフード演出が素晴らしいです。
何を食べるか、何をどう料理して、どうやって日々の命をつないでいくか。
食べ物は、すずさんたちにとっては日々の暮らしの中心。
戦況が苦しくなっていくと同時にその変化っていうのは否応なく食卓にも現れるわけです。
その見える食卓の変化=歴史の変化 という風になっているんです(泣)。

ただ、その生活は決して悲惨なものではなく、クスクス笑えるシーンもたくさんあります。
すずさんが明るく料理をするシーンは、オーケストラよろしくの演出でほんわかするし。
普通すぎる日々を過ごしているみんなが愛おしくてしょうがないよ!

要所要所で表示される日付

そんな普通すぎる日々を過ごしているずすさんたちですが、太平洋戦争の真っ只中なわけで、徐々に戦争は激しくなり、「あの日」へのカウントダウンも進んでいきます。
日本人なら誰もが昭和20年8月6日に広島で何が起こったか知っている。
気持ちがグーッとなるわけですね・・・。

それでも、過剰に感情を煽ったり泣かせるような演出はないです。
淡々と日々が過ぎていく。何が起ろうといつも通りに。

すずさん

小さい頃からぼーっとしとる、と言われていたすずさん。
強い自己主張をすることはないけど、自分の感情は絵で表現してきたすずさん。

そのすずさんの声をあてたのは、のんさんです。
おっとりした中に芯の強い雰囲気があって本当にピッタリでした。
のんさんはもちろん、細谷佳正さん、小野大輔さん、声優陣も最強の布陣でした。

映画の後半、すずさんが怒るシーンが3つほどあるんですけども

  1. 北條家に嫁いだことが不幸であり連れ出してほしいと思っているに違いないと決めて迫ってくる水原哲に
  2. 余計な気を回して水原に自分を差し出した周作に
  3. 玉音放送に

特に玉音放送を聞いた後のシーンがすごくて。
右手を無くし、自分から絵を、姪を、父と母と兄を取り上げ、故郷を取り上げ、最後の一人まで戦えと言ったのはお前たちだろうと。
悲しみと痛み、苦しみを内に秘めながら、戦争という不条理にただ毅然と向き合いながら過ごしてきたすずさん。
普段怒らない、おっとりしたすずさんが怒るからこそ印象的です。

普通の暮らしの中にこそ大切なものがある

終戦の日に、大切に取っておいたご飯を炊いて食べるというエピソードがあるんですけども、釜戸からのぼる煙を見た時にじんわりと涙が出ました。
すずさんの家のシーンから呉の町のシーンになって、家のあちこちから釜戸の煙が立ち上がってきて、電気もひとつひとつ点いていく。
「あ、戦争が終わったんだ。暮らしが戻ってきたんだ。」とパッと分かるんですね。

戦後の日本、これから大変なことのほうが多いかもしれない。
だけど当たり前の日々の、普通の暮らしの中に、未来につながる普遍的な宝がある。
そういうことに気付かせてくれるんですね。

クラウドファンディング

この映画は、クラウドファンディングで3912万1920円の制作資金を集めて制作されました。
つまり多くの人がこの原作を映画にしてほしい、と熱望して完成した作品です。
ぜひぜひたくさんの人に見てほしいと思います。

まとめ

死んだにはちは言っていた「この戦争には負けると知っていた」と。
台湾でパンツを盗まれて悔しくて歯ぎしりしたと。
歯ぎしり?地団太?・・・ちょっと笑っちゃうじゃん。
「片隅」で戦時下にいた海兵隊員のにはちでもそうことがあったんです。

そう、実はこの映画、基本めちゃめちゃ笑えます。
あの悪夢の日にもやっぱり笑っちゃうことは起こってて、それを見る側も自然に笑っちゃっうっていう。
涙出てたのに「ふはは」って。全編通してオチがあるんです。
ブレてないんです、そこに本当に感動します。

2回観に行ったんですけど、1回目はまっさらな状態で初めて見て「ガーン」ってなって、原作漫画や映画パンフ、公式資料を見てからの2回目。
改めてさらに感動が増しました。

