「福岡国際映画祭2013」カテゴリーアーカイブ

愛しのゴースト Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-(タイ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、10本目は

「愛しのゴースト Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-」

★★★★★

基本データ:
監督 / バンジョン・ピサンタナクーン (Banjong Pisanthanakun)
キャスト / マリオ・マウラー(MARIO MAURER)、マイ・ダーウィカー(MAI-DAVIKA HOORNE)、ナタポン・チャートポン(NATTAPONG CHARTPONG)、ポンサコーン・ジョンウィラート(Pongsatorn Jongwilas)
あらすじ
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身重の妻を残し、戦争に召集された夫。死線を乗り越え、愛する妻のもとに帰り、遂に我が子を抱きあげる。しかし、村人が言うには妻子はすでに死んでいる…!?
タイで歴代最高興行収入を記録したメガヒット・ホラー・コメディ。恐怖と笑い、だけじゃない!異色の愛の物語。

「Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-」

>>> 以下、多少ネタバレあり <<<

死が二人を分かつまで-。
それってホント?愛だろ、愛っ!

タイでは誰でも知っている有名な怪談「メーナーク・プラカノーン」の2013年版ということで、タイでのタイトルは「ピーマーク・プラカノーン」だそう。今回のリメイクでは、妻のメーナークの夫、ピーマークとその戦友たち4人を軸にストーリーが展開していく。

マークは徴兵され、身重の妻のナークを残して戦場に。負傷したマークは、激戦をくぐり抜け、戦友たちとプラカノーンの自宅に戻って来る。マークとナークは喜びの再会を果たし、マークは戦友たちをしばらくの間離れに泊めることにした。

しかし、マークらが村へ行くと、どうも村人たちの様子がおかしい。皆が妻のナークは幽霊だと言う。
戦友たちは、友達のマークを助けるべく色々と策を練るのだが・・・。

マークとナーク、戦友たちが繰り広げるドタバタホラー・コメディ。
途中まではどっちが幽霊なのかよく分からないし、そういう自分も実は幽霊だったりするの?・・・なんて思えてくる幻惑感(笑)。

冒頭の戦闘シーンはかなり迫力があって見ごたえがあるのに、笑えてしまうのは、良い演出、編集があったからだろうと思う。撮影もクオリティが高いのだ(タイ映画のクオリティの高さは「レッド・イーグル」でも感じた)。

冒頭で戦友の一人が、「この戦争を乗り切るために!」と一生懸命仲間に話しているシーンがあるのだが、タイの言葉や習慣、言い伝え、歴史など、外国語に訳すことが出来ないようなことを話しているので、翻訳の際に、誰にでも分かるように表現を変えているのだそう。例えば、タイの人なら誰でも知っている英雄の話をしているとしても、字幕では「ラストサムライ」とか「スリーハンドレット」とかにしているので、外国で配給されてもみんな楽しめるようになっている。
本当にこの冒頭では、編集の妙・翻訳の妙とでも言えばいいのか、戦闘のシーンなのに笑ってしまう。

そして最後は、ほろりと泣かせてくれる。
マークとナーク(名前が似てる・・・)の強い愛の物語。
死は、マークとナークの愛を引き裂くことが出来るのか。
日本公開があるとのことなので、それは観てからのお楽しみ。

マーク役のマリオ・マウラーは、ちょっとヘナチョコだけど愛妻家で純粋さが出ていて可愛らしいが、愛を信じる強さがにじみ出ていた。
ナーク役のマイ・ダーウィカーは、綺麗すぎてある意味怖いくらいだけど、その中に少女らしい可愛らしさを持ち合わせていたように思った。
特に良かったのは、マークの戦友たちを演じた助演の4人。抜群におかしい!4人が4人とも必死でマークを助けようとしているのに、まったく噛み合わない。見事に笑いを取っていて、でも友達って良いな、こんな友達いたら楽しいな、と思わせてくれる。

エンド・ロール中に後日談が流れるのだが、それも傑作だ。
後日談の戦友4人のサイドストーリーなんてどうだろう。だめ?

