sachigra のすべての投稿

果てしなき鎖(フィリピン) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、7本目は

「果てしなき鎖」

★★★★☆

基本データ:
監督 / ローレンス・ファハルド (Lawrence Fajardo)
キャスト / ニコ・アントニオ(Nico Antonio)、アート・アクーニャ(Art Acuna)、バングス・ガルシア(Bang Garcia)、ノル・ドミンゴ(Nor Domingo)
あらすじ
—————————–
マニラでのある一日の物語。
貧民街に育ち、盗みで母親と弟の二人の家族を養うジェス。若い女性グレイスのiPhoneを盗み、売りさばいたまでは良かったが、警察に捕まってしまう。そして、釈放の代償として求められたのは・・・。

「果てしなき鎖(Posas)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

これは出口が見当たらないメビウスの輪なのか。
人間社会の不条理は連鎖し続ける・・・
「アモク」で衝撃を与えたローレンス・ファハルド監督の最新作。

盗みで家族を養うジェス。
今日もいつも通り、グレイスのiPhoneを盗むと、すぐに売りさばき意気揚々と闊歩する。

しかし、彼女のiPhoneには秘密の動画が保存してあり、死んでもそれを他人に見せるわけにはいかないグレイスは、警察に助けを求める。彼女に顔を見られていたジェスは、狙った獲物は逃がさないと言わんばかりの警察官についに捕まってしまう。無罪を主張するジェスだったが、iPhoneを売りさばいたお金が出てきて、言い逃れできない状況に・・・。

一方、どうしてもiPhoneを取り戻したいグレイスは、法にのっとり手続きをするが、にっちもさっちもいかない。
「起訴したら時間もかかる。3回の調停に一度でも休めば不起訴になる。今、不起訴にしたほうがいいかもしれない。iPhoneは見つけたら必ず連絡します。」というドミンゴ警部の言葉にグレイスも頷く。
ジェスを不起訴にしたドミンゴ警部は、彼を連れてiPhoneを取り戻させ、さらには逃げられないように「いつものやり方」でジェスを利用するのだった。

「犯罪者もいれば 法を施行する側もいる 放免される日 彼は自由を失う」

フィリピン警察組織の腐敗ぶりを描いた作品。
ドミンゴ警部の澄んだ瞳は、被害者からは信頼を得そうであり、だからこそ、この腐敗ぶりが怖すぎる。

朝は「盗みをやめて堅気になったら」と言っていた母親が、ジェスが捕まって多額の保釈金が必要と言われたとき「この先どうやって暮らしていけばいいの?」となじる場面は、フィリピンの貧困(貧富の差)の問題の根深さを表わしていて、とにかくどこまでいっても救いがない、目をそむけたくなる現実を突きつけられた。

ジェスとドミンゴ警部の「目」。
それがすべてを物語っているように感じた。

グレイスのように富裕層もいれば、ジェスのような貧困層もいる。
生まれながら背負ってきた運命が「いつか変わる」と信じることが出来れば良いが、負の連鎖は容易く断ち切れないだろうと、諦めにも似た気持ちが湧き上がってくる。

「負」のメビウスの輪は裏も表も繋がっている、まるで出口が見当たらない。
常識が常識ではいそんなフィリピンの悲しい現実、そして日常。
(ちなみに腐敗認識指数、フィリピンは129位とかなり腐敗している模様)

ローレンス・ファハルド監督によると、なんと牢獄や警察署などはすべて実在の建物で撮影したそう。
カメラワークも秀逸で、特にドミンゴ警部役のアート・アクーニャ氏の名演技にやられること間違いなし。
サスペンス的な部分ばかりではなく、ちょっと笑えるシーンもあり。
札束詐欺に合う男性が、ロッキーホラーショーの古田新太に見えたのは私だけ?

92分という短さでこの濃さ。
機会があればぜひ見ていただきたい映画です。

「間に合ったぜ、へへへ!ロックンロール、福岡!」と言っていた
ローレンス・ファハルド監督のQ&Aはコチラ!