3回目はさらにですよ、きっと。で、きっと行きますよ。
2回目、ちょうど行った日がクリスマス前でして、素敵なポストカードを頂きました。

原作は読んでも読まなくても大丈夫ですけども、読んだ方がより映画では語られない部分が補完されて良い感じです。
ぜひ。

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シン・ゴジラ

「シン・ゴジラ」

★★★★★

邦題 シン・ゴジラ
製作国 日本
製作年 2016年
総監督 庵野秀明
監督 樋口真嗣
キャスト 長谷川博己/竹野内豊/石原さとみ/高良健吾 ほか
製作 東宝
上映時間 96分
公式サイト シン・ゴジラ
なかなか観に行けなかったのですが、ようやく行けました。
12年ぶりの国産ゴジラ。

庵野秀明の「シン・ゴジラ」は凄まじく素晴らしい映画でした。
期待を上回る大傑作で泣いたよ!
まだ観ていない人は、ネタバレを見ずにそっとブラウザを閉じて、映画館へGO~

シン・ゴジラは完全生命体

ゴジラが最初に現れた時「??」と思わせられました。
いつものゴジラじゃないな・・・
あれ?這ってる?

正体不明・・・
気持ち悪っ・・・
エラから鱗の塊みたいな大量の血を流しているよ・・・
おえっ・・・

ドンドン形態を変えていく不気味な化物、個体で進化を続ける完全生命体。
形態が常に進化する生命を超えた生命。
次第にゴジラは今までのゴジラのようになってきて「待ってました!!」と心の中で叫びました。

妙なリアルさ

「シン・ゴジラ」は、現代の日本に初めてゴジラが上陸したという設定で、113メートルの巨大なゴジラが紫色の放射線を出しながら、東京の街を破壊していきます。
日本は、対ゴジラについての一切のノウハウがない中で未知の超巨大生物に立ち向かうことに!

未曾有の事態に政府は慌てます。
防衛出動か?治安出動か?
自衛隊が立ち向かうも全く歯がたたない時の絶望感。

描写がいちいち細かくて、登場人物それぞれの人となりが見えるし、
セリフの細かいところから、どんな人なのか背景がわかる緻密さがあって、すごく面白い。

未曾有の災害。
閣僚の皆さんお決まりのごとく早速災害服を着用し、災害服を来た官房長官が「0.5マイクロシーベルト」とか線量を会見で言ったり。
官邸内の動きがものすごくリアルに感じられるのは、東日本大震災のときの政府を、311でみた風景を思い出すからかもしれません。

登場人物が多い

とにかく登場人物が多くて覚えられません!
主要人物さえ分かれば覚えなくて良いと思いますが。

「シン・ゴジラ」の登場人物は「個」で活躍することはなくて、それぞれ所属の各省庁だったり、内閣、自衛隊、緊急対策チーム、あくまで「集団」として活躍しています。
最後まで「集団」としてゴジラと闘うところは、日本人や日本の強さは「個」ではなく「集団」であると、日本人の本質を描いているのかな~と思ったりしました。

それにしても、副官房長官の長谷川博己はかっこよすぎてしびれました。
一瞬しか出ないような人たちまで豪華で、みんなゴジラと庵野監督好きなんだなーと。

エヴァらしさ

明朝体のテロップ、映像の角度、BGM。
登場人物や組織が登場するたびに明朝体のテロップが現れるところ。
都内が停電して真っ暗闇の中、体のところどころ不気味に赤く光るゴジラの姿は、エヴァ初号機のようですし!

政府内の動きは、エヴァのネルフのオペレータールームのようだし、前線に出る人も裏方の人も一緒に戦っている空気感。
格好いい。

ゴジラはまだまだ進化しそう・・・そしてパンデミック?