福岡国際映画祭、最終日に見たこの「Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-」。
バンジョン・ピサンタナクーン監督のQ&Aがあったのだけど、監督が「本当に最後の最後だから後悔しないように質問をどうぞ」とのことで、幼稚な質問だけどさせてもらった。

妻ナークの手料理をみんなで食べるシーン。
マーク、戦友たちは「これは”旨味”が出てる。美味しい」と口々に言う。
本当に日本語で「うまみ」と言っているのだ。タイ語でも「旨味=うまみ」なのですか?と質問!

実は「旨味=うまみ」タイの味の素CMでの宣伝文句だそう。
タイの観客「あの時代に味の素なんてあるわけないだろ!」と大爆笑。
バンジョン・ピサンタナクーン監督いわく「Pee Mak -พี่มาก..พระโขนง-」には、時代背景とはそぐわない言葉がいくつもあるけれど、それが現代の人に分かりやすく伝わっている、とのこと。

他にも、お歯黒にしているので歯磨き粉のCMに出演することになった裏話とかあって、大変面白かった。
味の素のCMにも起用されるといいね(笑)!

予告編からもホラー映画な要素はたっぷり出ているのだが、コメディであり、ロマンスであり、そう、愛のホラーであり、一口で3度美味しい映画!
またまたタイ映画に恋してしまった。日本公開が待ち遠しい(*^^*)

バンジョン・ピサンタナクーン監督のサイン

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dtvで「愛しのゴースト」レンタルしました

吹替版が良かった…ホント。
タイ語で観てたから、なおさら良かったのかも。

声優さんたち、雰囲気すごくつかんでた!
小野大輔さん、神谷浩史さん、櫻井孝宏さん、福山潤さん。

マーク、へなちょこ過ぎなのにめちゃカッコいいのがもうツボ。
小野D のキャラと被る…マーク似合いすぎw

バンジョン・ピサンタナクーン監督もニッコリですね、こりゃ。
吹替版いいなぁって思ったの初めてかもしれません。

ゲーマー(ウクライナ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、9本目は

「ゲーマー(Гамер)」

★★★★☆

基本データ:
監督 / オレグ・センツォフ (Oleg Sentsov)
キャスト / ウラジスラウ・ジューク(Vladislav Zhuk)、ジャンナ・ビリューク(Zhanna Biryuk)
あらすじ
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ほとんどの時間をゲームに費やす17歳のアリョーシャは、その世界ではコスとして名の通った存在である。ゲームに熱中するあまり、学校は退学同然。アリョーシャは静かだが熱い情熱をシューティングゲーム「Quake」に傾ける。地元のゲームクラブの大会で3位に入り、賞金だけでなく、チームの一員として無料でクラブを利用できるようになる。シングルマザーの母親の心配をよそに、世界チャンピオンを目指すコス。果たしてその行方は?少年の孤独な闘いが静かに胸に響く。
(公式パンフレットより)

「ゲーマー(Гамер)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

最後に見える世界は、希望か絶望か。
天才少年の孤独な闘いがはじまる。

学生の頃、熱中したことって何?
私は「恐竜研究」「映画鑑賞」「切手収集」で、どちらかというと、熱しやすく冷めやすいミーハーな女だった。

さて、この映画の主人公アリョーシャは、何よりも「ゲーム」にストイックに打ち込む17才。
ゲームに熱中するあまり学校も退学寸前、だけどアリョーシャはゲームに人生をかけている(将来はプロのゲーマーになって生活したいと考えている)ので、心配する母親の話もあまり聞こうとしない。

彼は「ゲームの世界」では名の知れた存在で、彼に憧れているゲーム少年たちも多い。ゲームのために日々練習を積んだ甲斐もあって、国内大会で優勝し、世界大会へと勝ち進み、世界第二位の成績を収める。