目撃者(中国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、6本目は

中国青海青年映画祭受賞作品 FIRST「目撃者」

★★★☆☆

基本データ:
監督 / Zehao Gao (高 則豪)
キャスト / ジャック・カオ 他
あらすじ
—————————–
主人公の宋(ソン)は妻と二人で小さな飲食店を切り盛りしていたが、レストランのオーナー平(ピン)への借金返済に苦しんでいた。ある晩、友人と行きつけの店で飲んでいた宋は、ひき逃げの現場に遭遇し、事故の“目撃者”になる。ある偶然からひき逃げ犯人の正体を知った宋は、思いがけない行動にでる・・・

中国青海青年映画祭受賞作品 FIRST「目撃者」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

見て見ぬふりは我が身を助けるのか。
すべては「幸せのため」と言い切れるのか。
中国が発展を続ける中での下流社会の人達の生活を描いた作品。

主人公の宋(ソン)は、ひき逃げ事故の「目撃者」となる。
宋(ソン)は、被害者を助けようとするが、その甲斐なく被害者は死んでしまう。

自分が疑われるからと被害者を病院の前に捨て、「見て見ぬふり」をし、いつもの生活をようと決めた宋(ソン)。しかし、被害者は行きつけの店の女性店員の彼氏だったことを知る。
しかも彼女は妊娠していた。

複雑な思いを抱えながらも、日々の生活で精いっぱいの宋(ソン)。
店はオーナー平(ピン)への借金返済で火の車。手下にいじめらえる毎日。
そんなとき、宋(ソン)はひき逃げの犯人が、平(ピン)だと知ってしまう。

宋(ソン)は平(ピン)へ仕返しをすることを決め、徐々に平(ピン)を追い詰めていくが、結局は平(ピン)にばれてしまい、行きつけの店の女性店員を人質にされてしまう。
海辺に呼び出された宋(ソン)は、平(ピン)と最後の対決をする。

だれもが「自分の幸せのため」に生きている。
善と悪は表裏一体。

現在の中国の社会問題(例えば、交通事故の現場を見ても自分が疑われるという理由で助けないなどの悲しい状況)を提起し、下流社会の人が虐げられている現実を真正面から見つめた良い作品。
劇中の音楽も秀逸だったし、機会があればぜひ見てほしい映画だ。

最初は「普通の人」だった主人公が徐々に暴力的になっていく様子は、イラン映画「パルウィズ」でも描写されているが、「目撃者」では最後に少し希望が見える。この部分は監督の「願い」「信じたい気持ち」が込められているように感じた。

また、個人のアイデンティティはともかく、守るべき対象(宋の場合は「家族」)があるか無いかで、暴力の質が違ってくるようにも感じた。

インタビューから、高 則豪監督の真面目な人柄を垣間見ることができ、映画作りへの真摯な姿勢が素晴らしいと感じた。
中国青海青年映画祭 FIRSTは、若手映画監督の作品が出品される映画祭とのことで、毎年7月に開催されているそう。

サインをする高 則豪監督(右)と中国 西寧FIRST青年映画祭プロデューサーの李 子為さん(左)。

福岡に来てくれてありがとう!

字幕協力は、福岡大学人文学部東アジア地域言語学科。
福岡の若者を起用したところも、この映画祭ならでは!

沈黙の夜(トルコ) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、5本目は

「沈黙の夜」

★★★☆☆

基本データ:
監督 / レイス・チェリッキ (Reis Çelik)
キャスト / イルヤス・サルマン、ディラン・アクスット、サブリ・トゥタル、マイシュケル・ユジェル
あらすじ
—————————–
トルコの山村に60歳の男が戻ってくる。彼は、家の名誉を守るために母親と愛人を殺害し、長年の刑務所生活を終え、やっと生まれ故郷に帰ってきたのだ。罪を犯してまで家の名誉を守ったこの男を親戚は歓迎し、妻子のいない彼に縁談を持ち掛け承諾させる。しかし、この縁談は彼のためではない。真の目的は、二つの有力な氏族の血で血を洗う決闘に終止符を打つためだった。
初夜、赤いベールを脱いだ花嫁はなんと14歳。そして沈黙の長い夜が始まる。
(公式パンフレットより)

「沈黙の夜(Night of Silence)」

>>> 以下、ネタバレあり <<<

今までの慣習を打ち破ることが出来るのだろうか。
そして未来へ進むことが出来るのだろうか。
トルコ映画の巨匠レイス・チェリッキ最新作。

刑務所帰りの60歳の男と彼に嫁いだ14歳の少女の初夜。
結婚初夜の翌日に、男性側の母親がシーツについた処女の印をチェックするという慣習(嫁は処女だったと言葉でなく伝える、それが一種の名誉なのだろうか)があり、「つとめ」を果たしたことを知らせる銃弾を2発、空に向けて撃たねばならない。
男のほうは夫婦になった「つとめ」を早く果たしたいのだが、少女は色んな方法ではぐらかそうとして、男は少女に翻弄されていく。