「血液凝固剤」と「活動抑制剤」でゴジラを凍結しよう!というヤシオリ作戦。
作戦はうまくいって、無事ゴジラを凍結することが出来ました。

最後、ゴジラを尻尾すごかったんですよ…人間がくっついてました。
あれはゴジラの第五形態だと思いました。
人間型に進化して、分裂してパンデミックみたいになるんではないかと!
人間型だと世界各地に分散できますし。

でも続編はないっぽいです。
あったとしても庵野監督は作らないっぽい(パンフレットで今回一回限りのつもりで作ったという庵野監督のコメントがあります)です。

まとめ

シン・ゴジラは初代ゴジラとは異なる世界観の作品なのですが、初代ゴジラを観たことがある人なら、なるほど!と思わずにはいられません。
庵野監督の初代ゴジラへの敬意が多く見られます。

1954年の初代ゴジラは、ビキニ環礁の水爆実験から着想を得て作られたため、核のメタファーでもあったことを思うと、ラストの凍結ゴジラは、福島原発へのメタファーであると思いました。

色んな事を考えさせられるこの「シン・ゴジラ」。
庵野監督が好きな人、エヴァが好きな人、とにかくゴジラが好きな人、全然好きじゃないって人も観たほうがいいよ!の一本です。

GANTZ:O

「GANTZ:O」

★★★★★

邦題 GANTZ:O
製作国 日本
製作年 2016年
総監督 さとうけいいち
監督 川村泰
キャスト 加藤勝/小野大輔
山咲杏/M・A・O
製作 デジタル・フロンティア
上映時間 96分
公式サイト GANTZ:O
累計発行部数2100万部の奥浩哉原作の大ヒットコミック
「GANTZ」がフル3DCGでアニメ化!
その中でも人気の高い「大阪編」がこの「GANTZ:O」なのです。

前売券を買いました

前売券はオリジナルボイスドラマ&描き下ろしラスト付き。
オシャレ前売券、最近のはテレフォンカードみたいになってるんですねー。

GANTZのあらすじ

ある日、玄野計は地下鉄のホームで小学生時代の親友だった加藤勝を見かける。正義感の強い加藤は線路上に落ちた酔っ払いを助けようとするが、助けに入った玄野と共に、進入してきた電車に轢かれて死んでしまう。
次の瞬間、彼らはマンションの一室にいた。そこには、同じ様に死んだはずの人々が集められていた。部屋の中央にある謎の大きな黒い球。彼らは、その「ガンツ」と呼ばれる球に、星人を「やっつける」ように指示され、別の場所へと転送されていく。謎の物体「ガンツ」に集められた死んだはずの人々は理由もわからないまま、その素質の有無に関わらず、謎の星人と戦わなくてはいけない。玄野はその中で、戦いに生き延びながら成長し、「ガンツ」の世界に触れていく。
出典:GANTZ – Wikipedia

今回映画化された「大阪編」は原作漫画の21~25巻で、実は玄野計(主人公)はその前のオニ星人編で死んじゃってるんです。そこで、準主役である加藤がゲームに参加し、ガンツの100点メニューから殺された玄野を生き返らせようとするところからスタートします。

大阪編の始まる、原作漫画21巻のあらすじはこんな感じ。

玄野・和泉の両雄を失ったままに新たなミッションへと転送されてしまうメンバーたち。玄野の死を悼む余裕すらなく、たどりついたその場所はどこか見慣れない場所。眼前に広がっていたのは、大阪・道頓堀の街並みだった…。そこで、メンバーが出会ったのは同じガンツスーツの見知らぬ一団。彼らは敵か味方か!?シリーズ最大の破壊と蹂躙が幕を開ける新章ガンツ!
出典:Yahooブックストア

原作と映画では少し話が違います

原作では、加藤が玄野を生き返らせようとゲームに参加するんですけども、GANTZ:Oの加藤は何も知らない所からスタートです。
通り魔に刺され、転送されてGANTZの戦いに巻き込まれていきます。

原作漫画と映画は話が違うんですが、「GANTZ」の話自体は「死んだはずの人間が集められ、星人と戦わせられる」というすごくシンプルなものなので、GANTZを知らない人も何も問題なく観られると思いました。

フル3DCGアニメーションの映像美に圧倒される

亜人」で予告で流れていた時から「お?なんかスゴくない??これ観たほうが良くない?」って思っていたのですが、期待以上の映像でした。
日本の3DCGがGANTZの世界観に追い付いたっ!と感動せざるを得ない出来栄え!