世界第二位になったことで、一部では名声を得るが、母親からは学校に行くように説得され、今まで通りにゲームの練習が出来ず、ゲームの腕も落ちていくアリョーシャ。感情を表に出さないアリョーシャだが、彼が心に中に持っている苛立ちは、静かに伝わってくる。

母親が働く店で、後輩ゲーマーから からかわれる一幕。
彼は、苛立ちウォッカをかっ喰らい、最後には今までの人生の全てをかけた象徴のMicrosoftのマウスを捨てる。
バーチャルの世界から現実に、少年から大人に…

ゲーム大会の遠征で同室の男性が言った「ゲームより大事なものが出来るんだよ」という一言。
夢を追い続けること、何かに熱中する事は素晴らしい。
最後の笑顔が意味深だけど、いつに日か「ゲームに熱中した過去」が人生の糧になる日が来ると信じて。

なぜか平家物語を思い出した。
母親の友達の教授が「栄光は長くは続かない」って言ったからか。
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祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。
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この世のすべての現象は絶えず変化していき、どんなに勢いが盛んな者も必ず衰えるもので、世に栄え得意になっている者も、その栄えはずっとは続かず、春の夜の夢のようだ。勢い盛んではげしい者も、結局は滅び去り、まるで風に吹き飛ばされる塵と同じだ。
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アリョーシャは平家じゃないけど、天才が平凡になるのは、難しいことだと思う。
過去の栄光を忘れられないこともあるだろう。
やはり最後の笑顔に含みを持たせた監督は鋭いなぁ。

余談だけど、アリョーシャの友人の携帯着信音が「不思議惑星キン・ザ・ザ」で流れるバイオリンの曲だったように思った。この映画といい「不思議惑星キン・ザ・ザ」といい、音楽が素晴らしい。サントラがあったら欲しいくらい。

オレグ・センツォフ監督のサイン

オレグ・センツォフ監督の対談がアップされていました!

狂舞派-The Way We Dance-(香港) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、8本目は

「狂舞派(The Way We Dance)」

★★★★★

基本データ:
監督 / アダム・ウォン (Adam Wong)
キャスト / チェリー・ガン(Cherry NGAN)、ベビージョン・チョイ(Babyjohn CHOI)、ヨン・ロッマン(Lokman YEUNG)、ジャニス・ファン(Janice FAN)、トミー・ガンズ・リー(Tommy “Guns” Ly)

あらすじ
大学生になった女の子ファーは、父の豆腐屋を手伝う毎日から抜け出し、念願のヒップホップ・ダンスチームBombAに入る。チームの目標はライバルのRooftoppersを打ち負かすこと。持ち前の明るい性格とダンスの実力で、ファーはチームで欠かせぬ存在となり、Rooftoppersからも一目置かれるようになっていく。チームリーダーのデイヴに淡い恋心を抱くが、レベッカ(チームメイト)の嫉妬の眼で見られ、彼女から自分のダンスを否定されて、チームを離れてしまう。
傷心のファーは、リョンという男の勧誘に負け太極拳を始める。いやいやながら稽古を重ねるうちに、ファーは太極拳の奥深さを知り、のめり込んでいくと同時に、落ち着きのあるリョンの包容力に魅かれていく。
ヒップホップダンス、ストリートダンスに情熱を注ぐ天真爛漫な女の子の青春ど真ん中ストーリー。
(公式パンフレットより)

—————————–

「狂舞派(The Way We Dance)」

>>> 以下、多少ネタバレあり <<<

豆腐の花は力強くしなやかに舞う。
Cool Hong Kong 今ここに!