物語は、花婿と花嫁の寝室で「二人だけの会話」で進む。
男は少女の要求にこたえ、おとぎ話をする、あやとりもする。
自分の身の上に起きたことを話す。
少女との会話の中で、男が徐々に変わっていくのが分かる。

最後には、少女が「怖い」と言った髭まで剃ってしまう。
中東男性の男性らしさの象徴といってもよい「髭」を剃ることで、男は、少女のために今までの自分とは変わったのだと知らせているように感じた。

そして、夜明けが近づいたとき、覚悟を決めた二人の対照的な姿が目に映る。
少女の覚悟を決めた表情、男の悟りきった表情。
そして「つとめ」を果たしたことを知らせる銃弾の音は1発だけ。
男は自分を殺して少女を生かしたのだろうか。

「赤」と「白」の色使いが映画の世界を際立ったものにしている。
監督によると、赤はこれまで伝統や宗教、習慣といった男性優位社会の犠牲になってきたもの、白は純潔を表現しているのだそう。

最後の雪景色は、真っ白ではなかった。
男が少女のために変わり、少女を生かすことが出来たとして、果たして社会は変わるのだろうか。
中東の女性が置かれてきた悲惨な状況に焦点を当てているだけでなく、男性側の悲劇(氏族間の抗争、名誉の殺人)にも焦点を当てていて、考えさせられる作品だった。

レイス・チェリッキ監督のインタビューで、
花婿役のイルヤス・サルマンは、もともとはコメディアン仕事が嫌になり酒浸りの生活を送っているところを、今回24年ぶりに監督が口説き落として俳優業に復活してもらったそう。
少女役の女優さんの目が素晴らしくきれいで、トルコの部屋の雰囲気、花嫁衣裳など、ビジュアル的にも面白い映画だった。

結界の男(韓国) – アジアフォーカス福岡国際映画祭2013 –

アジアフォーカス福岡国際映画祭2013、4本目は

「結界の男」

★★★★☆

基本データ:
監督 / チョ・ジンキュ (Cho Jinkyu)
キャスト / パク・シニャン(박신양)、キム・ジョンテ(김정태)、オム・ジウォン(엄지원)、チョン・ヘヨン(정혜영)、キム・ソンギュン(김성균)、チェ・イルファ(최일화)、チェ・ジホ(최지호)、キム・ヒョンボム(김형범)
あらすじ
—————————–
舞台は釜山。やくざの幹部グァンホは、組織内の勢力争いで同僚のテジュと激しく対立していた。
ある晩グァンホは、テジュが率いるグループに襲われ負傷する。3日間の昏睡から目覚めたグァンホは、この日を境に不可解な現象に見舞われるようになった。
そこで厄払いのために巫女を訪ねた彼は、思いもよらなかい衝撃的な事実を聞かされる。
グァンホの命は本来襲われたときに尽きる命であったこと、手のひらに傷を負ったために手相が変わり、死を免れたこと。巫女はさらに、彼もまた男巫として生きる運命であり、これを受け入れるよう告げた。
やくざとして生きるか、男巫として生きるか。グァンホの運命は…。
(公式パンフレットより)

「結界の男(박수건달)」

>>> 以下、多少ネタバレあり

さて「結界の男」という邦題について。
Wikipediaによると、結界とは「聖なる領域と俗なる領域を分け、秩序を維持するために区域を限ること」だそう。

原題は「박수건달(パクスコンダル)」で、邦題はちょっと違うみたいですが、
監督にお伺いすると「邦題に使われている【結界】という言葉が重みがあって良いと思う」と仰っていました。

グァンホが、あの世とこの世の「結界」にいるということ、
やくざと男巫の二足の草鞋を履いている、いわば「結界」を行き来しているということ。
個人的には非常に良い邦題なのではないかと思いました。

9/16のチョ・ジンキュ監督のQ&Aでは、
「配給会社にちょっと分かりにくいと言おうと思います」と回答されていたのですが、
私が見たのは9/18だったので、チョ・ジンキュ監督も2日の間に納得しちゃったのかな?

サインをいただきました。
監督自身も、制作の際には数々のジレンマを感じながら制作するそうです。

そして何よりも、熊本市賞 受賞おめでとうございます!!!

スケジュールはこちらをチェック

チョ・ジンキュ監督のQ&Aはこちら

[amazonjs asin=”B00HESXBHU” locale=”JP” title=”結界の男 DVD”]