こんなにハイクオリティな映像が作れるなんて…
モブにも手を抜かないスタッフに拍手喝采です。

大阪の街並み(道頓堀)なんて実写なんじゃ?と思うくらいに再現されていましたし、GANTZで登場する武器や兵器も馴染んでいて、「ガンツバイク」や「Zガン」が、原作漫画を読んで想像していた通りの挙動、キャラクターもCGか本物か分からない瞬間なんかもあって、もうホントすごかった。

ガンダムみたいな巨大ロボやハードスーツなんかも素晴らしい出来でした。
水木しげるもびっくりの妖怪たちの出来栄え、武器の造形、すべてが私好みのパーフェクトでして、原作の世界観が見事に表現されています。

モーションキャプチャー

GANTZ:Oでは、キャラクターの動きはモーションキャプチャーで作られているので、動きも本物に近いです。
モーションキャプチャーと言えば「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムを思い出します!

GANTZ:Oを作ったデジタル・フロンティアですが、お台場にアジア最大級のモーションキャプチャースタジオを持っているそうです。
スタジオにはT160というカメラが100台あって、1台が800万円するという…
こんなハイクオリティな映像が作れたのも納得です!

Gigazineさんにて特集記事があるので必読です。
超面白いです。

デジタル・フロンティアに「GANTZ:O」をどう作ったのか徹底的に聞いてきた

  1. その1・キャラクター編
  2. その2・背景編
  3. その3・モーションキャプチャー編
  4. その4・アニメーション編
  5. その5・フェイシャル編
  6. その6・セットアップ編
  7. その7・エフェクト編
  8. その8・コンポジット編

声優陣

大阪チームの男性陣は芸人が声優を務めていまして、大阪弁の違和感がなくて良かったです。
レイザーラモンRG、HG、ケンコバさんですね。
室谷、島木、岡八郎という、吉本興業を彷彿させる名前なので、これが意外と効果的だと思いました。

主人公、加藤役の小野大輔さんも「モーションキャプチャーの表情に合わせて声を充てた」って言っていて、表情と声がすごくマッチしております。
あと、私が好きな(笑)小野坂昌也さんという声優さんがいるんですが、大阪チームのモブなんですけど、すごい声通ってて、すごくイキイキしてたのが面白くて、ちょっと引きずっちゃいましたw

観るなら4DXがいいですよ

そんなGANTZ:Oですが、
まずは2Dで普通に観たのですが、面白すぎたので4DXでも観ました。

4DXだと、妖怪たちとのバトルアクションシーンがすごく楽しめます。
血しぶきのところなんか、水がピャッとかかります!
振動とか煙とか、音もダイナミックですし、
おっぱいシーンなんかは、ほわんっと甘~い匂いが漂ってきたりして最高です。

ヒロインの杏ちゃん、レイカもすごく可愛いし。
奥先生の作品は、女性のおっぱい魅力的ですよねー。
いいなぁ、あんなおっぱい。

主題歌

ドレスコーズの「人間ビデオ」。
じゃんじゃんじゃかじゃか じゃんじゃんじゃん うわぁぁぁ
GANTZにピッタリで素敵です。ぜひ。

まとめ

原作と映画で違うストーリーにはなっているものの、綺麗にまとめられています。
初めて参加したはずの加藤ちゃ有能すぎない?という違和感にも納得のいく答えが用意されていますし。
原作を読んでいた頃の「不条理な世界への挑戦」みたいな未知のワクワク感を十分楽しめる映画になっています。

原作を読んだことがある人にはもちろんぜひ見てほしいし、
原作を読んだことがなくて映画を先に見るよ、という人だったら、
確実に原作を読んでみたくなる構成で、この映画に携わった皆さんにスタンディングオベーションです。

フル3DCGアニメという選択肢は「GANTZ」のように
実写化が難しそうな作品には持って来いだということを確認させられました。

実写で得ることが出来ないアニメーションならではの表現
原作の世界観を壊さず、見る側にちゃんと伝わって楽しめる優れものですね。
「ジョジョ」や「亜人」の実写化も、もうフル3DCGでいいじゃんね。

日本の漫画は本当に面白い!
そして日本は3DCGも凄かった!!