福岡国際映画祭オープニング上映作品でもあった「狂舞派」。
「ダンス映画か」と完全スルーしていたのですが、授賞式に出席して「福岡観客賞」を受賞した「狂舞派」チームの嬉しそうな顔を見てると、どんな素敵な映画なんだろうと興味が湧いたので観てきた。

まず、最初に出演者プロフィールをダンスミュージックに合わせて出す。センスが良い。
これから始まるストーリーへの期待感を高めてからの豆腐屋のシーン。センスが良い。
豆腐屋の雑然としたシーンからの、Rooftoppersのビルでのパフォーマンス。センスが良い。

あぁ、もうここまでで(めっちゃ序盤だけど)アダム・ウォン監督、センスが良い!
これは期待できる!!!

主人公ファーは、可愛くて、明るくて、ダンスが大好きで、見ていて応援したくなるキャラ。
いつも、せわしなく動いている(ように見える)。

対して、太極拳の使い手リョンは、飄々とした雰囲気で、この映画に心地よい風を吹き込んでいると思う。
リョンが出てくると場の雰囲気が変わるから退屈しない。

ヒップホップ(ファー)と太極拳(リョン)の対比が面白いな、と思った。
最終的には、この二つ(二人)はうまくシンクロするわけだし。センス良い!

BombAのメンバー、レベッカに「カニみたいなダンス」だと笑われてチームを離脱、怪我をしてダンスが出来ない状況になっても努めて笑顔を絶やさないファー。
踊ることが出来ない私は私じゃない!と悔しがるファーに、ライバルチームのリーダーが、ファーのダンスを認め、励まし、彼女に本当の笑顔を取り戻させてくれるシーンにはグッときた。

また、レベッカがファーを嫌う理由もしっかりとあって、彼女は途中でコスプレグラドルになったりと迷走するのだが、最後に彼女は自分で自分を取り戻すことが出来る力を持っているし、問題山積みだったBombAが、一皮も二皮もむけて成長していく過程は、夢を諦めずに努力する姿はいつも素晴らしいと感じさせてくれる。

ファーとリヨンの二人のシーンには静かな時間が流れていて、心地よいなぁという感じ。
二人で影絵をするくだりが、ダンス大会への伏線になっているのも秀逸。

全編を通しての圧倒的なダンスパフォーマンスは見ごたえがあって、特にライバルチームのRooftoppersのダンスはパワフルでカッコ良くて、スクリーンに釘付けになること間違いなし。

自分と違うものを認めて、切磋琢磨する。ギャップを楽しむ。
夢に向かって努力する「ありのままのカッコイイ姿」を描き出したアダム・ウォン監督、「単なるダンス映画」なんて思っててごめんなさい。

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」を受賞した「狂舞派」。
「ダンス」というツールを通して、めいっぱいの青春を詰め込み、そして夢を諦めずに努力する姿は、アダム・ウォン監督の映画作りへの姿勢にも重なっていて、それでいて全ての人への応援メッセージでもある、そんな素敵なとてもハッピーな映画だった。
そして個人的に、リョンが話す「カニの話」良かったです!

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」恭喜~!


(左から真ん中の四人)アダム・ウォン監督、トミー・ガンズ・リー氏(Rooftoppersリーダー役)、ベビージョン・チョイ氏(リョン役)、サヴィル・チャン氏(プロデューサー)
みんな気取ってなくて普通のお兄ちゃんって感じです。親近感!

トミー・ガンズ・リー氏、本当に義足のプロダンサーだそうです。
9/17が誕生日だったようで、9/18の授賞式は良い思い出になったんじゃないかな~?良かったですね!
こちらの記事も合わせてどうぞ!

そして、リョン役のベビージョン・チョイ氏、劇中では髭も生やしていて髪型も大人っぽい感じだったけど、少年みたいな雰囲気の可愛い俳優さんでした。舞台俳優さんなんだそう。「レッド・カーペットや映画祭、上映会…私にとって全部初めての経験で賞までいただけたことに感激しています。一生で忘れられない経験となりました。福岡は、日本でこの映画を広めるチャンスを作ってくれた場所。日本でも口コミでぜひ、この映画の面白さを伝えてほしい」だって・・・惚れた!

アジアフォーカス・福岡国際映画祭「福岡観客賞」授賞式の様子はこちら!
レポート記事はこちら!

アダム・ウォン監督の受賞コメント書き起こしました。(発表は25分くらいから)
———————————
ありがとうございます。この賞は予想もしていませんでした。
実はこの映画を作るのに4年かかりました。4年前、私とサヴィル・チャンは街中に座り込んでこの映画の草案を練っていました。
香港では、大学に行って「ダンスの映画を作りたいんだ、でも人気俳優なんて全然出ないんだ」と言うと散々バカにされたわけです。でも、私たちは信念を持っていました、この映画は絶対に良い映画になる、と。しかも香港の中でダンスをしているグループの人たちにに魅了されたんです。みんな情熱、ロマンスを持ってダンスをしていたのです。だから、絶対にやる価値がある、やろうと思ったわけです。そして最終的に良い俳優にめぐり合えて、この映画を完成させることが出きました。でも商業的に成功するということは最初全然考えていませんでした。ただ良い映画を作りたかっただけです。
しかし、とうとうこのように「福岡観客賞」を受賞するまでになりましたし、実際、香港でも大成功を収めています。もちろん、香港では沢山の人がこの映画をほめてくれましたし、ちょっとしたブームになっているというくらいです。プラスのコメントもネガティブなコメントも含めて、全部受け止めて、これからも前に進んでいきたいと思っています。
そして、今日は本当に予想もしなかったこの賞をいただくことになり、本当に嬉しい限りです。
この賞というのは、私たちチームが一丸となって努力した証だということ、それを確信するに至りました。本当にありがとうございます。
この機会に日本全国の観客のみなさんに、この映画祭の皆さんに心からお礼申し上げたいと思います。そして、日本映画そのものにも心からお礼申し上げたいと思います。私は実は日本映画からものすごく大きな影響を受けたんです。ぜひいつの日か、近い将来に、日本の映画を日本人の俳優さんたちと共に日本で作ってみたいと思います。
ありがとうございました。
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サントラも絶好調の様子。「狂舞派」劇中の良いとこどりのPVとなってます。

DoughBoy – 狂舞吧 (電影狂舞派主題曲) Official MV

納得のアジアフォーカス・福岡国際映画祭2013「福岡観客賞」受賞でした。
香港の若くて素晴らしい才能に乾杯!
福岡を皮切りに全国でこの「狂舞派」が観られる日が来ることを祈っています。

「狂舞派」チームのサイン!

授賞式編集されたのを見つけたので貼っておきますー。

果てしなき鎖(フィリピン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、7本目は

「果てしなき鎖」

★★★★☆

基本データ:
監督 / ローレンス・ファハルド (Lawrence Fajardo)
キャスト / ニコ・アントニオ(Nico Antonio)、アート・アクーニャ(Art Acuna)、バングス・ガルシア(Bang Garcia)、ノル・ドミンゴ(Nor Domingo)
あらすじ
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マニラでのある一日の物語。
貧民街に育ち、盗みで母親と弟の二人の家族を養うジェス。若い女性グレイスのiPhoneを盗み、売りさばいたまでは良かったが、警察に捕まってしまう。そして、釈放の代償として求められたのは・・・。

「果てしなき鎖(Posas)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

これは出口が見当たらないメビウスの輪なのか。
人間社会の不条理は連鎖し続ける・・・
「アモク」で衝撃を与えたローレンス・ファハルド監督の最新作。

盗みで家族を養うジェス。
今日もいつも通り、グレイスのiPhoneを盗むと、すぐに売りさばき意気揚々と闊歩する。

しかし、彼女のiPhoneには秘密の動画が保存してあり、死んでもそれを他人に見せるわけにはいかないグレイスは、警察に助けを求める。彼女に顔を見られていたジェスは、狙った獲物は逃がさないと言わんばかりの警察官についに捕まってしまう。無罪を主張するジェスだったが、iPhoneを売りさばいたお金が出てきて、言い逃れできない状況に・・・。

一方、どうしてもiPhoneを取り戻したいグレイスは、法にのっとり手続きをするが、にっちもさっちもいかない。
「起訴したら時間もかかる。3回の調停に一度でも休めば不起訴になる。今、不起訴にしたほうがいいかもしれない。iPhoneは見つけたら必ず連絡します。」というドミンゴ警部の言葉にグレイスも頷く。
ジェスを不起訴にしたドミンゴ警部は、彼を連れてiPhoneを取り戻させ、さらには逃げられないように「いつものやり方」でジェスを利用するのだった。

「犯罪者もいれば 法を施行する側もいる 放免される日 彼は自由を失う」

フィリピン警察組織の腐敗ぶりを描いた作品。
ドミンゴ警部の澄んだ瞳は、被害者からは信頼を得そうであり、だからこそ、この腐敗ぶりが怖すぎる。

朝は「盗みをやめて堅気になったら」と言っていた母親が、ジェスが捕まって多額の保釈金が必要と言われたとき「この先どうやって暮らしていけばいいの?」となじる場面は、フィリピンの貧困(貧富の差)の問題の根深さを表わしていて、とにかくどこまでいっても救いがない、目をそむけたくなる現実を突きつけられた。

ジェスとドミンゴ警部の「目」。
それがすべてを物語っているように感じた。

グレイスのように富裕層もいれば、ジェスのような貧困層もいる。
生まれながら背負ってきた運命が「いつか変わる」と信じることが出来れば良いが、負の連鎖は容易く断ち切れないだろうと、諦めにも似た気持ちが湧き上がってくる。

「負」のメビウスの輪は裏も表も繋がっている、まるで出口が見当たらない。
常識が常識ではいそんなフィリピンの悲しい現実、そして日常。
(ちなみに腐敗認識指数、フィリピンは129位とかなり腐敗している模様)

ローレンス・ファハルド監督によると、なんと牢獄や警察署などはすべて実在の建物で撮影したそう。
カメラワークも秀逸で、特にドミンゴ警部役のアート・アクーニャ氏の名演技にやられること間違いなし。
サスペンス的な部分ばかりではなく、ちょっと笑えるシーンもあり。
札束詐欺に合う男性が、ロッキーホラーショーの古田新太に見えたのは私だけ?

92分という短さでこの濃さ。
機会があればぜひ見ていただきたい映画です。

「間に合ったぜ、へへへ!ロックンロール、福岡!」と言っていた
ローレンス・ファハルド監督のQ&Aはコチラ!

目撃者(中国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、6本目は

中国青海青年映画祭受賞作品 FIRST「目撃者」

★★★☆☆

基本データ:
監督 / Zehao Gao (高 則豪)
キャスト / ジャック・カオ 他
あらすじ
—————————–
主人公の宋(ソン)は妻と二人で小さな飲食店を切り盛りしていたが、レストランのオーナー平(ピン)への借金返済に苦しんでいた。ある晩、友人と行きつけの店で飲んでいた宋は、ひき逃げの現場に遭遇し、事故の“目撃者”になる。ある偶然からひき逃げ犯人の正体を知った宋は、思いがけない行動にでる・・・

中国青海青年映画祭受賞作品 FIRST「目撃者」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

見て見ぬふりは我が身を助けるのか。
すべては「幸せのため」と言い切れるのか。
中国が発展を続ける中での下流社会の人達の生活を描いた作品。

主人公の宋(ソン)は、ひき逃げ事故の「目撃者」となる。
宋(ソン)は、被害者を助けようとするが、その甲斐なく被害者は死んでしまう。

自分が疑われるからと被害者を病院の前に捨て、「見て見ぬふり」をし、いつもの生活をようと決めた宋(ソン)。しかし、被害者は行きつけの店の女性店員の彼氏だったことを知る。
しかも彼女は妊娠していた。

複雑な思いを抱えながらも、日々の生活で精いっぱいの宋(ソン)。
店はオーナー平(ピン)への借金返済で火の車。手下にいじめらえる毎日。
そんなとき、宋(ソン)はひき逃げの犯人が、平(ピン)だと知ってしまう。

宋(ソン)は平(ピン)へ仕返しをすることを決め、徐々に平(ピン)を追い詰めていくが、結局は平(ピン)にばれてしまい、行きつけの店の女性店員を人質にされてしまう。
海辺に呼び出された宋(ソン)は、平(ピン)と最後の対決をする。

だれもが「自分の幸せのため」に生きている。
善と悪は表裏一体。

現在の中国の社会問題(例えば、交通事故の現場を見ても自分が疑われるという理由で助けないなどの悲しい状況)を提起し、下流社会の人が虐げられている現実を真正面から見つめた良い作品。
劇中の音楽も秀逸だったし、機会があればぜひ見てほしい映画だ。

最初は「普通の人」だった主人公が徐々に暴力的になっていく様子は、イラン映画「パルウィズ」でも描写されているが、「目撃者」では最後に少し希望が見える。この部分は監督の「願い」「信じたい気持ち」が込められているように感じた。

また、個人のアイデンティティはともかく、守るべき対象(宋の場合は「家族」)があるか無いかで、暴力の質が違ってくるようにも感じた。

インタビューから、高 則豪監督の真面目な人柄を垣間見ることができ、映画作りへの真摯な姿勢が素晴らしいと感じた。
中国青海青年映画祭 FIRSTは、若手映画監督の作品が出品される映画祭とのことで、毎年7月に開催されているそう。

サインをする高 則豪監督(右)と中国 西寧FIRST青年映画祭プロデューサーの李 子為さん(左)。

福岡に来てくれてありがとう!

字幕協力は、福岡大学人文学部東アジア地域言語学科。
福岡の若者を起用したところも、この映画祭ならでは!

沈黙の夜(トルコ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、5本目は

「沈黙の夜」

★★★☆☆

基本データ:
監督 / レイス・チェリッキ (Reis Çelik)
キャスト / イルヤス・サルマン、ディラン・アクスット、サブリ・トゥタル、マイシュケル・ユジェル
あらすじ
—————————–
トルコの山村に60歳の男が戻ってくる。彼は、家の名誉を守るために母親と愛人を殺害し、長年の刑務所生活を終え、やっと生まれ故郷に帰ってきたのだ。罪を犯してまで家の名誉を守ったこの男を親戚は歓迎し、妻子のいない彼に縁談を持ち掛け承諾させる。しかし、この縁談は彼のためではない。真の目的は、二つの有力な氏族の血で血を洗う決闘に終止符を打つためだった。
初夜、赤いベールを脱いだ花嫁はなんと14歳。そして沈黙の長い夜が始まる。
(公式パンフレットより)

「沈黙の夜(Night of Silence)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

今までの慣習を打ち破ることが出来るのだろうか。
そして未来へ進むことが出来るのだろうか。
トルコ映画の巨匠レイス・チェリッキ最新作。

刑務所帰りの60歳の男と彼に嫁いだ14歳の少女の初夜。
結婚初夜の翌日に、男性側の母親がシーツについた処女の印をチェックするという慣習(嫁は処女だったと言葉でなく伝える、それが一種の名誉なのだろうか)があり、「つとめ」を果たしたことを知らせる銃弾を2発、空に向けて撃たねばならない。
男のほうは夫婦になった「つとめ」を早く果たしたいのだが、少女は色んな方法ではぐらかそうとして、男は少女に翻弄されていく。

物語は、花婿と花嫁の寝室で「二人だけの会話」で進む。
男は少女の要求にこたえ、おとぎ話をする、あやとりもする。
自分の身の上に起きたことを話す。
少女との会話の中で、男が徐々に変わっていくのが分かる。

最後には、少女が「怖い」と言った髭まで剃ってしまう。
中東男性の男性らしさの象徴といってもよい「髭」を剃ることで、男は、少女のために今までの自分とは変わったのだと知らせているように感じた。

そして、夜明けが近づいたとき、覚悟を決めた二人の対照的な姿が目に映る。
少女の覚悟を決めた表情、男の悟りきった表情。
そして「つとめ」を果たしたことを知らせる銃弾の音は1発だけ。
男は自分を殺して少女を生かしたのだろうか。

「赤」と「白」の色使いが映画の世界を際立ったものにしている。
監督によると、赤はこれまで伝統や宗教、習慣といった男性優位社会の犠牲になってきたもの、白は純潔を表現しているのだそう。

最後の雪景色は、真っ白ではなかった。
男が少女のために変わり、少女を生かすことが出来たとして、果たして社会は変わるのだろうか。
中東の女性が置かれてきた悲惨な状況に焦点を当てているだけでなく、男性側の悲劇(氏族間の抗争、名誉の殺人)にも焦点を当てていて、考えさせられる作品だった。

レイス・チェリッキ監督のインタビューで、
花婿役のイルヤス・サルマンは、もともとはコメディアン仕事が嫌になり酒浸りの生活を送っているところを、今回24年ぶりに監督が口説き落として俳優業に復活してもらったそう。
少女役の女優さんの目が素晴らしくきれいで、トルコの部屋の雰囲気、花嫁衣裳など、ビジュアル的にも面白い映画だった。

結界の男(韓国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、4本目は

「結界の男」

★★★★☆

基本データ:
監督 / チョ・ジンキュ (Cho Jinkyu)
キャスト / パク・シニャン(박신양)、キム・ジョンテ(김정태)、オム・ジウォン(엄지원)、チョン・ヘヨン(정혜영)、キム・ソンギュン(김성균)、チェ・イルファ(최일화)、チェ・ジホ(최지호)、キム・ヒョンボム(김형범)
あらすじ
—————————–
舞台は釜山。やくざの幹部グァンホは、組織内の勢力争いで同僚のテジュと激しく対立していた。
ある晩グァンホは、テジュが率いるグループに襲われ負傷する。3日間の昏睡から目覚めたグァンホは、この日を境に不可解な現象に見舞われるようになった。
そこで厄払いのために巫女を訪ねた彼は、思いもよらなかい衝撃的な事実を聞かされる。
グァンホの命は本来襲われたときに尽きる命であったこと、手のひらに傷を負ったために手相が変わり、死を免れたこと。巫女はさらに、彼もまた男巫として生きる運命であり、これを受け入れるよう告げた。
やくざとして生きるか、男巫として生きるか。グァンホの運命は…。
(公式パンフレットより)

「結界の男(박수건달)」

>>> 以下、多少ネタバレあり

さて「結界の男」という邦題について。
Wikipediaによると、結界とは「聖なる領域と俗なる領域を分け、秩序を維持するために区域を限ること」だそう。

原題は「박수건달(パクスコンダル)」で、邦題はちょっと違うみたいですが、
監督にお伺いすると「邦題に使われている【結界】という言葉が重みがあって良いと思う」と仰っていました。

グァンホが、あの世とこの世の「結界」にいるということ、
やくざと男巫の二足の草鞋を履いている、いわば「結界」を行き来しているということ。
個人的には非常に良い邦題なのではないかと思いました。

9/16のチョ・ジンキュ監督のQ&Aでは、
「配給会社にちょっと分かりにくいと言おうと思います」と回答されていたのですが、
私が見たのは9/18だったので、チョ・ジンキュ監督も2日の間に納得しちゃったのかな?

サインをいただきました。
監督自身も、制作の際には数々のジレンマを感じながら制作するそうです。

そして何よりも、熊本市賞 受賞おめでとうございます!!!

スケジュールはこちらをチェック

チョ・ジンキュ監督のQ&Aはこちら

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